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◆食いしん坊転生者が食卓の聖女と呼ばれるまで◆  作者: ナユタ
◆熟練度・後期◆

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★25★ ベントウ通信。


 呪いの言葉を弱り切った身体で吐き続けていた母も、最近では眠る時間の方が多くなり、責められることは徐々に減っていた。


 それでも決して心が軽くなるわけではない母の病室で一日の大半を過ごすものの、昼頃になるとガーランド経由で送られてくる小包を受け取る。


 何でできているのかは不明だが、朱色の地に白い花の絵が描かれた弁当箱の上に載せられた封筒の封を切る。中には三枚の便せんが入っていて、そのうちの一枚目に視線を走らせた。


 “今日のメニューは前回のお肉まみれな茶色いメニューじゃなくて、お肉と野菜のバランスを考えましたよ。”


 本人の見た目のわりに留めと跳ねがしっかりした几帳面な文字で、頭の緩い文面が綴られていた。便せんをたたんで弁当箱の蓋を開けると中から食欲を刺激する香りがして、隣で丸くなっていたシュテンが尻尾を振りながら膝に頭をのせる。


「鼻が利くな。オマエの分もちゃんと入ってるぞ」


 堅く燻されて角材のようになったベーコンを三本と、チーズに塩気を抜いたナッツを練り込んだものが二本。ひとまずベーコンを咥えさせてやると、無理やり人の膝に頭を乗せたままかじり始めた。涎が服に染み込むが、気にせず鼻の頭を掻いてやりながら自分の分に視線を落とす。


 前回も入っていて旨かったチーズに香草やラム酒漬けを使ったものに、卵を幾重にも折りたたんだもの、何か根野菜と牛肉をトマトソースで炒めたものに混じり、冒険中に食べた料理がいくつか詰め込まれた弁当箱は、今日も今日とて賑やかだ。


 二枚目の便せんには、ご丁寧に食べたことのないメニューのレシピが載っている。ちゃんと自炊しろということだろうが、材料を見るにつけて絶対にできねぇだろうと苦笑が浮かんだ。


◆◇◆


 ★使用する材料★


 人面草の根    (※ゴボウ)

 牛肉       (※切り落とし)

 バター

 ニンニク     (※チューブのでOK)

 ウスターソース

 トマトソース   (※ケチャップ)

 水

 砂糖、塩胡椒


◆◇◆


 “人面草の根を細めの千切りにして、水にさらして灰汁を抜きます。さらしすぎると栄養素がなくなっちゃうので注意して。ニンニクは一欠の半分を潰して、もう半分は刻んでおいて下さい”


「いや、そもそも人面草ってなんだよ……食って大丈夫なのか、それ」


 “次に水、トマトソース、ウスターソース、砂糖を混ぜ合わせておきます。水はあんまり多く入れると味が薄くなるので、最初は少なめで。あとで材料と炒めるときに様子見しながら入れて下さい。”


「分かっちゃいたが人面草の説明は一切なしか。どんな顔してんだ上の部分についてたやつは。次は絵も描くように頼んで……いや、食欲失せそうだな」


 “熱した小鍋にバターを溶かして、ニンニク、水切りした人面草の根、牛肉の順番で加えて塩胡椒。根がふにゃっとしたら、合わせておいた調味料を全部入れて少し水気を煮飛ばすように炒めて。辛かったらここで水を足して下さい。お皿に盛り付ければ完成。”


「ん、割と簡単なくせに旨いな。こんなときでもなけりゃ酒を飲みたいとこだが、今は不謹慎な発言か」


 シュテンが膝の上でベーコンをかじりながら、独り言を言いつつベントウを摘む俺を上目遣いに見上げた。アカネから届くおかしな内容の多い手紙につい突っ込み癖がついてしまったが、シュテンがいるのだからまだ完全な独り言ではないと自分に言い訳する。


 この奇妙なやり取りが始まったのは、一週間前に手引きされて忍び込んだ王城で行われた式典の翌日からだ。


 面倒ごとを呼び込む体質のアカネは、あの夜も俺を追いかけてくる前にその才能を発揮していたらしく、今は王城で毒物を混入した犯人捜しと、使われた毒の特定に手を貸しているという。


 勝手な真似はするなと釘を刺したその舌の根も乾かないうちに、いきなり約束を破るとは流石に考えつかないだろう、普通。


 翌日この別邸に訪ねてきたガーランド達の口からその話を聞かされたときは頭を抱えたものの、そのときに手渡されたベントウ箱と手紙に手を貸すに至った経緯が綴られてあり、最後に“事後承諾になってしまってごめんなさい”という一文が添えられてあった。


 正直あの一文がなければすぐにでも王城に潜入し直して、アカネを攫って逃げようかと本気で思ったに違いない。だがあの夜のお粗末な手引きをウィルバートが気付かないはずもなく、できた義弟はアカネの前に顔を出さない限り、手紙のやり取りには目をつぶってくれるつもりのようだ。


 おまけにこのベントウ箱は帰巣本能でもあるのか、半日から一日もすると姿を消す。最初の手紙にそう書かれていたときも、ガーランド達から口頭で教えられたときにも信じてはいなかったが、確かに半日ほどで姿を消した。


 なので二度目のやりとりからは、短い手紙の返信を蓋に張りつけて放置することにしている。何が特に旨かったか、シュテンが喜んでいた、そういう程度の内容にもかかわらず、次に送られてくるベントウ箱には前回特に旨かったと記したものが入っていた。


 三枚目の便せんには毎日三食陛下と同じものを食べ、食べたものを記録して食材を書き出す作業に時間を割くせいで、家政ギルドの仕事は今や二日おきに制限されたことや、料理人達と給仕係達の関係がギスギスしていて怖いことなど、アイツの身の回りのできごとが綴ってある。


 どれも些細なことばかりで傍にいれば何とかしてやれそうなことだ。アカネが真理に辿りつけなくてもいい。危険な目に合わないうちに、早くこの場所から自由になりたいと思う親不孝な俺の背に、目を覚ましたらしい母の恨み言が届く。


 その声にそれまで飼い主によく似た野生のない表情をしていたシュテンが、鼻の頭に皺を刻んで低くうなり声を上げた。


「大丈夫だシュテン。返事を書く時間も食べる時間もまだある」


 分厚い頭骨をコツコツと叩いてから鼻先を撫でれば、途端に子犬のように「ひゅーん」と鳴く。その頭を膝から退けて立ち上がる前に、便せんの最後に定型文として添えられた一文に視線を走らせる。


“お弁当箱が空っぽになって返ってくるのを楽しみにしています”


 それを見て「分かってるって」と口をついて出てくる独り言に苦笑しつつ、一品摘んで口に入れたら、まだあの声にも堪えられるだろう。

今回のはスーパーで売ってる笹がきゴボウを使えば簡単にσ(´ω`*)


その場合はゴボウを水でさっと洗ってから、

お肉と一緒に短い時間で炒めて下さいませ(※ゴボウの歯ごたえが失われるので)


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