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◆食いしん坊転生者が食卓の聖女と呼ばれるまで◆  作者: ナユタ
◆熟練度・中期◆

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39/86

◆幕間◆ギルド受付嬢と女性店主の話。


 お店のお昼休憩の時間に無理言って入れてもらってごめんね。この人が急に窓口で“この町で一番美味しい料理を出すお店はどこですか?”って聞くものだから、咄嗟についここが出ちゃって。冒険者ギルドの管轄じゃないって言って一回は断ったんだけど、この町は商工ギルドの態度が悪いでしょう?


 あー……商工ギルドね、うん。別に良いわよ。幼なじみに推薦されたから、いつも以上に気合いが入ったもの。あら……まぁ、そんなに褒めて頂けるなんて、お客様のお口にお合いしたようで良かったですわ。


 そう言ってもらえて助かるよ。でもまさかこの人が同じ料理をお代わりするとは思わなかったけど。綺麗な顔とテーブルマナーをして結構食べるんだもの、びっくりしたわ。午後からの仕込みに材料足りる?


 それなら心配ないわ。このお料理は最近憶えたばかりなのにとても人気だから、材料は多目に仕入れてあるの。ほら貴女と盛り上がった、少し変わった兄弟がレシピを売ってくれたお話。


 ああ、あの話ね。担当したのはワタシじゃなくて隣の窓口だったけど、たぶんうちに登録にきてくれた兄弟と一緒だって盛り上がった二人でしょう? あの年頃で兄弟一緒って珍しいから、ここにきた二人と同一人物だと面白いわよね。


 ――……お、お客様?


 ちょ、びっくりした……急に大きな音立ててどうしたのよ。それも会話の途中に急にくたびれた雑誌をテーブルに置くなんて、ここは冒険者ギルドの窓口じゃないのよ旅人さん。はぁ? これを見てくれって?


 ごめんなさい、ちょっと大きな音だったからびっくりしたの。それに休憩時間中だから大丈夫よ。ほら見て【海と鴎の街ポートベル観光案内】ですって。あちらだと貿易が開けているからこういうものも刊行できるのかしら。こっちと違って自由な気風で素敵ねぇ。 


 何であなたが謝ってるのよ。悪いのはこっちの旅人さんでしょう。ホント昔から暢気で人が良いんだから。


 うふふ、褒めてくれてありがとう。


 別に褒めてないわ。ただの事実だもの。それで、どの記事を読めば良いの? まさかこの新婚さんのレストランの話じゃないでしょうね――って、そのまさかなの? 勘弁してよ、こっちは別れたとこなのに。人の幸せな記事とかキツいわ。


 あら、あの冒険者の男と別れたのね。あの人と貴女はちっともお似合いじゃなかったから良かったわ。


 ええ……いきなりの全否定じゃない。滅多にそんなこと言わないのにどうしたの。


 だってあの人、この間うちの店に違う女の子と一緒にきて“君みたいな素敵な女性は初めて見たよ”って口説いてたのよ? だから私もお料理をテーブルに運んだ時に“それは変ね。私の幼なじみも素敵だって口説いたのでしょう?”って正してあげたの。


 アハハ、ありがとね! ちなみにその後どうなったの?


 彼女も冒険者だったみたいで、私にあの男が“デタラメ言うな!”って掴みかかろうとしてきたところを、思いっきりぶん殴って助けてくれたの。おかげであいつ、顔に拳の痕をつけて逃げ帰ったわ。彼女モンクだったのよ。


 やだ、最高! 何そのザコっぷり。


 そうね、とんだザコだったわ。だから貴女もこれからは、外の世界を知っている男前って理由だけで恋人を選ぶのは止めなさいね? 


 ――……肝に銘じときます。


 はいよろしい。それと放置してしまってすみませんお客様。こちらの記事のお話でしたわね。お客様のお知りになりたいことで答えられることがあれば良いのだけれど。


 そうそう、こんな幸せそうな記事を持ち出してきたりして、旅人さんはこの記事の何を聞きたいの?


***


 うーん……残念ですけれど、うちのお店と今まであの方達が立ち寄られたお店に明確な類似点はないように思いますわ。


 最初は一人でやっているお店を選んでいるのかと思ったけど、ポートベルではこのお店の娘さんも一緒に習ったみたいだし、娘さんと結婚した漁師の旦那さんも、この兄弟については何にも知らないみたいだものね。


 それにあの方達は旅をすることがお好きなようでしたし、私がお話を聞かせてもらった内容ではそういったことは言われませんでしたわ。そもそもここに書かれているご兄弟という確信も持てません。うちにいらしたご兄弟は従魔をつれていましたから。


 あ、冒険者ギルドの職員として個人情報については黙秘します。だいたい先回りしてあの兄弟を捕まえたいっていうのもそっちの都合でしょ。売りに出してるレシピは確かにこの国のものじゃないし美味しいけど、この二人にそこまでこだわる理由があるかしら?


 それはあるにはあるわよ。料理人にとって新しいレシピは魔導師の魔導書と同じくらい貴重なものだわ。新しいものがあるなら是非憶えてみたいし、作ってみたくなるものなのよ。


 ふぅん。でも何にしても少し夢のある話よね。一店舗につき一つだけレシピを教えて去っていくだなんて、まるで妖精みたい。しかも立ち寄るお店は有名店でもないし、その全部が人気を集めて有名になるんだから。


 そうね。もしもアクティア中にこの兄弟の噂が広まれば、うちもメニューに【妖精兄弟直伝】って載せてみようかしら。


 ……それはちょっとお花畑の人みたいだから止めた方が良いんじゃない?


 だけどこちらのお客様みたいに、この二人が売りにきたレシピの虜になった観光客が増えるかもしれないわよ? そうしたら、商工ギルドの頭の固い人達にだけ大きな顔をされなくなるかもしれないわ。


 でもそれで冒険者ギルドが今より忙しくなったりしたら、ますますワタシがここの新メニューを食べられる機会が減っちゃうし、もしもお客の中であなたに一目惚れする男が出たら、私情挟みまくりでギルドの個人情報使って身辺調査する自信がある。


 そうなったら面白そうだけど……大丈夫よ。この町は今までだってずっと化石みたいに静かな町だったじゃない。これから先もきっとそうよ。


 もう少し新しい風が吹き込んで、商工ギルドの連中が牛耳ってる現状がマシになればいいのにね。


 本当にそうね……って、貴女もうそろそろ休憩時間が終わるんじゃないかしら?


 あーあ、本当だ。それじゃあこの旅人さんも一緒に連れて行くね。あんまり期待はできないけど、一応うちのギルドの掲示板に捜索依頼書を貼ってあげるから。ほら、行くよ。

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