表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

朽ちていく男

作者: 光が丘 新
掲載日:2020/01/01

 三日ほど前から、私の足は腐り始めている。放っておいた糖尿病が悪化したのかもしれないが原因は分からない。もう右足の膝から下は何の感覚もなく、私の足はただただ腐臭を放つだけの代物となってしまった。


 しばらくすると、今度は左足が、そして次は両腕までも腐り始めた。四肢が腐ってしまうとすこぶる不便なので困ったものだが、これもすべて私自身が長年不摂生を重ねてきた結果なのだろう。


 私は()()()()()なので、事実をありのままに受け入れるのは割りと得意である。今も、この腐りゆく自分を案外冷静に受け入れてしまっている。一度受け入れてしまえば後は気楽なものだ。


 それに腐っていくのは何も悪いことばかりではない。まず、腹が減らなくなった。右足が腐り始めた時点では、朝、昼、晩と当たり前に腹が減っていたが、両腕が腐り始める頃には食欲がまったく無くなった。また、両足も両腕も腐ってしまったので洋服も靴もいらない。この頃は暑さ寒さも感じなくなって、1年を通して不快な気候は皆無となった。おかげで光熱費など一切かからない。


 だが、たまらなく嫌なのはこの臭いだ。右足が腐り始めたときは、足と鼻を遠ざけることで、臭いを緩和することができたが、最近は身体の内側から臭いが噴き出してくるように感じる。


 やがて、蝉がうるさい夏や、雪に閉じ込められる冬を何度か越えたとき、ようやく「ポロッ」と鼻が腐り落ちた。これであの臭いから解放される、そう思うと気持ちがとても軽くなった。そのうち耳も腐り落ちたのでうるさい夏の蝉声からも解放され、次に目も腐り落ちたおかげで見たくないものを見ないですむようになった。


 これで、私にとって残った憂鬱はたった一つだけ、今日も私の頭をコンコンとつつくカラスの存在だけだ。まだ私の足が腐り始めたばかりのころから毎日やって来ては私の頭をつつく。これさえなければ私を悩ますものは何もなくなる。


 それから、何度かの季節が巡ったころ、いつものカラスが私の頭をつつくと、ふいに「カランカラン」と音をたてて、私の頭蓋骨が太い木の根元に転げ落ちた。驚いたカラスはカーカーと鳴きながら深い森のなかに消えていった。


 ああ、これで私は最後の憂鬱からも解放されたのだ。木々の間から射し込む穏やかな日差しが私を優しく照らしている。頭蓋骨になった私は心から安堵し、ゆっくり眠りについた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 通りすがりですm(__)m 読みやすい文章でした! 自分が朽ちていくのを感じるのは、辛いですね。
2020/01/02 17:34 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ