第92話 女なんて利用するもの。一瞬の快楽のために、ただ一緒にいるだけだ…(5)
それからのジュリアの諜報員活動。
ジュリアは、次第に男の扱い方に慣れ、少しは目標に近付くこともうまくなった。
男なんて、かわいい仕草とかわいい声。
それだけで、すぐに鼻の下を伸ばして、寄ってくる。
ジュリアが近付くと、みんな優しいフリをして、チヤホヤしてくれた。
でも・・・。
それはすべてうわべだけだった。
見せかけだけの優しさ、愛情。
その証拠に、男たちは最終的には、みんな我が身かわいさに逃げ出してばかりだったのだから。
誰ひとり、ジュリアを守るために戦ってくれる男などいなかったのだから。
「私は虚無のシーラに送り込まれた諜報員。シーラは、あなたのことを狙っている。だから、一緒に逃げましょう。お願いだから、私と一緒に逃げて!2人でどこか遠い場所で、静かに暮らしましょう」
ジュリアはどんな任務のときにも、最後に相手にこう伝えた。
でも、誰ひとり、ジュリアと一緒に逃げてくれる男はいなかったのだ。
ジュリアは、いつでもひとりぼっちで、来ない相手を待ち続けることになった。
別に目標のことが好きなわけではなかった。
それでも、ジュリアは探し続けた。
虚無のシーラ。
その名前を聞いてもなお、こんな自分と一緒にすべてを投げ出して、逃げてくれる男を探し続けた。
でも、結果はいつも一緒だった。
誰ひとり、ジュリアを迎えにくる人なんていない。
ジュリアの頭からは、シーラの言葉が離れなかった。
「女なんて、利用するもの。一瞬の快楽のために、ただ一緒にいるだけだ。男はみんなそう考えている」
それが真実なのかもしれない。
本当にそうなんだ・・・。
いつしかジュリアは信じ始めていた。
あまりにたくさんの男に裏切られ続けたせいで、ジュリアはもうこれ以上考える気力を失っていた。
男なんて、みんな一緒だ。
女は利用するもの。
一瞬の快楽のためだけに、ただ一緒にいるだけなのだ・・・。
シーラの言葉を、完全に信じ始めたジュリアがそこにはいた。
ジュリアを置き去りにして、逃げ出したり、そのまま居座ったりした目標の男たちは、不審な死をとげることが多かった。
もちろん、シーラの仕業だ。
そして、いつしかジュリアのことを人々はこう呼ぶようになった。
「死神のジュリア」
勝手に呼べばいい。
そもそも彼らは死ぬべき人間なのだ。
だって、初めは鼻の下を伸ばして、近付いてきたくせに、いざとなったらみんなみんな逃げ出すんだから。
もう男なんて誰も信じない。
いや、最初から信じていなかったのかもしれない・・・。
少し自暴自棄になっていた。
そんなときだった。
シーラが次の目標をジュリアに持ちかけてきたのは・・・。
「透明のロミー」
まだ幼くも見える彼は、ウルトラレアカードの実力を持つ少年だという。
そんな肩書きはどうでもよかった。
相手に興味すらなかった。
私にとっては、ただの任務。
女なんて利用するものだと思い込んでいる、すべての男に天誅をくだすこと。
それが私の仕事なのだから・・・。
でも・・・。
ロミーは、今までにジュリアが会った他のどんな男とも違ったのだ。
彼はあまりにも透き通った瞳をしていた。
彼はいつでも自分のことなんてそっちのけで、ジュリアのことばかり考えてくれた。
そして・・・ロミーはいつも一生懸命だった。
ジュリアのためには、どんなときでも、いつも一生懸命だった。
ロミーも「女は利用するもの」、そんなことを考えている?
いや、そんなことはない。
そんなはずがない。
いつしかジュリアはロミーを信じていた。
好きになっていた。
いや、最初から好きだったのかもしれない。
だって、ロミーのあの透き通った瞳。
それは町の未来を信じて、ひたすら熱く語っていたあのアイザックと同じだったから。
最初にロミーに出会ったあの瞬間から、自分はきっと運命を信じていたのだ。
ジュリアはそう思った。