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第89話 女なんて利用するもの。一瞬の快楽のために、ただ一緒にいるだけだ…(2)


 ある日、ジュリアはシーラに呼び出された。

 ワーレンの城。

 そこでシーラは、港での貿易品やその量。入港する船、頻度など、貿易に関することを、事細かにジュリアに聞いてきた。

 そのころには、すでに港での管理事務を一手に担っていたジュリア。

 シーラの細かい質問にも、すらすらと答えることが出来た。


 ひととおりの質問が終わって、満足した表情のシーラ。


「なるほど。あの港には、それほど多くの商品が、レオネシアのあちこちから集まってくる、ということだな」


「そのとおりです。町はまだまだ発展します。いずれはこの国の、いや、この大陸を代表する港になるでしょう」


 ジュリアは明るい顔でこたえた。

 でも、シーラは意外なことを言ったのだった。


「よく分かった。それなら、これからはあの港の管理は、国が行うようにする」


 それは、ジュリアがまったく予想もしていないことだった。


「えっ?」


「そんなに驚くことはないだろう。あの港は、町のものであると同時に、このワーレンの国のものでもあるんだ。国が管理するようになれば、手数料や管理費、将来的には税金まで、莫大な利益を上げることが出来る」


「でも、そうしたら町の人々はどうなるのですか?」


「別に何も変わらない。今まで通り、働いてもらえばいい。ただ、手数料や管理費、税金などはすべて国が徴収するようになる、というだけのことだ」


 こともなげに話すシーラ。


 そんな・・・。

 あの町は、港からの利益を使って繁栄している。

 いろいろな建物や施設、それはすべて港からの貿易で得られる手数料などで作られているのだ。

 その手数料を国に取り上げられたら・・・。


 今のような繁栄は望めない。

 町の人々は、国のためにただ働かされる奴隷へと成り下がってしまう。

 それに、アイザックはどうなってしまうのか?

 アイザックのもとで団結しているからこそ、今の町と港は繁栄しているというのに。


「そうなったら、町は衰退してしまいます。今の状態だからこそ、町も港も繁栄を続けているんです」


 ジュリアに出来る、精一杯の反論。

 でも、シーラは取りつく島もなかった。


「その繁栄は、国の繁栄へと結びつけなければ意味がない。たった今、お前が言ったんじゃないか。あの港はまだまだ発展すると・・・。それなら、今のうちに国のものとして、国の発展に役立てるべきだろう」


 ジュリアは唇をかんだ。

 シーラは最初から、すべてを決めていたのだ。

 ジュリアの言葉に耳を貸そうともしない。


 それからシーラは少し声を低くして、深刻な表情でジュリアに言った。


「忘れていないだろうな。お前の任務はアイザックに近付くこと。アイザックに近付いて、お前の言うとおりに操れる・・・ようにしておくこと。だから、お前の次の任務。それはアイザックに、港の権利をすべて、国へと譲るように仕向けること」


 シーラの言葉に息をのむジュリア。


 考えても見なかった。

 町から港の利権を取り上げろ。

 それもアイザックにそうするように仕向けろ。

 シーラはそう言っていた。


「無理です。絶対に不可能です。もう町はすでに、あの港を中心に動いています。町の人々が、そんな提案を受け入れるとは思えません。しかも、アイザックがいます。彼がそんな提案を認めるはずがありません」


「だからこそ、お前がいるんだろう。お前の役割は、アイザックをうまく使って、町の港を国へと譲り渡すように仕向けること。方法は問わない。弱みでも握っているのなら、脅迫でもいい。うまく誘導できるなら、それでもいい。色仕掛けでもかまわない」


 ジュリアには、なにかの冗談のようにしか聞こえなかった。

 でも、目の前のシーラの表情は、真剣そのものだった。


 私がアイザックから、あの町から港を取り上げる?

 そんな方法が思い浮かぶはずがなかった。

 いや、考えたくもない。


 しばらくの間、沈黙が続いた。

 シーラと目を合わせるのが恐くて、ジュリアはうつむいたままだった。

 そんなジュリアに、シーラは断定するように言い放つ。


「期限は1週間。そのあいだに、お前は港が国の管理になるように、話を付けること」


「もしも・・・もしも、私にそれが出来なかったら?」


 弱々しくジュリアが聞いた。


「そのときには力付くでも、私がなんとかする。そうだな・・・。例えば、アイザックには消えてもらう。そうすれば、港の実権はすべてお前のものになるんじゃないか?だって、今、港を取り仕切っているのは、お前なんだから。そうすれば、国の管理にすることも簡単だろう」


 それはジュリアにとっては、まるで死刑宣告のような、絶望的な言葉に思えた。



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