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第82話 人がいつまでも若くいられるのか、それとも年老いてしまうのかなんて、自分の気持ちの持ち方ひとつで決まるんですから!


 屋敷に戻っても、相変わらず、にぎやかなレニーたち。

 一方で、ロミーはもちろん、ゼノも表情は暗かった。

 深刻な表情で、なにか考え込んでいることが多くなった。


 そのゼノが、真面目な表情でレニーに話しかけてきた。


「レニーさん、少しお話があるのですが・・・」


「なんですか?」


「実は・・・この間の盗賊、レニーさんはあれを軍隊だと言いました。私もそう思います」


「そうですね。僕も、それで間違いないと思っていますが」


「そうだとしたら、この町の魔法石の鉱山を、私たちが守っていてもいいのだろうか?もっと言えば、私とロミーのたった2人で、これからもこの町を、守り続けていけるのだろうか?そう思ったのです」


 レニーには意外な言葉だった。


「どうしてですか?これまでも、ゼノさんとロミーさんは、ずっとこの町を守ってきたじゃないですか?どうして急に弱気になったんですか?」


「いいえ、今回でさえ、なんとか守りきれたのは、レニーさんたちのおかげです。すべてレニーさんたちの力だった、と言ってもいい」


「そんなことありませんよ。もしもロミーさんとゼノさんが2人そろっていたら、ちゃんと守り切れたはずですよ」


「でも、これからもずっとずっと守り続ける・・・それは難しいことだと思うんです。私も、もう年です。どんどん体も動かなくなる。それにロミーだって、常に元気でいられるとは限りません。病気になることもあるでしょう。それに・・・」


 ゼノは黙って、横目でロミーの方をちらっと見た。

 ロミーは生気のない顔で、窓からボーッと外を眺めていた。


 ゼノの言いたいことは分かった。

 あの調子のロミーでは、あてに出来ないかもしれない。

 そう言いたいのだろう。


「それでも、これまでお2人で、この町を守り続けてきたことは事実なんです。大丈夫、これからもきっと守り続けられますよ。そうでなければ、他にどんな方法があると言うんですか?」


 ロミーは努めて明るく答えた。

 でも、ゼノは意外な答えを返した。


「そのことです。相手は軍隊です。もうこの町を、個人的に守っていくようなことは難しくなってきた。だから、こちらも軍隊を用意すればいいと思ったのです。残念ながら、この町タナシスは小さすぎて、軍隊など作れません。でも、レニーさんの国、アスカルトには軍隊もある。5年前、あのダーラ帝国すら追い返した、力強い軍隊があります」


「・・・・・・」


「もちろん、ただで軍隊をよこせなどと言いません。例えば、この町の魔法石によって儲かった金額の2割をアスカルトに渡す。あるいは、いっそのことアスカルトが、このタナシスの町を占領・・・と言うと言い方が悪いのですが・・・併合してしまえばいいのです」


「ゼノさん、本気ですか?」


 ゼノの大胆な提案に、レニーが驚いてしまった。


 確かに、アスカルトにとっては魅力的な提案だった。

 ここタナシスの良質な魔法石による莫大な利益。

 アスカルトが、そのうちいくらかでも、手に入れることが出来るようになる。

 国は富み、裕福になるだろう。

 さらに町ごと併合するとなれば、すべての魔法石の権利さえ、手にすることが出来るのだ。


 アスカルトにとっては得しかない。

 破格の条件。

 チャンスと言ってもよかった。


 でも・・・。

 それでも・・・。

 レニーには首をたてに振ることが出来なかった。


「ゼノさんはそれでいいんですか?本当にそれでいいんですか?この町タナシスは、ゼノさんとロミーさんの力で、ここまで栄え続けてきたんです。お2人が守り続けてきたからこそ、今のこの町があるんです。それなのに・・・たとえ僕の国、アスカルトと言えども、それをまかせてしまっていいんですか?」


 損得など考える余裕がなかった。

 思いついた言葉。

 それが一気にレニーの心からあふれ出てきた。


「この町の人々は、ゼノさんとロミーさん、この2人を信頼しています。今までも守ってくれた、これからも守ってくれる、そう信じています。僕もそう思います。ゼノさんには力がある。技もある。これまでの経験だってある。なによりも、常に上を目指して努力を忘れない向上心がある」


「ロミーさんだって。ロミーさんの魔法無効キャンセル特殊能力スキルはもちろんのこと、魔法の潜在能力は相当なものです。ロミーさんはこれからの人です。ロミーさんには可能性がある。無限の可能性がある。今は少し落ち込んでいるかもしれません。でも、時間が経てば経つほど、ロミーさんの力は、こらから無限に発揮されていくはずです」


「正直に言って、この町を併合する。アスカルトにとっては、悪い話ではありません。むしろ、得しかない。でも、そうしたらゼノさんはどうするんですか?ロミーさんはどうなるんですか?この町は、ゼノさんとロミーさんがいるから、ここまできた。これからもやっていけると、僕は信じています」


「ゼノさんがもう年だから?それがなんだって言うんですか?まだまだ若いですよ。いいえ、いつまででも若くいられます。だって、人は若くいられるか、それとも年老いてしまうのか、そんなものは気持ちの持ち方ひとつで決まるんですから。ゼノさんが気概を持って、この先も生きていけるのなら、きっとどこまでも若く生き続けられるんです」


 一気に話し続けたレニー。


 本心だった。

 まだまだこの町には、ゼノさんとロミーが必要だ。


「だから、今はゼノさんとロミーさんで、これまで通り、この町を守り続ける方法を考える。それが一番の方法だと、僕は思いますよ」


 レニーの結論。

 それを聞いても、ゼノはまだ考え込んでいた。


「でも・・・それなら、いったいどうすればいいと言うんですか?私には魔法に対する耐性は、全くない。相手は組織的に魔法を使ってくる軍隊だ。その中で、私はいったいどうやって戦えばいいと言うんですか?」


 ゼノもつい感情的になって、声が大きくなる。

 レニーにも完全な答えなどなかった。

 沈黙。

 少し気まずい空気が、2人の間に流れた。


 先に口を開いたのは、ゼノの方だった。


「失礼をしました。私としたことが、つい感情的になってしまったようですな」


「いえいえ。急いで結論を出す必要はありません。お互いに頭を冷やして、ゆっくり考えましょう」


 レニーも答えた。


 すでに夜がふけようとしていた。

 少し白熱した2人の会話は、部屋にいたセシル、ラーサ、そしてロミーの耳にも届いていた。



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