第81話 これを「ペアルック」と言い張るのは、世界中でお前だけだっ!
「お誕生日おめでとう!レニー」
そう言って、ラーサは誕生日プレゼントを、レニーに渡した。
山頂のゼノとロミーの屋敷へと戻ってきた一同。
すっかり元気をなくして、窓から外ばかり眺めているロミー。
一方のセシルとラーサは、屋敷に戻ってきてからも元気いっぱいで、相変わらずにぎやかだった。
やわらかい袋に入った、ラーサからの誕生日プレゼント。
レニーはいやな予感しかしないものの、それを丁寧にあけていく。
中には赤いトレーニングウェアが入っていた。
意外とまともなプレゼント・・・レニーはそう思った。
でも、すぐにその考えが甘かったことに気づく。
そのウェアの胸の部分、そこにはかわいいオオカミのワッペンがしっかりと縫いつけられていたのだ。
こんなかわいいウェア、恥ずかしくて着れない。
なにか文句を言おうとラーサを見ると、なぜかラーサもトレーニングウェアを着ていた。
ラーサはピンクのウェア。
胸にはウェディングドレスをきたお姫様のワッペンが縫いつけられている。
「ねえ、レニー!かわいいでしょう。2人でお揃いのトレーニングウェア。2人でペアルック。お似合いよね」
「いや・・・こんなかわいいワッペンのついた服、着れるかよ。しかもオオカミとお姫様・・・いや、言いたいことは分かるぞ。分かりすぎて、逆に引くわ」
「だめよ。ペアルックを身につけていると、2人は自然と仲間意識が生まれて、もっともっと仲良くなれるんだからね。しかも、オオカミのウェアを着ているうちに、レニーも知らず知らずのうちに心が肉食になって、お姫様を襲いたくなるはず。完璧よね」
「なるわけないだろっ!こんな恥ずかしいウェア、着れるかよ」
「あー!ひどいわ。レニーはどんなペアルックでも大歓迎だって、この間の戦闘の時に言っていたじゃない」
あっ!
確かに、それは言った記憶がある。
いや、大歓迎とは言わなかったが、この間の盗賊との戦闘の時、どさくさに紛れて、なにか約束させられたような・・・。
うーん・・・。
考え込んだレニーに、ラーサが追い打ちをかける。
「レニーは約束を破ったりするようなこと、しないわよね。ちゃんとペアルックで、2人仲良くできるわよね」
「甘いわね、ラーサさん。それくらいのペアルックじゃあ、普通よね。普通。私が究極のペアルックを、見せてあげるわ」
割り込んできたのは、セシルだった。
「お誕生日おめでとう、レニー!」
そう言うと、セシルは大きな包みを取り出してきて、レニーに渡した。
今度はいやな予感を通り越して、寒気すら覚えるレニー。
レニーが袋を開けると、中からは予想外のものが出てきた。
真っ黒なタキシードに、蝶ネクタイ、シルクハット。
パーティーの時にしか着ないような、正礼装。
「え?これはなに?これがペアルック?そもそも、こんなちゃんとした服、いつ着るんだよ?」
さすがのレニーにも、セシルが何を考えているのか全く分からない。
でも、セシルは平然と答えた。
「決まってるじゃないですか。オオカミさんが、白いドラゴンに乗って私を迎えにくるときに着るんです」
「いやいや。今のところ、そんな予定は全くないぞ。そもそも、なんでこれがペアルックなんだよ?」
「えー!私は迎えに来てもらうために、ちゃんとお姫様になる準備まで出来ているのに・・・ほら!」
そう言って、セシルがもう1つの大きな袋を持ち出してきた。
そこに入っていたもの。
それはウェディングドレスだった。
「ね、これで私はオオカミさんを待つ、かわいらしいお姫様。オオカミさんは早く白いドラゴンに乗って、その服を着て私を迎えにくるんですよ。これこそ、究極のペアルックですよね」
「それを『ペアルック』だと言い張るのは、お前だけだ!そもそも、この服、金貨1枚じゃあ買えないだろうが。プレゼントは金貨1枚までと言っておいたよな」
「それなら大丈夫です。だって、私が店の中で、ちょっと魔法のデモストレーションをして見せたら、お店のおばさんが金貨1枚で大丈夫ですって言って、泣きながらくれましたから」
「それは世間では『恐喝』と呼ばれるやつだ。犯罪だぞ、バカ!」
「えー?でも、おばさんが自主的に値下げしてくれましたよ・・・」
やっぱり・・・。
レニーのいやな予感は的中した。
やっぱり屋敷に戻ってきてもラーサはラーサ。セシルはセシルだった。
全く変わらない。