第80話 本当の敵と偽りの味方(2)
ロミーとジュリアが、宿屋「カプレア」に戻ってきたころには、もうすっかり辺りは暗くなっていた。
「ただいま・・・」
2人が宿に入るや否や、みんなの視線が、いっせいにジュリアに集中する。
「なに?どうしたの?どうしたのよ?」
ピリピリした雰囲気。
みんなの冷たい視線に戸惑ったジュリアが、声を上げる。
しばらくの間、誰も何も言わなかった。
やがて、その沈黙を打ち破って、ゼノが話し始めた。
「ジュリアさん、実はあなたに聞きたいことがありましてな・・・」
ゼノの口調は重かった。
「実は今日、あなたたちが町へと出かけている間に、盗賊の襲撃がありました。しかも、盗賊は今日に限って、今までの数倍の大部隊で押し寄せてきました。さらに盗賊たちは、魔法使いの部隊まで、用意していたのです」
「恥ずかしながら、私はその盗賊たちの魔法を食らって、気を失ってしまいました」
「それで?魔法石の鉱山は大丈夫だったの?ちゃんと守りきれたの?」
たまらずジュリアが口を挟んだ。
「ええ。盗賊たちはレニーさんたちが、なんとか守りきってくれました」
「よかった・・・」
ゼノの答えを聞いて、ジュリアは安心したように言った。
ゼノの話を聞いて、はじめ驚いた表情を見せたジュリア。
それから安堵の表情になったジュリア。
レニーには、それが演技だとは思えなかった。
ジュリアは、今日のレニーたちの危機一髪の戦闘について、本当に何も知らないようだだった。
むしろ、本気でレニーたちを、この町を心配しているように見えた。
ゼノはジュリアに一歩近づくと、さらに続ける。
「ジュリアさん、よく聞いてください。盗賊たちは、ロミーのいない今日に限って、大部隊で攻め込んだ。しかも魔法使いの部隊まで、準備よく用意していたのです。つまり、盗賊たちは今日、ロミーがこちらにいないことを知っていた・・・」
「では、盗賊たちは、どうして今日に限って、ロミーがいないことを知っていたのでしょうか?ジュリアさん、どう思いますか?」
ようやくジュリアにも、ゼノの言いたいことが伝わったようだ。
ジュリアは少し青くなって、それでも首を振りながら答えた。
「知らない・・・。私は何も知らない。私は何も知らなかった・・・」
「だったら、なぜ盗賊たちは、今日に限って、魔法使いまで用意して総攻撃をかけてきたのでしょうか?なぜ、こちらにロミーがいないことを知っていたのでしょうか?」
「分からない。でも、信じて!私は何も知らなかったの。本当に、何も知らなかったのよ」
呆然とした表情で、首を振るジュリア。
レニーには、やはりこれが演技だとは思えなかった。
でも、ゼノは落ち着いた声で続ける。
「これ以上話しても、答えは出ないようですな。でも、ジュリアさん。しばらくの間は、あなたをロミーに会わせるわけにはいきません。あなたとロミーが会うことを、禁止させていただきます。この町の鉱山を守るためには、これ以上、ロミーをあなたと会わせるわけにはいかないのです」
静かだが、有無を言わせない迫力を持った、ゼノの言葉。
「さいわい、山頂の我々の屋敷も、村の人たちが修理してくれたようで、すっかり直ったとのことです。我々はすぐに支度をして、今日中には屋敷へと戻ることにします。我々全員、もちろん、ロミーも一緒にです。意義はありませんな」
「そんな・・・」
驚いてロミーがつぶやくが、ゼノの気迫に押されて、それ以上何も言えない。
ロミーはジュリアの方を見ていた。
ジュリアもまた、ロミーの方を見つめかえしていた。
「ロミー・・・信じて!私は何も知らなかった、本当なの・・・」
「ジュリアさん・・・ジュリアさん!」
2人の間にゼノが割って入っていた。
ゼノはロミーの腕をつかむと、有無を言わせずに連れて行った。
「ロミー・・・ロミー!」
後ろでジュリアの声が響いた。
山頂の屋敷への道を歩いていくゼノ、ロミー、レニー、ラーサ、セシルそれに竜。
誰も何も話さなかった。
レニーは考えていた。
さっき、ジュリアが何度も繰り返した言葉。
「信じて!私は何も知らなかった」
ジュリアは「私は何も知らなかった」、そう言ったのだ。
ジュリアは知らなかった?
それなら、誰かが知っていたというのだろうか?
もしかして、ジュリアは誰かに指示されて、ロミーに近づいた。
でも、その結果、どうなるのかを知らなかった・・・そう言っているように、聞こえたのだ。
今回のことに、ジュリアが全く関係がないとは思えない。
でも、ジュリアがすべてを知っていて、ゼノやロミーたちを罠に落とした、とも思わなかった。
なによりも、今日のジュリアの反応。
あれは演技だとは思えない。
話を聞いたあの瞬間、ジュリアは確かに、魔法石の鉱山を、この町のことを真っ先に心配していた。
レニーにはそう思えたのだった。