第79話 本当の敵と偽りの味方(1)
山頂の宿屋「カプレア」へと戻ってきたレニーたち。
満身創痍ながらも、なんとか盗賊から鉱山を守りきるきることができて、レニーは心からほっとしていた。
すでにゼノも目を覚ましていた。
「このたびは・・・申し訳ない」
小さくなって、謝っているゼノ。
「やめてくださいよ。今回は、ゼノさんが悪いわけじゃないです。いきなり相手が、魔法を使ってきたんですから。仕方ありませんよ」
あわててレニーが、ゼノに顔を上げてくれるように頼んだ。
「しかし・・・戦いの最中に気を失って、みなさんに迷惑をかけてしまったのは事実です」
「そんな・・・。あれはどうしようもなかったでしょう。だって、向こうが魔法を使ってくるなんて、こっちは思ってもみませんでしたから」
「そのことなんですが・・・レニーさん。相手は今日に限って、魔法を使って来ました。このことを、どう考えますか?」
ゼノは真剣な表情で、レニーに聞いた。
それはレニーも考えていたことだった。
「ええ・・・偶然とは思えませんね。相手は、こちらにロミーさんがいない今日に限って、襲ってきた。しかも、魔法使いの大部隊まで、引き連れて来たんですから。相手はこちらにロミーさんがいないことを知っていた。だから魔法を使えることを知っていた。そうとしか思えません」
「そうですよね。そうだとしたら・・・相手は、どうしてそのことを知っていたのでしょうか?」
ジュリア・・・その横顔が、どうしてもレニーの頭をよぎってしまう。
ジュリアがスパイだったとしたら・・・。
ジュリアがすべて知っていて、情報を盗賊たちに流していたとしたら・・・。
「ジュリアさん・・・でしたよね。あの人だとしか思えないのです」
先にその名前を口にしたのは、ゼノの方だった。
「そうですね。絶対ではない。でも、その可能性は、頭に入れておくべきでしょう」
レニーは慎重に答えた。
ジュリアがスパイなのだとしたら・・・。すべて説明はつく。
ここタナシスの魔法石を狙っている盗賊がいた。
でも、鉱山はロミーとゼノの2人によって守られていた。
そこで彼らは、ジュリアをスパイとして送り込んだ。
ジュリアを使って、ロミーを魔法石の鉱山から離れるようにしむける。
ほんの1・2日でもかまわない。
ロミーがいなければ、ゼノは魔法によって無力化できる。
そう考えたのかもしれない。
実際、その考えは途中までうまくいった。
ただ、彼らの誤算はレニーたちだった。
偶然、この町にきたレニーたち。
そのせいで計画は狂ったのだ。
それからもう1つ。
レニーには、気になっていることがあった。
「あの盗賊たち。彼らが普通の盗賊だとは、僕には思えないのです。装備といい、戦い方といい、彼らはプロでした。きれいに隊列を組んで、剣で攻撃。さらには魔法まで、組織だって使ってくる。あれは軍です。よく訓練された軍隊の戦い方です。決して、普通の盗賊ではない」
ここタナシスの魔法石は、レオネシア大陸でも貴重な資源だ。
どこの国が狙ってもおかしくない。
そしてここタナシスに近い国といえば・・・。
すぐタナシスのすぐ北にあるアスカルト。
これはレニーの祖国だ。
残るは、すぐ南のダーラ帝国。
少し東にあるワーレン。
「少し憶測で話してしまいますが・・・。この町にある魔法石を狙っている国があった。その国が、自分の軍隊に盗賊のフリをさせて、この町を襲ったのではないか。僕はそう思っています」
「ええ、そうですな。彼らは盗賊というには、強すぎました。何よりも、組織だった攻撃を仕掛けてきた。あれは盗賊ではない。軍隊だと言われた方が、納得がいきます」
「そうだとすれば、狙っているのはどこの国でしょう?僕がいるアスカルトでは、そんな話は聞いたことがない。そうすると・・・東のワーレンか、あるいは南のダーラ帝国か」
「いずれにしても、魔法も強く、軍隊も強い国ですな。彼らが、この町の魔法石を欲しがっていることは、よく分かります」
「そうです。しかも、彼らがまた他の国々に攻め込もうとするときに、ここタナシスの存在は、非常に邪魔になるんです。盗賊のしわざに見せかけて、のっとりをたくらむことは普通に考えられます」
「なるほど」
レニーの国、アスカルトにとっても人事ではなかった。
相手がワーレンにせよ、ダーラ帝国にせよ、ここタナシスが占領されてしまうと、アスカルトも危なくなる。
なぜなら、彼らの次の狙いは、間違いなくアスカルトになるのだから・・・。
「まあ、今日はふがいない私を助けていただいて、ありがとうございました。今日のところは、とりあえずこの町が守れてよかった」
もう一度、ゼノがレニーに頭を下げる。
でも、レニーはこれで終わりではないと思っていた。
むしろ、これが始まりなのだ。
相手はなんとしてでも、魔法石の鉱山を、そしてこの町を支配しようとしてくるだろう。
そしてそのためには、また今日のようにこの町を、襲ってくるに違いない。
レニーはそう確信していた。