第77話 大切な人に信頼されないのって、悲しいことなんだからね…(3)
四方八方からの魔法の直撃を受けて、立ち上がれないレニー。
さらに、追い打ちで、盗賊たちの魔法が、再び直撃する。
レニーは立ち上がろうともがいたが、体が動かない。
盗賊がそんなレニーにとどめを刺そうと、集まってくる。
絶体絶命のピンチだ。
でも、そのときだった。
救世主は3度現れた。
緑の布で顔を覆い、緑の竜に乗った救世主。
竜に乗ったグリーン仮面は、ものすごい勢いで低空を飛んでくると、その場に倒れているレニーを片手で担ぎ上げて、そのまま大空へと飛び上がった。
グルッと旋回して、再び草原へと戻ってきたレニーとグリーン仮面。
「バカッ!バカ、バカ、バカ、バカ、バカ・・・」
レニーを地上へと降ろしたグリーン仮面は、手でレニーの頭をたたきながら言った。
こころなしか、その声は泣いているように聞こえた。
「あなたが特攻してどうするのよ?あなたが倒れたら、おしまいなのよ。俺がみんなを守らなきゃ!俺が1人でかっこいいとこを見せなきゃ!そんな考え、かっこよくも何ともないんだからね。ただの犬死にだからね」
「・・・・・・」
グリーン仮面の剣幕に押されて、何も言えないレニー。
「だいたい、魔法使いが1人で先頭に立って、相手の陣に突っ込む。そんな戦法、聞いたことがないわ。ううん、あり得ない。あなたは紅のレニーでしょう。紅のレニーと言えば、最強の炎の魔法使いであると同時に、どんな逆境でも、冷静に作戦を立てて、逆転を起こす最高の戦略家でもあるはず・・・。間違っても、ひとりで格好つけて、自分だけで特攻しようなんて考えるんじゃないわよ」
「でも・・・。だったら、どうするんだよ?この状況で、どうすればいいんだよ?」
「最前線で敵に切り込んで、乱戦に持ち込む。それは機動力があって、接近戦に強い人物・・・そう、例えば竜騎士の役割でしょう」
グリーン仮面はは竜とともに、再びゆっくりと飛び上がった。
「大事にしてもらえたからって、うれしいわけじゃない。それ以上に、大切な人に信頼してもらえないのって、悲しいんだからね・・・」
ポツリとつぶやくように言ったラーサ。
彼女は再び空高く飛び上がると、盗賊たちがいる方へと、急降下していく。
盗賊たちも、ラーサに気づいた。
早速、魔法を唱え始めていた。
炎の魔法。
いくつもの炎の弾が、ラーサに向かって飛んでいく。
「炎連弾」
レニーも魔法を唱える。
レニーはラーサに向かってくる魔法のすべてを、自分の魔法で打ち落とした。
そのままレニーは、前方へと走り出す。
ラーサは、相手の魔法使いたちが集まる陣地を、襲撃していた。
レニーの前方30メートルほど。
魔法使いたちに槍で切りつけ、すでに何人かを倒していた。
でもすぐに、ラーサは、その場で盗賊たちに取り囲まれてしまう。
剣で切りつけてくる盗賊たちに、その場で槍で応戦するラーサ。
さらに、生き残った盗賊の魔法使いたちが、再び距離を開けて、魔法を唱えようとしていた。
「炎弾」
いくつもの盗賊の魔法が、ラーサに向かって飛んでいく。
レニーは彼女のいる方へと、必死に走っていた。
ラーサまで、あと20メートル・・・あと10メートル。
今にも盗賊の魔法が、ラーサに直撃しようとする瞬間、レニーは叫んだ。
「ラーサ、離脱!上だ、上に逃げろ!」
それからレニーは魔法を唱える。
「炎爆」
残っていた盗賊たちのちょうど中心あたりで、大爆発が起こった。
ほとんどの残った盗賊たちが、爆発に巻き込まれて、吹き飛ばされた。
ラーサ・・・ラーサは・・・?
レニーがキョロキョロしている中、ラーサは爆風に巻き込まれながらも、竜に乗ってさらに上へと飛んでいく。
それからラーサはゆっくりと上空を飛んで、レニーの方へと戻ってきた。
残っていた盗賊は、あとわずか。
その盗賊たちも、すぐにレニーたちに背を向けて、逃げ出した。
それを見送るレニーとラーサ。
「ごめんな、ラーサ。最後は、どうしてもギリギリになってしまったんだ。ひとつ間違えば、ラーサまで一緒に吹き飛ばしてしまうところだった・・・」
「ううん、それでいいのよ。それが紅のレニーの戦い方でしょう」
遠い記憶。
昔、ケインからも同じセリフを聞いた覚えがあった。
「あ、でも、私はグリーン仮面だからね。ラーサはもっと女の子っぽくて、かわいくて、性格もよくて、いい女なんだからね」
いやいや。
もう顔を覆っている緑の布が破れまくって、完全に素顔が見えているから。
ラーサだろうが。
どう見てもラーサだろうが。
レニーは心の中でつっこんだが、何も言わなかった。
どうしてラーサはここまで「グリーン仮面」にこだわるのだろうか?
レニーにはラーサの気持ちは、まったく分からなかった。