第76話 大切な人に信頼されないのって、悲しいことなんだからね…(2)
強い・・・強すぎる。
こいつらは、絶対にただの盗賊なんかではない。
レニーは確信していた。
きれいに隊列を組んで、いっせいにレニーに切りかかってくる盗賊たち。
さらにはその後方から、魔法使いがスキを見て、魔法を撃ちこんでくる。
完全に組織化された戦い。
これは魔法石を狙う、そのへんの盗賊なんかの戦いではない。
これは軍隊、それもかなり訓練された、強い軍隊の戦い方だ。
レニーのすぐ目の前。
ローテーションを組んで、次から次へと入れ替わり立ち替わり襲ってくる盗賊。
その対応に追われるレニー。
前後左右。
スキなく襲いかかってくる盗賊のせいで、レニーはすでに全身傷だらけだった。
しかも、時折、レニーに直撃する魔法。
死角から狙い撃ちされる魔法の直撃も、レニーに確実にダメージを与えていた。
無理だ。これは勝てない・・・。
珍しくレニーは弱気になっていた。
魔法で一瞬のスキを作ってから、逃げ出す。
そんなことすら考えた。
でも、それはできなかった。
レニーが逃げ出すということは、盗賊に負けたということになる。
この町の魔法石と鉱山は、すべて盗賊に奪われてしまうということだ。
そんなことは許されない。
満身創痍。
キリのない絶望的な戦い。
また盗賊たちの魔法が、レニーに直撃した。
その場に膝をつくレニー。
さらにとどめを刺しにきた盗賊の剣を、なんとかかいくぐって逃れた。
ここまでか・・・。
今度こそおしまいなのか?
レニーがあきらめかけたそのとき、そこにまたしても、救世主が舞い降りた。
気が強くて、ちょっぴり性格の悪い(?)救世主。
「あら、苦戦しているみたいね。助けてあげようか?」
緑の布で顔を覆ったラーサ・・・いや、グリーン仮面だった。
「どう見ても大苦戦だろうが。そこで見てるヒマがあったら、今この瞬間にでも助けろよ!」
「あら、まだまだ元気みたいね。私の出番はもっと後かしら・・・」
再び飛び立とうとするグリーン仮面。
「わあっ!ちょっと待って、待って!助けてください。グリーン仮面様、今すぐ助けてください」
「そうねえ・・・。ところで、私はよく分からないんだけど、ラーサはきっと、あなたとお揃いのペアルックとか、お揃いの持ち物が欲しいと思っているみたいなのよね。ラーサとのペアルック。素敵だと思わない?」
「それ、今この場面で話することか?この状況を見てたら、たった今、緊急な状況だって分かるだろうが」
「素直じゃないなぁ・・・。私は平和的にゆっくりお話ししたいんだけれどもね。でも、まだまだ私の出番じゃないようね。さよな・・・」
「ちょっと待って、待って!ペアルックでもベアクローでも。なんでもプレゼントさせていただきます。グリーン仮面様、どうか助けていただけませんでしょうか?」
「仕方ないなぁ・・・」
ようやく草原へと降り立ったグリーン仮面。
彼女はレニーの元へと近寄ると、レニーから竜の槍を奪い取った。
「ちょっと待った!それを持っていかれたら、俺はどうやって戦えばいいんだよ?」
「あなたは紅のレニーでしょう。このレオネシア大陸でも、最強の炎の魔法使いでしょ」
「分かった。魔法で戦えばいいんだな。ラーサ・・・じゃなくて、グリーン仮面は、とにかく後ろ。俺の後方を見ていてほしい」
レニーはそれだけ言うと、再び盗賊の中へと突っ込んでいった。
「炎壁」
レニーの魔法。
目の前に巨大な炎の壁が現れて、近くの盗賊たちを焼きつくす。
それから、レニーは一瞬後ろを振り返る。
後ろの盗賊たちは、竜に乗ったグリーン仮面が空から槍を持って突撃。応戦していた。
レニーは再び前を向いて、走り出した。
後ろを気にする必要がなくなるだけで、だいぶ違う。
「炎連撃」
レニーは炎の魔法を連射しながら、盗賊たちの元へと飛び込んでいく。
再び隊列を整えた盗賊が、剣にてレニーに襲いかかった。
前から、左右から・・・。
魔法を唱える余裕はない。
でも、今のレニーには応戦する槍もない。
仕方ない・・・。
レニーは盗賊の懐に飛び込んで、剣を持つ腕に飛びついた。
「必殺、飛びつき腕ひしぎ十字固め!」
飛びついた勢いで、盗賊ごと押し倒して、腕の間接をがっちり極めるロミー。
まさかこんなところで、セシル直伝のプロレス技が役に立つとは・・・。
盗賊から剣を奪い取ったレニーは、その剣で再び戦い始める。
次から次へと繰り出される盗賊の剣。
それらを華麗にかわして、さけて、はじいてカウンターで切りつけるロミー。
でも、相手が多すぎた。
しかもレニーが持っているのは、普段あまり扱い慣れない剣。
さらには相手が強かった。
剣の腕はもちろんのこと、集団での戦いにもとにかく手慣れているのだ。
レニーの腕に、足に、腹にとさらに切り傷が増えてゆく。
なんとか致命傷だけは、避けている感じだった。
加えて、たまに飛んでくる魔法。
後ろからの不意打ちはなくなったものの、横や斜めからの魔法が、完全には避けれない。
レニーは何度も、魔法の直撃を食らっていた。
さいわい、レニーの魔法防御は強い方だ。
でも、このままでは、じりじりと押されて負けてしまう。
レニーは少しだけ、後ろを振り返った。
グリーン仮面は、竜に乗って、空から盗賊を襲撃。あらかた相手を片づけていた。
なるべく後ろへと盗賊を逃さないように、レニーが気を使って戦ったおかげでもあった。
さて、どうするか?
いちかばちか。
勝負に出るしかない。
山の中腹。
向こうの方に見える、盗賊の魔法使い部隊。
盗賊の集団を一気に突き破って、あそこまでたどり着ければ、勝機が見えるかもしれない。
レニーは覚悟を決めた。
取り囲む盗賊を引きつけるために、いったんレニーは後ろへと退いた。
盗賊たちが追いかけてくる。
「炎爆」
いきなりの魔法。
目の前が大爆発を起こして、何人もの盗賊たちが巻き込まれて吹き飛んだ。
そのスキに、レニーは一気に前へと走り出す。
道の向こうの方。
相手の魔法使い集団がいる、あの場所まで。
すぐに盗賊たちが再び集結して、レニーに向かって剣で襲いかかる。
足を止めているヒマはなかった。
レニーはその剣を飛び、かいくぐって相手の集団のど真ん中を走り続ける。
あと50メートル・・・40メートル・・・30メートル・・・。
距離が詰まるにつれて、どんどん相手の攻撃は激しくなった。
相手の剣がレニーの手を、足を、顔をかすめて、血が吹き出す。
集中しろ!
痛みすら感じないほどに、集中するんだ。
レニーは走り続ける。
だがそのとき、相手からいっせいに魔法が撃ち出された。
炎の魔法。
あらゆる方向から、まっすぐレニーに向かって、いっせいに魔法が飛んできた。
ダメだ!避けれない。
しかも、これだけの数の魔法。
大ダメージは避けられない・・・。
終わった・・・。
負けた、今度こそ、本当に負けた・・・。
魔法が直撃する。
吹き飛ばされたレニーは、すぐには動けない。
そこへ剣を持った盗賊たちが、とどめを刺しに来る・・・。
最悪の結末だ。
ごめんよ・・・ケイン・・・。
なぜか、レニーの脳裏には親友だった竜騎士ケインが浮かんだ…。