表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
75/107

第75話 大切な人に信頼されないのって、悲しいことなんだからね…(1)


 ロミーとジュリアが町へと出かけていた一方で、レニーたちは山頂の宿屋「カプレア」にて待機していた。

 もちろん、盗賊に備えるためだ。

 でも、最近はロミーが出かけても、盗賊は現れないことが多かった。

 だからレニーたちも、少し油断していた。

 そんな油断をつかれたのかもしれない。


 昼過ぎ。

 山頂にて、あたりに鐘が鳴り響いた。

 盗賊が襲ってきた合図。

 レニーたちにとって、久々の出番だった。


 早速、盗賊退治に向かうレニー、ゼノ、セシル。

 セシルはやはりロミーの服を着て、後方の見張りやぐらに立った。

 ロミーがいると見せかけるためだ。

 そしてレニーとゼノで、盗賊の元へと向かう。


 レニーは何も心配していなかった。

 この前の感じだと、盗賊はそんなに強くなかった。

 数もそれほど多くない。

 今回も楽勝で勝てるものと信じていた。


 だから、盗賊の元へと向かったレニーは、その光景に面食らっていた。


「なんだ、これは?」


 盗賊たちは、2列できれいに隊列を組み、ズラッと山のふもとまで並んでいたのだ。

 ふもとまでの道を埋め尽くしている、数えきれない数の盗賊たち。

 しかも、今日の彼らは本気度が違った。

 盗賊は、レニーとゼノを見つけるや否や、いっせいに襲いかかってきたのだ。


 早速、槍で応戦するレニー。

 剣で防ぐゼノ。

 本気でレニーたちを、殺しにきている盗賊たち。

 しかも、明らかに前より強かった。


 盗賊たちは次から次へとレニーたちに襲いかかって、休むヒマすら与えない。

 レニーといえども、その数に押し込まれて、苦戦してしまう。


「ぐおっ!なんなんだよ。倒しても倒しても、キリがないぞ!」


 レニーがいったん退いて、体勢を立て直す。

 ゼノもやはり剣にて応戦しながら、レニーに歩調を合わせて、ゆっくり下がっていく。


 いつしか押し込まれて、2人は少し広くなった草原まで来ていた。

 盗賊が争うように押し寄せてきて、2人をグルリと取り囲んだ。

 2重、3重・・・いや、数え切れないほど幾重にも、厳重に2人を取り囲む盗賊たち。


 どうする?

 魔法を使うべきか?

 魔法で一気に焼き払ってしまえば、少し時間が稼げる・・・。

 レニーは一瞬そう考えた。


 でもダメだ。

 実はこの場で魔法が使えること、つまり、今日こちらにロミーがいないことを、相手に悟られてはいけない。

 相手が魔法を使えることを知ったならば、魔法にて集中的にゼノさんを狙ってくることもありうる。

 そうすれば、魔法に耐性のないゼノさんは、一瞬でピンチに陥る。


「ちきしょう!てやっ・・・」


 レニーは槍を大振りして、相手との距離をあける。

 ちょっとでも、一息つくためだった。


 一方のゼノは、さらに剣のスピードを上げていた。

 相手の懐に飛び込んで、次から次へと切りつけていくゼノ。

 圧倒的に数の多い盗賊たち。

 それでもゼノは、むしろ自分の方が前に出て、盗賊を押し返していた。


 やっぱりゼノさんはすごいな・・・。

 レニーが改めて感心していたそのとき、ゼノを取り囲む盗賊たちの一部が、急に左右に分かれた。

 ゼノの通り道を開けたように、ぽっかりと道が生まれる。


 その向こう側、そこには何人かの盗賊が、ゼノの方を見ていた。

 その盗賊のすぐ左右では、別の盗賊たちが薪に火を焚いている。


 これは・・・。

 魔法だ!おそらく炎の魔法。

 危ない!ゼノさんが危険だ!


「ゼノさん、あぶないっ!魔法です!敵の魔法が来ます!」


 レニーは反射的に叫んでいた。

 そのまま盗賊たちを突き破って、ゼノの元へと駆け寄ろうとする。


 だが遅かった。

 盗賊たちは、すでに魔法を唱え終わっていた。

 盗賊から放たれた炎の魔法。

 それはまっすぐにゼノへと向かっていく。


「ゼノさーん!」


 レニーが再び叫ぶ。

 でも、間に合わない。

 真正面から、炎の魔法がゼノに襲いかかる。

 炎の弾がまっすぐにゼノに直撃した。

 炎の魔法に、吹き飛ばされるゼノ。

 そのままゼノは、その場に倒れた。

 ピクリとも動かない。


「ゼノさーん!」


 レニーは叫びながら、槍を振り回して盗賊たちを切り裂き、ゼノの元へと駆け寄った。


「ゼノさん、大丈夫ですか?ゼノさん、しっかり!」


 槍でまわりの盗賊を牽制しながら、ゼノの体を起こすレニー。

 でも、ゼノは完全に気を失っていた。


 絶望的な状況。

 まだまだ盗賊たちは次から次へとやってくる。


 レニーはなんとかゼノを担ぎ上げ、そのまま走りながら、盗賊たちを蹴散らそうとした。

 だが、それは無理な話だった。

 重いゼノを担いだまま、戦えるはずがなかった。


 盗賊の剣がレニーの足をかすめて、レニーが倒れた。

 その衝撃で、ゼノも地面に叩きつけられる。

 それでも、目を覚まさないゼノ。


 万事休す。

 最大のピンチだった。


 考えろ。

 なんとか切り抜ける方法を考えろ。

 襲いかかる盗賊を、槍で蹴散らしながら、必死で考えるレニー。


 そのとき、レニーの目の前の盗賊が、不意に左右に分かれた。

 レニーの目の前に、急に道が生まれる。

 その向こうにいるのは・・・魔法使い。

 向こうの方から、炎の魔法が放たれた。


 そうだ。魔法だ。

 すでに向こうは、魔法が使えることを知っている。

 もう魔法を撃てない理由は何もない。


 こちらへと迫ってくる炎の弾。

 向こうに見える薪の火。

 あらゆる炎をイメージして、レニーの手元へと集めた。

 それらを閉じこめて、爆発させるまでの温度と密度を上げてゆく。


炎爆エイリオン


 激しい爆発が起こった。

 爆発は、向こうの撃った炎の弾を消し飛ばし、近くにいた盗賊を吹き飛ばして、あたりを一掃した。


 一瞬の間ができた。

 レニーは再びゼノを担いで、後ろへと走り出す。


 でも、まだまだ盗賊たちは残っている。

 すぐに後ろから、盗賊たちがいっせいにレニーを追いかける。

 追いつかれて、再びゼノをそこに置いて、槍で戦うレニー。

 盗賊の剣が、レニーの頬をかすめる。

 もう限界が近かった。


 さすがのレニーも、もう打つ手がない。

 次から次へと切りかかってくる盗賊のせいで、魔法で応戦する時間も作れない。


 だめだ・・・助けてくれ!

 誰か・・・助けてくれ!


 ついになすすべがなくなったレニー。

 絶体絶命!


 レニーが天に祈りすら始めたそのとき、救世主は天から現れた。

 空高くから、振ってきた緑の物体。

 優雅に羽根を羽ばたかせて、ゆっくりと地上へと降りてきた竜。

 それはリリーと、それに乗ったラーサだった。


「ラーサ!助かったよ。ゼノさんを頼む!」


「ラーサ?違うわよ。私はただの通りすがりの戦士、グリーン仮面よ。ラーサはもっと女らしくて、かわいくて、美人で、性格がよくて、ずっとずっといい女なんだからね。こんな野蛮な場所に現れるはずがないじゃない。ラーサは私なんかよりも、もっともっといい女なんだからね。大事にしなさいよ」


 ん?たしかに目の前の女は、緑のハンカチのようなもので、顔を覆って隠してはいるけど・・・。

 でも、どこからどう見ても、ラーサだ。

 いや、そんなことは今はどうでもいい。事態は緊急なのだから。


「いいから、ラーサ。ゼノさんをはやく・・・」


「違うって言っているでしょう。私は通りすがりのグリーン仮面。それが認められないのなら、このまま帰るからね」


 そう言って、ラーサ・・・いや、グリーン仮面は、その場から飛び立とうとした。


「ちょっと待って、待って、待って!分かった、分かった。グリーン仮面様。どうかゼノさんを、後ろのやぐらまで運んでいただけないでしょうか」


「どうしよっかなぁ・・・。そこまで頼まれたら、断れないしなぁ・・・。じゃあ、これからラーサを大事にすること。ラーサの言うことは、これから何でも聞くこと」


「やっぱりラーサ本人じゃねえかよ?」


「違うって言っているでしょう。ラーサはもっとお上品で、かわいいって言ってるでしょう。私は通りすがりのグリーン仮面」


「分かった、分かった。もう何でもいいから早く・・・」


 次から次へと切りかかってくる盗賊の相手をしながら、レニーは悲鳴を上げた。


「じゃあ、約束できる?ラーサをもっともっと大事にすること!」


「できる、できる。今だったら、悪魔とだって契約するぞ」


「仕方ないわね。じゃあ、このグリーン仮面様が、助けてあげる」


 そう言うと、彼女はゼノを抱えて、再び空へと飛び上がった。

 あっという間に、後方へと飛び去っていくラーサ・・・いや、グリーン仮面。


 いったいなんのつもりなんだ。

 素直に助けてくれればいいのに・・・。


 でもゼノを運んでもらったおかげで、レニーはだいぶ楽になった。

 まだまだ盗賊は多い。

 形勢は不利・・・正直に言って、だいぶ苦しい。


 それでも守るのは、自分の身だけでいい。

 少し気が楽になったレニーは、再び槍を構えて、盗賊たちの中へと突っ込んでいった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ