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第73話 君を守るためなら、僕はどんな勇者にだってなってみせるから…(3)


 町の公園。

 その中心には噴水がある。

 そのすぐそばのベンチに、ロミーとジュリアはいた。


 ようやく落ち着いた2人。

 言葉もなく、ただ並んで座っていた。


 悪党に襲われてから数時間。

 最初はまだフラフラしていたジュリアも、ほぼ回復していた。

 ロミーも、もう完全に落ち着きを取り戻した。


 夕暮れ時。

 比較的静かな時間。

 そのとき、2人の前方にある教会の鐘が、あたりに響いた。

 それとともに、2人の男女が教会から並んで歩いてきた。


 赤い絨毯じゅうたん、いわゆるバージンロードを並んで歩く2人。

 結婚したばかりなのだろう。

 男は真っ黒なタキシードに身を包み、女は真っ白なウエディングドレス姿だった。

 2人のまわりには、それを祝福する人々。

 幸せそうな光景だった。


「平和で、幸せな光景ね」


 ポツリとジュリアがつぶやく。

 ロミーにも、2人が幸せそうに見えた。


「おめでとう・・・」

「お幸せに・・・」

「ばんざーい!ばんざーい!ばんざーい!」


 まわりで人々が2人をはやしたてる。


 ロミーは遠くから、そんな光景をボーッと見ていた。


 幸せあふれる声が続く。

 その中で、1人の男がロミーに気づいたようだった。

 遠くから手をふって、ロミーの方へと駆けよってくる男。


「ロミーさん、ロミーさんでしょう」


「そうだけど・・・」


「あそこにいる2人は、たった今結婚したばかりなんですよ。2人にぜひ、なにかお言葉をかけてあげてくださいよ」


 戸惑うロミーの手を強引に引いて、男は教会の方へとロミーを連れて行く。


 みんなに祝福される新郎新婦。

 その目の前へと連れてこられたロミー。


「あの・・・おめでとうございます・・・」


 戸惑って、ぎこちなく挨拶するロミー。

 それから、2人の手をとって握手する。


 でも、それだけでは終わらなかった。


「ロミーさんだ!ロミーさーん!」


「きゃー!ロミーさんがいる・・・」


「ロミー様、ぜひ2人のために、なにかお言葉を・・・」


 みんながロミーに注目していた。

 みんながロミーが話し始めるのを、待っている。

 もう、ロミーがたった今結婚した2人のために、なにかスピーチする雰囲気になってしまっていた。


 え?でも、何を話せばいいんだろう?

 みんなの視線が痛い。

 ええい、アドリブでいいや。

 なにか少しだけ話して逃げよう。

 ロミーは観念した。


「ええっと・・・。とりあえず・・・ご結婚、おめでとうございます。末永く、いつまでもお幸せに暮らせるといいですね・・・いや、絶対暮らしてくださいね」


 少しだけ笑いが起こる。


 これで終わりにしていいのかな?

 祈るような思いで、聴衆を見るロミー。

 でも、彼らはまだじっとロミーの方を見て、何かまた話し始めるのを待っている。


 聴衆の中にはジュリアもまざっていた。

 いつの間にか、ジュリアもすぐ近くまで歩いて来て、ロミーの話を聞いていたのだ。


 さて、これ以上、何を話そう?

 ジュリアのまっすぐな視線を見ながら考えるロミー。


「えっと・・・今日、たった今、2人のことを見ていて、思ったことを言います。幸せそうだなぁ・・・。平和っていいなぁ・・・。そう思いました。幸せそうな2人を見て、僕まで幸せな気分になりました」


「みなさんが知っているように、僕はこの町の山頂にいます。山頂にて、魔法石の鉱山を盗賊から守る役割をしています。あ、僕の場合は、そんな大げさなものではなくて、ただ、ゼノさんが戦っているのを、見守っているだけなんですが・・・」


「でも、もしもこんな僕が、少しでも、この町の役に立っているのなら、うれしいなあって思ったんです。今日、町で結婚式を挙げて、幸せになった人が、少なくとも2人はいる。ほんの少しでも、その幸せを作るお手伝いが出来たのなら、心からうれしいなぁって」


「そうやって、幸せそうな2人の姿を見ていたら、僕まで幸せになりました。それで思ったんです。誰かを守るということは、幸せなことなんだなぁって」


「今日、結婚した2人は、これからもっともっと幸せになれます。だって、守るべき人がいるということは、幸せなことだから。守るべき大切なものがあるというのは、とっても幸せなことだから・・・」


「僕も・・・。僕がこの町を守ってみせます。だからみなさんは、安心して幸せになってください・・・残念ながら、そんなかっこいいことは、僕にはまだ言えません。そんな実力も今はありません。でも、もしもこの町を幸せにするために、僕がほんの少しでも役に立っているのなら、心からうれしいと思います。そして、これからもこの町を、そしてみなさんの幸せを守るために、僕が役に立てるのであれば、努力は惜しまない・・・そう思っています」


 頭に浮かんできたままに、たどたどしいながらも、はっきりと自分の言葉で話すロミー。

 ロミーは最後に新郎新婦へと向き直って、頭を下げた。


「ご結婚、おめでとうございます。2人はかならず幸せになれると信じています。だって、守るべきものがあるということは、幸せなことなんですから」


 静まりかえった聴衆たち。

 やがて1人がパチハチと手をたたくと、それが2人、3人と伝播し、やがて全員の熱狂へと変わっていった。


「ロミー様!俺たちのロミー様!」


「ロミー様、ロミー様、ロミー様・・・」


 ロミーはこっそりジュリアの方を見た。

 ジュリアの瞳は、こころなしか潤んでいるようにロミーには思えた。


 ロミーは拍手の嵐の中を、小さくなって、こそこそとジュリアの元へと逃げるように走っていく。


「さあ、それではブーケトスです。幸せな新郎のブーケを受け継ぐのは誰だ?」


 司会者の言葉で、新郎が後ろを向いたまま、そのブーケを放り投げた。

 そのブーケは奇跡のような放物線を描いて、すっぽりとジュリアの手元へとおさまったのだった。




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