第71話 君を守るためなら、僕はどんな勇者にだってなってみせるから…(1)
いつものように、手をつないで町を歩いているロミーとジュリア。
今日のロミーはラーサに影響されて全裸・・・なんてことは、もちろんない。
いつもどおりのラフな服装だ。
一方のジュリアは、かわいらしいワンピース。
本気で「お姫様」と呼んでも過言じゃないかわいらしさだ。
ロミーは最初から、落ち着かなかった。
それは、セシルが考えてくれた「大ピンチのお姫様を救出する、かっこいい勇者作戦」が常に頭にあるからだった。
予定では、この角を曲がったあたりで、ジュリアが悪党に襲われる。
そこにロミーが駆けつけて、ジュリアを助けるということになっているのだが・・・。
「あっ!」
つまづいたフリで、立ち止まるロミー。
「どうしたの?大丈夫」
「うん、平気、平気。でも、靴がなにか変だな。壊れちゃったのかも。ちょっと先に行っていてくれない?」
片足立ちで、靴を脱ぐロミー。
ジュリアは少し怪訝な顔をしたものの、そのままロミーをおいて、先へと進む。
ジュリアが角を曲がったその先。
そこには黒ずくめで、いかにもな格好をしたファンサーガが待ち受けていた。
「どうしようかな?両手を上げて、『がおー!』って襲いかかるフリをする?いやいや、それは格好悪いよなぁ・・・」
まだ悩んでいるファンサーガ。
そうこうしている間に、ジュリアが現れた。
「よお、そこのかわいいお姉ちゃん。ちょっとそこまでつきあってもらおうか・・・」
完全にアドリブ。
出たとこ勝負だ。
なれなれしく、ジュリアの肩に手を置くファンサーガ。
「あら、安っぽいナンパだったらお断りよ。残念だけど、すぐ後ろに連れがいるんだからね」
ジュリアに簡単にあしらわれるファンサーガ。
だめだ。
これじゃあ襲いかかる悪党の雰囲気は、まったく出せないぞ。
仕方ない、奥の手だ。
あせったファンサーガは、お得意の武器を取り出した。
二丁鎌。
使い慣れた暗殺用武器。
ファンサーガは鎌の刃をジュリアに突きつけて、低い声で言う。
「姉ちゃんよぅ。俺にはどうしても、あんたを連れて行く必要があるんだけれどね・・・」
悪党としての演技は完璧!満点だ!
ファンサーガは自画自賛していた。
一方で、一瞬だけおびえた表情をみせたジュリア。
でも、彼女は冷静だった。
ジュリアの目が、鋭く光る。
次の瞬間、ジュリアの回し蹴りが、ファンサーガの目の前を一閃していた。
二丁鎌を蹴り飛ばされて、落とすファンサーガ。
そのままジュリアは体を回転させて、ファンサーガの腹へと、後ろ蹴りを放った。
「ぐへっ!」
ジュリアの強烈な蹴りに吹き飛ばされて、倒れ込むファンサーガ。
そのままジュリアは無言で、倒れたファンサーガの頭を、まるでサッカーボールのように蹴り飛ばした。
「イタイ!イタイ、イタイ!やめてー!助けてー・・・」
必死で頭をかばいながら、助けを呼ぶファンサーガ。
「ぐふっ!ギャー、やめて!本当にやめて!助けて、殺されちゃう・・・」
逃げることも出来ずに、一方的に蹴られ続けるファンサーガ。
そこへロミーがやってきた。
「ジュリアさん・・・え?ジュリアさん・・・?」
そこには地面にうずくまって、頭を抱え、逃げまどうファンサーガと、それを蹴り飛ばすジュリアがいた。
ファンサーガを気持ちよく(?)、蹴り飛ばしていたジュリア。
でも、ジュリアはロミーに気づくと、すぐにそれを止めて、大きな声を上げる。
「きゃあぁぁぁぁ!助けて、ロミー。悪党よ!悪党に襲われたのよ・・・」
あわててファンサーガから離れ、ロミーの後ろへと隠れるジュリア。
「あいつが悪党なの。なにかナイフのようなものを持って、私を襲ってきたのよ。助けて、ロミー。私を守って・・・」
でも、ロミーの目の前にいたのは、顔から血まで流して、地面にうずくまっているファンサーガだった。
いやいや。この状況で、ジュリアさんを守る?
むしろ、ファンサーガさんの方が被害者にしか見えない・・・。
ロミーは混乱していた。
膝をガクガクさせながらも、その場からなんとか立ち上がったファンサーガ。
そのままファンサーガは二丁鎌を拾い上げて、足を引きずりながら逃げていった。
「ありがとう!ロミーのおかげで助かったわ。悪党から私を守ってくれて、ありがとう」
大げさにロミーに抱きつくジュリア。
あれ?これでいいのか?
いや、おかしいぞ。
なにもかもがおかしいぞ。
なんだかジュリアがこわく思えて、ついつい身を退いてしまうロミーがそこにいたのだった。