第68話 たかが誕生日プレゼントなのに、お前らはどうしてそんなにメチャメチャなプレゼントを思いつくんだよ?
「・・・47・・・48・・・49・・・50!」
かけ声とともに、腕立て伏せを終えるレニー。
次の日、宿屋の庭にて、ロミーはいつもどおり訓練をしていた。
一方で、レニーの隣で転がって、頭を抱えているのは、ロミーとセシルの2人。
「うう、頭が痛い・・・」
「ひっく。なんだか気持ち悪いです・・・」
「お前ら、昨日のこと、何も覚えていないの?」
「全然、覚えていません。朝になって、食堂で目を覚ましたら、ひたすら頭がガンガンするだけで・・・」
「私も何も分かりません。なにか大切な誓いをしたような気もするんですが・・・」
2人とも昨日のことは、なにひとつ覚えていないらしい。
さらに庭には、これまたいつもどおり、竜に座ったラーサもいた。
「ラーサさん、あれが大人の気持ちいい、激しい体験なんですか?」
自分の頭を軽くたたきながら、聞いたのはロミー。
「そうよ。あれだけじゃないわ。大人になるためには、全部で3つ。他にあと2つも、とっても気持ちよくて、激しい体験があるんだからね。また今度、お姉さんが教えてあげる」
「いらないです。もういいですから」
ラーサの答えに、ロミーは悲鳴をあげて逃げ出した。
「それにしても寒くなりましたね。もう2月ですからね。あ、2月・・・そうだ!」
何かに気がついたように、セシルが声を上げた。
「2月だから、どうしたんだよ?」
「2月といえば、レニーの誕生日じゃないですか。2月22日。ちゃんと覚えてますよ。レニー、誕生日プレゼントは、①セシルを迎えにくるための白いドラゴンと婚約指輪と婚姻届のセット。 ②セシルと一緒に暮らすための土地と家、それに婚姻届のセット。どちらがいいですか?」
「そんな重たいプレゼントいらないわっ!そもそも、その選択肢、2択に見せかけて、実質1択だろうが。誕生日にそんな重いプレゼントを押しつけるんじゃねえっ!」
「そんな・・・。私は2人の未来のために、一生懸命プレゼントを考えたのに・・・」
まだあきらめきれない様子のセシル。
横からラーサも口をはさんできた。
「そうよね。レニーはもう大人なんだから、やっぱり誕生日も、大人向けのプレゼントにすべきよね。ねえ、レニー。誕生日プレゼントは、大人の気持ちよくて激しい体験3コース、どれがいいかしら?あ、レニーなら、3つすべてフルコースで、このラーサがプレゼントするというのはどう?」
「いらない、いらない。どうしてお前らは、そんな重いプレゼントばかり考えつくんだよ。そんなプライスレスな、重たいプレゼントはいらない。もっと普通にお金で買える、プレゼントにしてくれ」
「えー?!レニーはわがままですねー。仕方ないです。じゃあ、何にしよっかなぁ。あ、来月には私の誕生日もありますからね。男の子は、女の子には3倍返しするものだって、相場が決まっていますよね」
言ったのは、もちろんセシル。
そう言いながら、セシルは袋に入った金貨銀貨を、無造作にザザーと床に開けていた。
「待て、待て、待て、待て!たかが誕生日のプレゼントに、そんな金貨銀貨をザクザク用意するんじゃない!そもそも3倍返しとか、俺を目の前にして、する話じゃないだろっ!」
「そっか、3倍返しよね。私もがんばっちゃおうかな」
ラーサまでが、金貨銀貨を集めて、テーブルに並べ始めている。
「やめろ!やめてくれ!誕生プレゼントは金貨1枚以内。それで買える簡単なものにすること。それ以上の高価なものは禁止な」
「つまんないですー」
「それじゃ普通すぎるわよね」
「普通でいいんだって。お前らの頭の中には、普通とか常識とかいう概念がなさすぎる。いいな、金貨1枚で買える普通のプレゼントを用意するんだぞ」
念をおされて、あきらめたようなセシルとラーサ。
これだけ念を押しても、レニーの疑念は晴れなかった。
この2人のことだ。
きっととんでもないプレゼントを持って来かねない・・・。
レニーはそう思っていた。