第67話 「大人の気持ちいい、激しい体験」なんてものを、こいつらに教えたのは誰だよっ!
「ねえ、ロミー。今日は2人で密着して、上へ下へと激しい、ドキドキしっぱなしの体験をしてきたんだよね。ああ、今でもドキドキする。こんな体験、初めて・・・」
「ちょっと、ジュリアさん。誤解を招くような言い方はやめてくださいよ」
赤くなったロミーが、あわてて訂正する。
夜になって、みんなが宿屋「カプレア」へと戻ってきていた。
「ふん、どうせ本物の竜乗りかなにかでしょう。純情ぶってお子さま気取りなジュリアには、ぴったりのアトラクションね」
ズバリ言い当てたのはラーサ。
それから、ラーサはロミーの耳元でささやくように言う。
「ロミー、騙されちゃダメよ。それがジュリアの手口なのよ。一緒に竜に乗ってドキドキする体験をすれば、それを恋と勘違いしてしまう・・・。いわゆる『吊り橋効果』っていうやつよね。ロミー、あなたはそんな簡単な手に引っかかったらダメだからね」
「ちょっと、余計なことを吹き込まないでよ。私たちには、もう切っても切れない固い絆があるんだからね」
あわててラーサとロミーの間に割り込んで、2人を離れさせようとするジュリア。
それでもラーサはロミーの手を離さない。
「ねえ、ロミー。今度は私が大人の世界を教えてあげる。そんなお子さまな世界の比じゃない、大人の気持ちいい世界を教えてあげるわ。2人で一緒に、上も下も分からなくなるくらいの、気持ちいい、激しい体験をしましょうよ」
「え、それはなんですか?興味あるなあ・・・」
また耳元でささやいたラーサに、無邪気に聞き返すロミー。
おいおい。
いったいラーサはロミーに何を教える気なんだよ?
そばで聞いていたレニーの方が、ドギマギして心配になってしまう。
でも、やっぱりジュリアと出会ってからのラーサはおかしい。
ジュリアを過剰に意識しているようだった。
常にジュリアに張り合って、今もロミーを奪いあっている(?)。
2人の間に、いったい何があったんだろうか?
そして1時間後・・・。
そこには阿鼻叫喚の世界が待っていた。
「レニーさん・・・どうしてあなたはそんなにかっこいいんですか?あなたは本物の英雄だぁ。それなのに、僕なんて・・・僕なんて何も出来ないぃぃぃぃ・・・」
「ゼノさんもゼノさんですよぉぉぉ。盗賊相手にいつもいつも、あんなにかっこいい立ち回り。僕なんて見てるだけしかできないのに・・・うぇっぷ・・・」
「ジュリアさん、あなたはすばらしい。どうしてジュリアさんはそんなに優しいんですか?ジュリアさんは神だ。僕だけの女神だあぁぁぁぁ!」
「ラーサさーん!やわらかーい!このままラーサさんに埋もれて眠りたいぃぃぃぃ・・・」
そこにはろれつの回らない口調で、次から次へと誰かに絡むロミーがいた。
「どうして私とジュリアの扱いが、こんなに違うのよ」
怒っているのは、もちろんラーサ。
ロミーの周りには、ワインにビール、酒など大量のアルコールの空き瓶が転がっていた。
誰だよ、こんなに大量のアルコールを、ロミーに飲ませたやつは・・・。
言うまでもない。ラーサだった。
これがラーサの言う「大人の気持ちいい、激しい体験」というやつらしい。
そして、ロミーはとてつもなく酒癖が悪かった。
「リリー。お前なら、分かってくれるよな。俺は孤独なんだ。世界で一番、孤独なんんだよぉぉぉぉぉ・・・」
「キュイィィィィ」
竜にまで絡み始めるロミー。
これだけでも十分やっかいだ。
でも、さらにひどいことが起こっていた。
「レニー、レニー、レニーってば。どうして逃げるのよ・・・ひっく。どうして私のまわりからは、みんないなくなっちゃうのよ」
「お前が完全に酔っぱらっているからだろうが。誰だよ、セシルにまで酒を飲ませたやつは」
そう、セシルまで完全に酔っぱらって、あたりかまわず、誰か(主にレニー)に絡みまくっていたのだ。
「ひどい・・・レニーは、私がひとりぼっちになっても平気なのね。そんな世界ならいらない。そんな世界なら、なくなった方がいいんだから」
酔っぱらったセシルの独り言は、全く意味が分からない。
「それじゃあ、ぜーんぶ消してやる。光・・・」
「やめろっ!こんなところで魔法なんて使うな!呪文なんて唱えるんじゃねえ」
あわててレニーがセシルに飛びついて、魔法を封じる。
そんなレニーに抱きつくセシル。
「あ、レニー。ようやく会えましたね。やっと、私のオオカミさんが迎えに来たんですね。それじゃあ、誓いのキスを・・・。誓いのキスで、女の子はお姫様に変身するんです・・・うっぷ・・・」
「やめろぉぉぉぉ!俺の上で、吐いたりしたらぶっ殺すからな!」
あわててセシルを突き飛ばして逃げ出すレニー。
「ああ、やっぱりレニーも逃げ出すんだ。ずっと私はひとりぼっちなんだ。私は孤独なんだぁぁぁぁぁ」
狂ったようにわめきちらすセシル。
そこへやはり酔っぱらったロミーがやってきた。
「セシルさんも孤独なんですか?だったら、僕の気持ち、分かります?僕なんて、ずっと孤独なんですから。これまでも、これからも、ずっとずっとひとりぼっちなんですからぁぁぁぁぁ」
セシルとロミーは2人で抱き合って、大声で泣き出した。
レニーにはもう全く意味が分からない。
「だったら、2人で協力しましょうよ。セシルはロミーが幸せになれるように、全力でサポートする。だから、ロミーもセシルが幸せになれるように全力で応援すること」
「します。します。協力しましょう。僕もセシルさんが幸せになることを一番に応援します」
するとセシルは立ち上がって、にわかに手で十字架をきって、ロミーに言う。
「よろしい。汝は病めるときも、健やかなるときも、いかなる時でも、セシルの幸せを一番に願うことを誓いますか?」
「誓います。それではセシルさん。汝は病めるときも、健やかなるときも、いかなる時でも、ロミーの幸せを一番に願うことを誓いますか?」
ロミーも十字架をきって、聞き返す。
「誓いまーす!それじゃあ決定。2人は永遠の同盟を結んだ協力者として、ずっとずっと固い絆で結ばれましたからね」
「決定!」
いやいや・・・。
お前ら、その誓いの使い方、絶対に間違っているからな。
こうして地獄絵図のような、この宴会(?)は、夜更けまで続いたのだった。
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