第66話 お前が遠くから、そんな大声を出していたら、作戦が台無しになるだろうが!
ロミーとジュリアが町へと繰り出していたのとちょうど同じ頃のこと。
山頂の宿では、レニーたちが作戦を練り上げていた。
もちろん、盗賊たちがやって来た時のための作戦だ。
そして、ようやくそれが決まった時、山頂付近で鐘が鳴り響いた。
盗賊の襲来を知らせる鐘。
レニーたちの出番だった。
早速、レニーたちは宿を飛び出して、盗賊退治へと向かう。
真っ先に、レニーが狭い道にて、盗賊の前へと立ちふさがった。
そのすぐ後ろにゼノ。
セシルはずっと後方、まだ鐘が鳴り響いているみはり櫓の中にいた。
セシルはロミーの服を着ていた。
そう・・・敵にロミーがいないことを悟られないためだ。
セシルにロミーのフリをさせる。
その上で、盗賊相手には、まずはレニーが槍にて、慎重に戦う。
それが作戦だった。
「最初は、ゼノさんは無理をしないでくださいね。相手がもしもこちらにロミーさんがいないことを知っていて、魔法を使ってくる可能性もありますから。まずは僕が様子を見ます」
ロミーがゼノに話しているそのとき、ずっと後ろの方から、セシルの大声が聞こえた。
「レニー、レニーってば!セシルはここですよー!準備ばっちり!いけー、やっちゃえー!」
あのバカ・・・。
そんな大声で叫んだら、盗賊がいつものロミーじゃないことに、気づいてしまうだろうが。
そんなレニーの心配にも気づかず、まだ叫び続けるセシル。
「ゼノさんもがんばってくださいね。セシルもしっかりここから応援してますからねー」
谷間によく響く、セシルの甲高い声。
もういい、何もしゃべらないでくれ。
レニーは槍を持って、自分から盗賊軍団の中へと飛び込んでいった。
鋭い剣を持ち、規律の取れた盗賊たち。
そこに槍を振り回して、レニーが切り込む。
道が狭いせいで、レニーが相手するのはせいぜい2人。
レニーの後ろに回りこんできた盗賊は、ゼノが剣をたたき込んでくれた。
盗賊たちとしばらく戦っていて、レニーは確信した。
この前と同じだ。
相手に魔法を使ってくる様子はない。
レニーたちは少し退いて、少し広い草原へと出ることにした。
相手も追いかけてきて、いっせいに草原へとなだれ込んできた。
そこからがゼノの出番だった。
広い草原。
完全に盗賊に取り囲まれているにも関わらず、ゼノは一瞬にして、周りの盗賊たちを切り倒していた。
まさに一瞬の出来事だった。
ゼノの光速の剣。
あっという間に懐に入り込んで、切りつけたときには、もう別の盗賊へと向かっている。
圧巻だった。
数十人はいた盗賊があっという間にいなくなっていた。
通称、閃光のゼノ。
レニーはそんな名前を思い出していた。
盗賊を完全に撃退して、息ひとつ切らすことのないゼノ。
ゼノは涼しい顔でレニーに聞いた。
「あっけなかったですな。いつも通り・・・いや、いつもよりも盗賊が少なかったし、弱かったようにも思えますな」
「そうですかね?」
確かに、レニーもこの前に比べて、あっさり相手が引き下がったように思えた。
「それから、今日に限って・・・ロミーがいない今日に限って、わざわざ盗賊たちは襲ってきた。これは偶然でしょうかね」
「それは偶然だと思いますよ。だって、もしもロミーさんがいないことを盗賊が知っていたのなら、向こうも魔法使いを用意してきたでしょうから。いつもどおり、剣を持った盗賊だけ。つまり、ロミーさんがいないことは、知らなかったということじゃないですかね」
「そうですな。考えすぎですか」
ゼノも同意する。
でも、確かに今日は様子を見ただけ。
本当はロミーがいないことを知っていたが、ワザと今日は魔法を使わなかったということもありうる。
その可能性も頭に入れておこうと、レニーは思った。
「それにしてもゼノさんの剣は、やはりすごいですね。実戦でも練習同様、いや練習以上に速い。立ち回りも鋭い。本物ってこうなんだなあって感心しましたよ」
「いえいえ。もう長く剣を振っていますからな。それだけですよ」
こうして2人はもう盗賊が襲ってこないことを確認してから、宿へと戻る道を歩き始めた。
そんな2人の戦いを、遠く空からじっと見ている女がいた。
竜に乗ったラーサだった。
ラーサは最初から、心配そうに2人の戦いを見ていた。
やがて無事に盗賊退治が終わったのを見届けると、安心したようにほっと息をついた。
そのままラーサは竜にて、宿屋へと一足先に帰ったのだった。