第64話 あなたは特別なんだから。あなたには才能があるんだから。だから、もっと自分に自信を持ちなさい!(1)
「うわー、すごい人。すごくにぎわっているんだね」
ロミーが心から楽しそうに、はしゃいでいた。
山の麓の繁華街。
ロミーの言うとおり、そこにはたくさんの人々がいて、活気にあふれていた。
大きな大通りには、たくさんのお店やテントが並んでいて、それこそあらゆるものが売られていた。
そんなお店のひとつ。水やジュースを売っているお店の主人が、ロミーに気づいて驚いたように、声を上げた。
「ああっ、これは珍しい。山頂にいるロミー坊ちゃんじゃないですか。しかも、かわいらしい女の子まで連れてきて・・・。こいつは隅に置けないねえ。さあ、この特製ミックスジュースを持っていってくださいよ。ああ、お代なんて、もちろん要りませんからね」
主人はロミーとジュリア、それぞれに特大のジュースを押しつけた。
「僕のことを知っているんですか?」
「当たり前じゃないですか。ずっとこの町を守っているのは、山頂に住むロミーさんとゼノさん。そんなことも知らないなら、この町ではもぐりですぜ」
物心ついたときから、ロミーはずっと山頂の屋敷にいた。
だから、これまで、町に出てきたことはなかった。
いや、もしかしたら、まだ記憶すらないような昔に、来たことはあったのかもしれないが・・・。
ジュース屋の主人の声を聞きつけて、周りのお店もいっせいにロミーに気づいた。
「ロミー様、これはうちの名物の魔法焼きでございます」
「いえいえ、ロミー様。うちの鉱山焼きこそ、至高の食べ物、ロミー様が食べるにふさわしいものです。さあさあ、お1つどうぞ」
「ロミー様、やっぱり食べ物はシンプルが一番。うちの焼きそばです。どうぞ召し上がってください」
「ロミー様と呼ぶのは、やめてください。普通にロミーさんでいいですから・・・」
ロミーの言葉にもかまわず、次々と現れて、ロミーとジュリアに食べ物を押しつけていく、店の主人たち。
当然のように誰も、お代など請求しない。
歩いているだけで、ロミーとジュリアの手元に、食べ物が次から次へと増えていった。
さらには、そこにいた普通の人々や観光客までもが、ロミーに気づき始めた。
「あのー・・・もしかして『透明のロミー』さんですか?キャー!サインしてください」
「私も・・・私もサインがほしいです!」
今度は女の子たちに取り囲まれて、サインをし始めるロミー。
どこに行っても、ロミーは大人気だった。
そんなロミーを少しすねたように、横目で見ているのはジュリア。
もちろん、気分いいわけはない。
でも、ずらっと並んだ人々にサインをしているロミーに悪気がないことは分かった。
むしろ、気が弱くて断れないのだろう。
その場にいた人々に、あらかたサインを終えたロミー。
それを見計らって、ジュリアはロミーの手を引いて、強引に人混みの外へと連れ出した。
少し人のいない場所まで、早足でかけていく2人。
ようやく一息ついて、2人は広場で休憩した。
「大人気だね、ロミー。みんなにチヤホヤされるのって、どんな気分?」
ついつい意地悪く聞いてしまうジュリア。
「どんな気分?もちろん、みんなが好意を寄せてくれるのは、うれしいよ。でも、それと同時にどこか寂しい・・・というか、孤独を感じる」
それはジュリアにとっては、意外な返事だった。
「寂しい?孤独?どうして・・・?」
「うん・・・。なんか、僕は普通じゃないんだなあって、改めて思うから。ずっと特別扱いされて、なんていうか・・・対等に話したり出来ないから。みんな、僕は特別な人だと思っている。本当は、どこにでもいる普通の少年なのに」
ジュリアは贅沢な悩みだと思ったが、それを口には出さなかった。
でも、そんなジュリアの気持ちに気づいたかのように、ロミーは続ける。
「分かってる。贅沢な悩みなのかもしれない。でも、僕は普通が欲しかった。寂しさや孤独を感じてしまうのは、本当なんだ。たぶん、僕は自分に自信が持てないんだと思う・・・」
今度はよく分かった。
ロミーの常にオドオドした態度。
自信のなさそうな声。
もっと自分に自信を持てばいいのに・・・それはずっとジュリアが思っていたことだったから。
違う、違う。
こんな話をしている場合じゃなかった。
今日の最大の目的は、ロミーの気を引くこと。
ロミーの気持ちをしっかりと、このジュリアにつなぎ止めることだった。
そのための方法を、ちゃんとジュリアは考えておいたのだから。
「ねえ、向こうに楽しそうなアトラクションがあるんだって。行ってみようよ」
明るい笑顔を作って、ロミーの手を引くジュリア。
2人は丘の上へと続く道を、ゆっくり歩き始めた。