第63話 「キューって集めて、ギュー、バーン・・・」って、そんな説明で魔法が使えるのなら、誰も苦労なんかしないっ!
それから数日たったある日のこと。
「まず自分の見ている世界から、魔法象限を隔離して、しっかり意識する」
「魔法象限?隔離?」
「そう、その象限における、自己の主要素。この場合は炎だね。それを己の要素として自在に操舵、増幅、放出が出来ることを、イメージとともに象限に焼き付ける」
「ああー!難しすぎますよ。もう無理、全然分かりません」
ロミーが頭を抱えて投げ出そうとする。
レニーとロミー。
この2人が何をやっているかというと、魔法の練習だった。
ロミーが興味本位で、魔法の使い方をレニーに聞いたのだ。
それでレニーがロミーに炎の魔法の使い方を教えようとしたのだが・・・。
「無理ですよ。レニーの話は難しすぎます。私にもちっとも分かりません」
横から口を出したのはセシル。
「そうかなあ・・・。魔法実習の教科書通りに、教えているはずなんだけどなあ・・・。まあいいや。とりあえずやってみようか。まずは炎の要素を探そう。あそこにあるランプの炎を使おうか」
「はい。それでどうすればいいですか」
「そのランプの炎。それを魔法象限にて移動して、増幅させる・・・」
「はあ・・・」
レニーの難しい言葉は、よく分からないままのロミー。
それでもなんとなくランプの炎を吸収して、手元で膨らませる。
「よし、そこで呪文。炎弾」
横から口を出すレニー。
だが、そのレニーの呪文に反応して、炎の弾が発射されてしまった。
炎は運悪く(?)、まっすぐにセシルの方へと飛んでいく。
「きゃー!あちっ・・・あちっ・・・あつーい!」
お尻を焦がして逃げまどうセシル。
「しまった。ごめんよ。今度は俺は何も言わないから。だから、ロミーさんがひとりでやってみて」
ロミーはもう一度、なんとなく炎を吸収して、手元で膨らませる。
「炎弾」
ロミーが呪文を唱えるも、何も起こらない。
「やっぱり僕ではダメですね」
「そんなことない。少しだけだけど、今、炎の弾が出来ていたから」
「本当ですか?」
「本当だよ。もう一回やってみてよ」
レニーはそう言いながら、ロミーのすぐ前で、大きな紙をかかげる。
「その紙はなんですか?」
「いいから、いいから。もう一回やってみてよ」
ロミーは同じようにもう一度、呪文を唱えてみる。
「炎弾」
ロミーには何も起こったようには見えなかった。
でも、レニーの持っている紙。
その一部がかすかに焦げていた。
「ほら、炎のあとだ。ちゃんと炎の弾がかすかに出来ているんだよ」
「本当だ。僕にも魔法が使えたんですね」
手を取り合って喜ぶ2人。
そんな2人をセシルはさめた目で見ていた。
「そんなかすかな魔法で喜ぶなんて・・・。だいたい、レニーの話は難しすぎるんです。私がもっと分かりやすく、光の魔法を教えてあげます」
「本当ですか?」
「はい、光の魔法はもっと簡単ですよ。まずは近くにあふれる光をキューって自分の手元に集めるんです。そしたら、それをギューってして、バーンって破裂させる。それだけです」
「キュー?ギュー??バーン???」
「そうです。キューって集めて、ギュー、バーン・・・で終わりです」
「いやいや、擬音ばっかりで、それじゃ何も伝わらないぞ」
たまらず横からレニーが口を出した。
「いいえ、これでいいんです。さあ、ロミー。やってみましょう。あ、呪文は光爆ですからね」
「ええ・・・キューって集めてと。ギューっとして、バーン。光爆」
やはりロミーの目には、何かが起こったようには思えなかった。
「ほら、出来ましたよ。一瞬、ロミーの手元が光り輝きました」
「本当ですか?」
「本当ですよ。ほら、いったん室内の電気を消して、もう一回やってみましょう。あ、私が遠くでランプを持ちますから、光の要素はそれを使ってください」
電気が消された暗闇の室内。
そこでロミーは、もう一度、光の魔法を使ってみる。
「えーっと・・・キューってして、ギュー、バーン。光爆」
ロミーの手元が、一瞬だけ、明るく光った。
「本当だ。出来た、出来た。確かに光が手元で光った!」
「そうでしょう。出来た、出来た」
セシルも駆け寄ってきて、一緒に喜んでいる。
一方でそんな2人をさめた目で見ているのはレニー。
いやいや。手元が一瞬だけ光る魔法なんて、どうやって使うんだよ・・・。
「でも、お2人はやっぱりすごいんですね。僕とはケタ違いの魔法を自由に使いこなしている。すごいなあ・・・」
「そんなことないと思うぞ。ロミーの魔法無効だって、他の誰にも出来ないすごい魔法・・・というか、特殊能力だけど。それもすごいことだよ」
ため息をつくロミーに、レニーが答えた。
「いいえ。僕なんてひとりじゃ何も出来ないですから。ゼノさんがいるおかげで、なんとか役に立っているようなものですし・・・」
やはり自信がなさげなロミー。
とりあえず、レニーとセシルの魔法教室は、紙を焦がすレベルの炎の魔法と、手元を照らすレベルの光の魔法で終わったのだった。
明かりをつけて、元に戻った室内。
ロミーがまだ何か言いたそうにモジモジしていることに、レニーは気づいた。
レニーは先に声をかけようかと思った。
でも、すぐにでもロミーが話し出しそうだったので、がまん強く待ってみる。
「あの・・・レニーさん。実はお願いがあるんですが・・・」
やはりものすごく言いにくそうに、申し訳なさそうに、ロミーが切り出した。
「なんですか?」
「ええ、あの・・・その・・・。実はジュリアさんから、お礼に食事でも・・・と誘われていまして・・・。だから、僕も是非一緒に行きたい、と思っているんですが・・・」
「いいんじゃないですか。ずっとこの宿に閉じこもっているのも、気が滅入ります。たまには出かけてくればいいと思いますが」
「でも・・・僕には魔法石の鉱山を守る、という役割があるんです。盗賊はいつやってくるのか分からない。その盗賊から鉱山を守るのが、僕の役割です。だから、遠くまで出かけることは出来ないんですよ」
そうだった。
ロミーは鐘が鳴ったら、盗賊を追い返すために、出て行かなければならないのだ。
だから、遠くまで出かけるわけには行かないのだった。
レニーにはロミーの言いたいことが、すぐに分かった。
「分かりました。ロミーさんのいない間の盗賊退治。それは僕らが引き受けます。もしも鐘が鳴ったら、僕らで鉱山は守りますから。だから、たまにはロミーさんも、思いっきり外の世界で遊んでくればいいんですよ」
「本当ですか?」
ロミーの表情がうれしさで、ぱっと輝いたように明るくなった。
「ええ、大丈夫です。確かに引き受けました」
「やったー!それならすぐにでも予定を立てないと・・・。えーっと、明後日・・・いや、明日でも大丈夫でしょうか?」
「いいですよ。こちらはいつでも大丈夫です」
「それなら、明日にします。それじゃあ早速、ジュリアさんに伝えてきますね」
喜び勇んで、嵐のように部屋をかけだしていくロミー。
本当にうれしそうだ。
「いいな、いいなあ・・・。そうだ、レニー。私たちもデートしましょうよ。あっ、それともダブルデートとか。それだ!私とレニーも一緒にダブルデートして、ロミーの恋を応援する。完璧なプランですよね」
「バカヤロウ!俺たちまで出かけたら、誰が魔法石の鉱山を守るんだよ」
セシルの提案は、一瞬でレニーに却下されてしまう。
「レニーさん、明日で決まりです。明日、山のふもとの繁華街まで、ジュリアさんと一緒に行くんです」
「よかったですね・・・。まあ、がんばってください」
瞳をキラキラさせているロミーに、レニーはそれ以上、何を言えばいいのか分からない。
「あのー、ロミーさん。実は初めてのデートなら、ダブルデートが・・・うぐっ・・・ぐぐっ・・・」
セシルが余計なことを言いかけて、レニーに無理矢理、口をふさがれていた。
「それじゃあ明日は、もしも盗賊が現れても、俺たちでなんとかしますから。ロミーさんはそんなことは忘れて、おもいっきり楽しんできてください」
かわりにレニーが伝えた。
そうなのだ。
ロミーはこれまでずっと、盗賊に備えて毎日待機してきたのだ。
ふもとの町へと出かけることさえも、難しかったのだ。
ロミーも、ずっと大変な役割を背負って暮らしてきたのだなと、レニーは改めて同情していた。
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