第62話 朝からそんなセクシーなドレスを着る必要なんて、これっぽっちもないっ!
宿屋の食堂。
朝食にはそれぞれのメニューが並ぶ。
ご飯に鮭の和食コース。
パンとベーコンエッグの洋食コース。
パンケーキにパフェ、アイスのお子さまコース(?)。
「あれ?ジュリアさんはパフェじゃなくていいんですか?」
「うん・・・たまにはご飯も食べたいかなって」
ロミーの疑問に、最大限、気を使って答えたジュリア。
どうやらロミーは、まだパンケーキにパフェ、アイスがジュリアの好物だと信じているらしい。
そのとなりで、朝から遠慮なく、大盛りのパフェをガツガツ食べ進めているのは、言うまでもなくセシル。
さらにその隣では、ゼノとレニーが朝からがっつりステーキにとりかかっていた。
「体を鍛えるには、朝からしっかり食べておかないともちませんからな」
ゼノの言葉に従って、レニーも朝からステーキとなったのだ。
みんながわいわいと朝食をとっているとき、遅れてラーサがやってきた。
なぜだかラーサは大きく胸元の開いた、真っ赤なドレスを着ていた。
まるで今から舞踏会にでも参加するかのような格好だ。
絶対に朝食を食べるときに着るような服ではない。
ラーサはドレスを着ながら、背中の方へと手を伸ばしていた。
「ああ、届かない。背中のファスナーが届かないわ」
レニーが見ると、背中のファスナーがぱっくり開いたままで、美しい背中がこれ見よがしに露わになっていた。
あまりにも大胆すぎて、レニーは目のやり場に困った。
「ああ、やっぱり届かないわ。ロミー、ちょっと手伝ってくれない。ロミー、背中のファスナーを上げてくれないかしら」
やっぱり・・・。レニーは苦笑する。
ジュリアとここで出会った瞬間から、ラーサはやたらとロミーに接近するようになっていた。
ロミーに対して、必要以上にスキンシップをとったり、転んだフリをして抱きついたり・・・。
まったく・・・。
ラーサは何を考えているのだろう?
レニーには、ラーサがジュリアと張り合っているように見えた。
どう見ても2人は初対面ではない。
なにかしらの因縁めいたものを感じる。
「え?僕ですか?でも・・・」
ラーサの背中にドキドキして、直視することも出来ないロミー。
「いいから、いいから。はい、お願いね。自分では手が届かないのよ」
また必要以上に接近して、ロミーの耳元でささやくラーサ。
ロミーが目をそらしながらも、ラーサの背中のファスナーに手をかけようとしたそのとき、横からそっと忍び寄ったジュリアが、ファスナーに手をかけた。
ジュリアはそのままファスナーを上げるのではなく、逆にそれをおもいっきりずり下げた。
お尻まで露わになるラーサの後ろ姿。
「きゃー!ちょっと、何するのよ。なんであんたが横から余計なことをするのよ?」
「あら、ごめんなさい。あなたが朝から露出狂のマネをしたがっているみたいだったから、手伝ってあげただけよ。ごめんあそばせ」
「誰が露出狂よ。あなたみたいな、あざといぶりっ子には、大人の魅力なんて分からないわよね」
「ええ、分からないわ。体しか武器がない女なんてかわいそう」
「そうよね。あなたには武器になるような部分が、これっぽっちもないものね。そのペッタンコな胸では、なにも出来ないものね」
「なによ。私にはほかに魅力がいっぱいあるから、そんなものいらないんだから」
「あんたの魅力なんてゼロよ、ゼロ。いいえ、マイナスだわ。男だったら、見た瞬間に私を選ぶに決まっているんだから」
2人の間でオロオロするしかできないロミー。
レニーはそんなロミーを見かねて、そっとロミーの手を取って救出すると、逃げ出した。
「なによ!」
「そっちこそなによ!」
まだ続く2人の言い争い。
レニーとロミーは2人を取り残したまま、自分たちの部屋へと逃げ込んだのだった。
やっぱり平穏で楽しい日々は続かない。
まだまだ何か起こりそうだとレニーは思っていた。