第61話 「女の子のおっぱいには優しさとか思いやりとか愛とかぜーんぶが詰まっているのよ」ってそんなメチャメチャな話、よくまじめに話せるな!
屋敷のすぐ近くにある宿屋「カプレア」。
山頂近くにあるせいで、普段はあまり客がいない。
でも、宿の食堂もかねるその大広間は、今日は人でいっぱいだった。
もちろん、いつものレニー、セシル、ラーサ、竜。
それにロミーとゼノまで加わってにぎやかだ。
人数もさることながら、個性豊かな(うるさい)面々で、さわがしいことこの上ない。
「ねえねえ、レニー。部屋割りを決めましょうよ。もちろん公平に、くじ引きがいいですよね。じゃあまずレニーから。はい、レニーはこのくじを引いてくださいね」
わざわざ箱からひとつだけくじを出してきて、レニーに渡そうとするセシル。
「バカヤロウ!くじ引きって、引くくじを決められたら全然公平じゃないだろうが!だいたいこのメンバーで、部屋割りを決めるのに、くじ引きなんて必要ない!俺とゼノさんとロミーさんで一部屋、男部屋ね。で、セシルとラーサが同じ部屋、女部屋と。あ、竜も一応、女だからそっち。これ以外にありえないだろうが」
「えー!それじゃあ、私とレニーの2人の愛の絆が弱まってしまいます。やっぱり愛する2人は、同じベッドで2人仲良く結ばれないと・・・」
「おい!お前は今、平気な顔をして、ものすごいことを言ってるぞ。ダメダメ。決まり、決まり」
「つまんなーい!」
やはりどこに行っても、騒々しさは変わらないいつもの面々。
そのとき、大広間に1人の女がやってきた。
ツインテールに幼い表情。
その女を見つけたとたん、ロミーがぎこちなく声を上げる。
「ジュリア・・・さん・・・」
でも、ジュリアはロミーを見ていなかった。
ジュリアの視線はまっすぐラーサを見ていた。
ラーサもおどろいた表情でジュリアをまっすぐに見つめ返していた。
2人して黙ったまま、見つめ合うことたっぷり10秒。
まるで時間が止まったようだ。
やがて、2人して同時に奇声を上げた。
「きゃー!なんでよ?何であんたが、こんなところにいるのよ?」
「こっちのセリフだわ。どうしてあなたは、いつもいつも私のそばまでジャマをしにくるのよ?」
あまりにも大きな2人の声に、思わず耳をふさぐレニー。
「2人は・・・知り合いなの?」
「こんな女、知らないわよ。こんなに根性が悪くて、チビで、年いってるくせに若作りしてて、いつもいつも男のことばかり考えてる女なんて、これっぽっちも知らないっ!」
「なによ!そっちこそバカみたいに巨乳を見せつけるくらいしか能がないくせに。気取って、自分はモテるとか勘違いしてるんじゃないわよ。こんなはしたないだけの女、私だって全然知らないんだから!」
いや、その言い方・・・。
2人とも、絶対知ってる言い方だよな。
それもかなりの犬猿な関係らしい・・・とレニーは思った。
にらみ合って、バチバチと火花を散らす2人。
ラーサは思いついたように、ロミーの方へと体を寄せて、小さな声で聞く。
「ねえ、ロミー。そんなことはありえないと思うんだけれど・・・。あなたが気になっているジュリアってあの人?」
「ええ、まあ・・・」
「ダメよ。あんなペッタンコな貧乳のどこがいいの?いい、ロミー。女の価値っていうのは、おっぱいの大きさで決まるの。女の子のおっぱいには、優しさとか思いやりとか愛とかぜーんぶが詰まっているんだから。その点、あの女はダメね。優しさも思いやりも何もない。いい、悪いことは言わないから、あの女はやめておきなさい」
横で聞いているレニーすら、なんてメチャメチャな理屈なんだと開いた口がふさがらない。
でも、ラーサは大まじめな顔でロミーに言っていた。
「ちょっと、無茶苦茶なことを吹き込まないで!ねえ、ロミー。まさかそんな体ばっかりの女の言うことなんて、信じないわよね・・・。あなたは純粋だから、すぐにだまされてしまうかも。だまされちゃダメよ。ああいう女は、胸とか足とかやたらと露出して、男を惑わせるの。いい、これからはあんな女に近づいちゃダメ。半径1キロ以内に近づくだけでも、病気が移るからね」
ロミーとラーサの間に、割って入りこんできたジュリア。
「さあ、あんな女の悪い考えが移る前に、ここを離れましょう。ロミー、あなたは私と2人きりで、私の部屋に閉じこもるのが安全ね」
ロミーの手を引いて、自分の部屋に連れて行こうとするジュリア。
「ちょっと、その手を離しなさい。けがらわしい。そうやって、あなたは何人の男を不幸にしてきたのよ。この疫病神」
ロミーの反対側の手を握って離さないラーサ。
ラーサとジュリア、2人の目線がぶつかって、バチバチと火花を散らしていた。
その真ん中で、おどおどと困って何も出来ないロミー。
「はいはい。もうおしまい、おしまい。ロミーは俺が連れて行くからな。俺とロミーさんとゼノさんで一部屋、男部屋。当たり前だろうが。ラーサもセシルと竜を早く部屋に連れて行ってくれ」
結局レニーがその場からロミーをさらって、部屋へと逃げ込んだのだった。
それでようやく、その場はおさまった。
でも、これで終わりじゃない気がする。
むしろこれからも、いろいろともめ事が起こりそうな予感しかしない・・・。
レニーはひとり、頭を抱えていたのだった。