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第6話 「女の子はみんな、白いドラゴンに乗ったオオカミさんが迎えに来てくれるのを待ってるんです」って、それどんなお話だよっ!

「ちょっと待て。なにかおかしくないか?」


 レシチアの宿屋。

 部屋は少し狭いながらも、きれいで快適だった。

 部屋の中にはテーブルといす。それにベッドが二つ置いてある。


 そのベッドのひとつに仰向けになりながら、レニーは言った。


 セシルはもうひとつのベッドの上で、トランポリンのようにピョンピョン飛び跳ねていた。


「え?なにがですか?」


 セシルは相変わらず楽しそうだ。


「いや、なにがって…?ひとつの部屋に男と女…」

「だから?それがどうかしましたか?」


 セシルが平然と答える。レニーは頭を抱えた。


「いやいや。セシルは赤ずきんちゃんがオオカミさんに襲われちゃうって話を知っているかい?」

「あー!その話なら知ってますー。子供のころ、お母さんに何回も絵本で読んでもらいましたから」


 セシルは急にベッドを飛び降りると、ドタドタとレニーのほうへやって来た。

 あわててベッドから飛び起きたレニーに、セシルは話し始めた。



「えほん 『三人の赤ずきんちゃんたちとオオカミさん』


(一ページ目 三人の赤ずきんちゃんたちの絵)

 あるところに、赤ずきんちゃんと青ずきんちゃんと黄ずきんちゃんの、三人の女の子がいました。


(二ページ目 剣をもった青ずきんちゃんの絵)

 青ずきんちゃんは、毎日まじめに剣と魔法の修行をがんばったので、村のモンスターをバッサバッサとなぎ倒して、勇者の称号を手に入れました。

 でも、あまりに強かったので、オオカミさんたちはおそれをなして近づいてきませんでした。


(三ページ目 コンピュータに向かう黄ずきんちゃんの絵)

 黄ずきんちゃんは、毎日まじめにお勉強して、計算やコンピューターができるようになったので、キャリアウーマンの称号を手に入れました。

 でも、ちょっと厳しすぎたので、やっぱりオオカミさんたちは敬遠してしまいました。


(四ページ目 鏡に上目づかいで笑いかける赤ずきんちゃんと花束を持ったオオカミさんの絵)

 赤ずきんちゃんはお勉強も嫌いだったし、ちょっと怠け者だったのですが、いつもおしゃれな服を着て、かわいく見えるお化粧や上目づかい、女の子っぽいポーズをがんばりました。

 すると、満月の夜、白いドラゴンに乗ったオオカミさんが赤ずきんちゃんを迎えに来ました。

 オオカミさんが赤ずきんちゃんにキスをすると、赤ずきんちゃんがなんとお姫様に変身したのです。


(五ページ目 同じベッドに仲良く眠るお姫様とオオカミさん)

 お姫様になった赤ずきんちゃんは、オオカミさんにおいしく襲われて、二人でイチャイチャしながら幸せに暮らしましたとさ。

 めでたし。めでたし」



「ん?いや、俺の知ってる話とだいぶ違うというか…。そもそも原形とどめないぐらい、話が違ってしまっていると思うんだが…」

「え?お母さんから毎日聞かされていたから間違いありません。レオネシア文庫の絵本の中でも、常にベストテンに入る大人気のお話ですよ」

「それが本当だとしたら、かなり問題あるだと思うぞ。大体その話、なにが言いたいんだよ?」

「決まっているじゃないですか。女の子はおしゃれして、上斜め四十五度に視線をおいて、いつでもかわいく『えへっ(はあと)』って笑える練習をしておきましょう」

「ああ…。もういいっ!」


 レニーには返す言葉もなかった。

 頭がおかしくなりそうだ…。

 セシルはその言葉どおり、上目づかいのかわいい笑顔を練習している。


「女の子はみんな、白いドラゴンにのったオオカミさんが連れ去ってくれるのを待っているんですよ」


 白いドラゴンにのったオオカミさん?なんだそれは?

 セシルは夢見がちな瞳で、あらぬ方向を見ていた。


「きゃあ。オオカミさんにおいしく召し上がってもらわなきゃ。もっとかわいくかわいく…」


 セシルはあわてて化粧道具を持って、洗面所へと消えたのだった。


 なんだなんだ?なにかがおかしい…。いや、なにもかもがおかしい。

 レニーは再びベッドに横になった。


 星のきれいな夜だった。

 窓の外には美しく輝く星たちに囲まれて、半月が白く輝いていた。

 レニーは目を閉じた。静かな夜だ。


 静けさを打ち破るドタドタとした足音。

 セシルがあわただしく戻ってきて、レニーに言う。


「どうですか?レニー。これでオオカミさん、迎えに来てくれるかな?」


 セシルはパジャマに着替えて、化粧までして戻ってきていた。

 おいおい。寝る前に化粧してどうするんだよ、と思いながらも、レニーはめんどくさそうに答えた。


「ああ、オオカミでも魔法使いでも早く迎えに来て、連れ去ってくれるといいな」

「あー!言葉にぜんぜん気持ちが入っていません。どうでもいいと思っているでしょう?やり直し!」


 セシルはベッドに寝転がっているレニーのおなかを、思いっきり殴りつける。

 レニーは一瞬うめいて、それから髪の毛をかきむしって、起き上がる。


「ああ、もう!」


 レニーの目の前にはうっすらと化粧をして、かわいいピンクのパジャマに身を包んだセシルがいた。

 透き通った美しい瞳に見つめられて、レニーは身がすくんだ。


「姫、その美しさなら、きっと白いドラゴンにのったオオカミさんも思わず襲いかかってしまうことでしょう」

「きゃあ。オオカミさん、早く来ないかな」


 セシルははしゃぎながら、自分のベッドへと走り去った。


 いけない、いけない。

 ひとつ間違えると、俺がオオカミに変身してしまいそうだ。

 レニーは再びベッドに寝転がって、ひとり小さくつぶやいた。

 


読んでいただいてありがとうございます。


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