第59話 こんな室内でそんな広範囲魔法を使うんじゃねえっ!
「セシルさん。『アイスクリーム、パフェ、パンケーキばかりで飽きた・・・』って言われてしまったんですが、どうすればいいですか?」
「そうね、バリエーションを増やしましょう。アイスクリームはバニラだけじゃなくチョコやストロベリーも用意すること。それに、クレープも加えましょう。女の子は誰だって甘いものが大好きなんだから、これで間違いないはず!」
「それから、プロレスに興味ないみたいなんですが・・・。プロレス雑誌はどうしましょうか?」
「えー、女の子がプロレスに興味ないなんて、あるはずがない!だって、女の子はマッチョが大好き!プロレスラーと言えばマッチョ!つまり女の子はプロレスが大好き!ってことよね・・・。うーん、はっ・・・もしかして彼女は、同じプロレスでも『全レオネシアグランプリ』の方ではなくて『新世界王者戦』の方に興味があるのかも・・・。そっち方面の雑誌も用意しておくべきね」
「分かりました。早速、明日にでも持って行きます」
セシルの講義を、メモすら取ろうとする勢いで、まじめに聞いているのはロミー。
ジュリアを宿まで運んだあの日。
急いで屋敷へと駆け込んだロミーは、そこにいたセシルに「もしも足をケガして、一日中ベッドに寝ていなければならないとしたら、何がほしいですか?」と聞いたのだ。
その結果が、アイスクリームとパフェ、パンケーキ。それに雑誌(プロレス雑誌を含む)、レオネシア英雄カードとなったのだった。
いやいや。なにもかも間違っているから。
すぐとなりで聞いていたレニーは、苦笑するしかない。
そもそも相談する相手がセシル、というのが一番の間違いだったのだとレニーは確信していた。
やがてセシルの講義も一段落したところで、レニーがロミーに話しかけた。
「ところでロミーさんの魔法無効。あの特殊能力のことを詳しく知りたいんですが。魔法無効は、ロミーさんの前では、いつでも有効なんですか?」
「ええ、僕が普通に意識している間は、視界に入る世界はすべて、魔法無効されます」
「するとロミーさんが意識しなければ、目の前でも、魔法無効されないこともありうる?」
「そうですね。極端な話、僕が目をつぶっていれば、魔法無効は発動されません。そうでなくとも、僕の意識次第で、魔法無効の世界にすることも、魔法の使える世界にすることも可能ですね」
「なるほど。ちょっと今、魔法無効してみてくれませんか?」
「分かりました」
ロミーは笑顔のまま、何も変わった様子はない。
「炎弾」
その状態で、炎の魔法を使おうとするレニー。
でもやはり魔法は発動しない。
炎を自分の思い通りに動かすことがまったく出来ないのだ。
「それじゃあ、今度は、魔法を有効な世界に戻してしてくれませんか?」
「ええ、いいですよ」
やはりロミーに変わった様子はない。
でも、世界は確かに変わっていた。
「炎弾」
レニーがつぶやくと、炎の弾が出現し、飛んでいく。
「きゃあー!あつっ、あついっ!!!」
その弾はまっすぐに飛んで、見事にセシルめがけて命中した。
「なるほど、ちゃんと魔法が使える。つまりロミーさんは魔法無効するか、逆に魔法を有効にするか、自由に制御できるということですね」
「そのとおり・・・みたいですね。自分でもよく分かっていないんですが・・・視界にはいるものすべてを『あるがままに。自然のままに』って感じで見ていると、魔法無効がかかります」
一般に、魔法はそれぞれの人が持っている精神力で操作する。
レニーなら、自分の視界に入る「炎の要素」を、精神力で増幅したり、移動したりして発動する。
ロミーは視界に入るすべての要素を操っているのだろうか?
「ひっどーい!今度はこっちの番ですからね。光雨」
そのとき、向こうの方からセシルの声がした。
セシルが立ち上がって呪文を唱えていた。
「ばかっ!やめろ!そんな広範囲魔法を使ったら、建物ごとダメージ受けるだろうがっ!」
レニーが叫ぶも、時すでに遅し。
何本もの矢のような光の雨が、レニーはもちろん、ロミーや建物にまで降り注いでいた。
とっさに手で頭をかばって、魔法を受けるレニー。
結構な衝撃を受けて、レニーは「あのやろう、手加減すらせずにこんな魔法を撃ちやがって」と毒づいた。
一方、同じように魔法を食らっても平然としているロミー。
「ロミーさん、大丈夫ですか?」
「ええ、これくらい全然平気ですよ」
何事もなかったかのように立ち上がるロミー。
その姿を見て、レニーはあることを思い出していた。
レオネシア英雄カード「透明のロミー」。
そのカードは「魔法防御 ∞(むげんだい)」となっていたことを。
あれはどうやら本当の数値なのかもしれない。
セシルの魔法で、建物の壁も少し崩れたりしたものの、大きな被害はなかったようだ。
「ばかやろう!そんな魔法を使って、建物ごと壊れたらどうするんだよ」
「そっちこそ!急に炎の魔法を撃ってきたりして、私が壊れちゃったらどうするんですか?」
「十分に強いセシルは、あれぐらいの魔法で壊れたりしない」
「ひっどーい!かよわくて繊細なセシルは、気をつけて丁寧に取り扱わないと、すぐ壊れちゃうんですからね」
「本当にかよわい女の子は、自分で『かよわい』なんて言わない」
「セシルが壊れてしまったら、レニーは本当にかよわいこのラーサが責任を持って引き受けてあげるから。安心して大丈夫よ」
「2人してひどーい!だったら、今すぐ2人で心中させてあげるんだから」
今度は剣を抜いて切りかかってくるセシル。
レニーとラーサの2人は、そんなセシルから一目散に逃げ出したのだった。
ひっそりぼちぼち続けるぞー!おー!