第56話 お前はもうちょっと、努力する方向を考え直した方がいいぞ!
狭い道の向こう側から、盗賊とみられる集団が攻め込んでくる。
それをさえぎるように、レニーとセシルは横に並んで立っていた。
レニーたちのはるか後ろ。
見張りをする櫓から、相変わらず鐘が鳴らされている。
ロミーもその櫓の中にいて、澄んだ瞳でこちらを見ていた。
「ねえ、レニー。本当に魔法が発動しませんよ。ほらほら。『光弾』」
「やめろ!たとえ発動しないとしても、そんな物騒な魔法を俺に向けるんじゃないっ!」
レニーも、すでにこっそり試した後だった。
炎の魔法も、まったく発動できない。
いつもなら自在に操れるはずの、炎の要素がピクリとも反応しなかった。
透明のロミー、魔法無効。
原理はよく分からないが、本当に存在するのだ。
すでに盗賊は、レニーたちのすぐ目の前まで来ていた。
全部で30人くらいだろうか。
盗賊と言うから、もっと小汚い格好で、たいしたことのないチンピラのような相手を、レニーは想像していた。
でも目の前の盗賊は、きれいな長い剣を持ち、隊列もしっかりしている。まるで軍隊のようだ。
盗賊っぽいのは、みんなが黒い布で顔を隠していることぐらい。
顔を見られたくないということだろう。
「レニー、行きますよ。セシルキャプチャーからの、アキレス腱固め!」
真っ先にセシルが相手の方へと飛び込んでいく。
回転しながら、相手の足に飛びついて倒し、がっちりとアキレス腱固めを決めるセシル。
こんな状況でもプロレス技かよ!
やめてくれ!
案の定、他の盗賊がセシルを取り囲んで、剣で切りかかろうとする。
レニーはあわてて槍を持ってその中に割り込み、槍を振り回して盗賊を追い払った。
「あのなあ・・・。こんなところまで、プロレス技は止めてくれ!相手の方が圧倒的に人数が多いんだから。やられるぞ。やられなくても、効率が悪すぎるぞ!」
「そんな・・・。プロレスこそ至高!プロレスこそ最強!プロレスこそ私のアイデンティティーなんです」
「アイデンティティーなんて難しい言葉、どこで覚えたんだよ!こんなところでアイデンティティーなんて発揮しなくていい。この人数を1人1人、関節技で倒しきるつもりか?いいな、関節技禁止。素直に剣で戦え」
「えー!そんなあ・・・。分かりました。じゃあ、効率のいい戦いしますから。それなら大丈夫ですよね」
そう言うと、セシルは手近な盗賊をドロップキックでなぎ倒した。
そのままセシルは、その盗賊の両足を両手で抱えて、回転しながら振り回し始める。
「これがジャイアントスイングー!えいっ!」
セシルは振り回した盗賊を、他の盗賊集団に向かって投げつける。
「これなら、盗賊たちにまとめて攻撃できますよね。これなら効率よく、戦えます」
いやいや。
お前、最後までその調子で、盗賊を振り回してぶん投げ続けるつもりか?
でも、道幅も狭い。さらにセシルが盗賊を次々と投げ飛ばすおかげで、盗賊も簡単にはこちらに近寄れなくなっていた。
レニーはそれでもセシルの方へと近づいてきた盗賊を、槍で攻撃する。
倒れたり、動けなくなる盗賊が少しずつ増えていく。
「ああ、目が回る。レニー、もうそろそろ限界かも・・・」
セシルが回りながら座り込む頃には、盗賊はもう逃げ始めていた。
レニーは最後まで残った数人の盗賊を、槍で追い払った。
盗賊たちがみんな逃げ去って、残ったのは槍を持ったレニーと、座り込むセシル。
「ああ、つかれました。もうダメ。立ち上がれない・・・」
「これに懲りたら、ちゃんと剣で戦う練習をするんだな」
「分かりました。これぐらいのジャイアントスイングでへこたれないように、普段からちゃんとレニーを投げ飛ばして、練習するようにします」
「・・・・・・」
なんでそうなる?
努力の方向が根本的に間違ってるぞ。
しばらくたって、セシルがほぼ回復してから、2人は屋敷へと戻ったのだった。
魔法石の鉱山を狙う盗賊。
それにしては、弱くはなかった。
装備もしっかり整っていたなと、レニーは思っていた。
ここまでついてきて、読み続けて下さている方、ありがとうございます。