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第54話 「これがレニーとの初めての共同作業ですね」って、どうしてお前は、そんな言葉ばっかり知っているんだ?


「これがレニーと2人で行う、初めての共同作業ですね」


「こんな物騒な共同作業、いやだわっ!そもそも、お前、その言葉の意味、絶対に分かっていないだろっ!」


「知ってますよ。当たり前ですよ。初めての共同作業で、2人して永遠に結ばれた男女は、心を1つにして、これからの人生を送るんです」


「なんでそんなことだけ、知っているんだ?だいたい、こんなことをする羽目に陥ったのは、全部お前のせいなんだからな!」


 レニーとセシルは、完全に気を失った1人の男を抱えながら、山道を登っていた。

 レニーが男の両腕を持って、前に進む。

 セシルが男の両足を抱えて、後ろに続く。

 2人のすぐそばには、セクシーなお姉さん、ラーサと、リリーも続いている。

 2人がなぜこんな物騒な共同作業をしているのかというと・・・。

 



 話は1時間ほど戻る。

 レニー、ラーサ、セシル、リリーの4人(正確には3人と1匹)は、山に囲まれた高山都市、タナシスという町に来ていた。


 タナシスは、高品質の魔法石の産地として有名だ。

 魔法を使う際に、必要な魔法石の結晶。

 ここタナシスの鉱山から取れる魔法石は、レオネシア大陸全土でも、1、2を争う品質で人気だった。


 山道を登って、タナシスの公園までようやくたどり着いたレニーたち。

 公園に人はほとんどいなかった。

 わずかに、ベンチに座っている初老のおじさんが1人だけ。


 レニーは荷物をおくと、竜の槍を構えた。

 竜の槍。親友だったケインが残した形見。

 レニーは槍を構えて素振りを始めた。

 セシルもすぐとなりで、剣を構えて振っている。


「ねえ、レニー。素振りは、もう飽きました。早く実戦練習しましょうよー」


 有無を言わさず、セシルが剣を構えて、レニーに飛びかかった。

 レニーもセシルの剣を槍ではじいて、セシルの方へと構え直す。


「たあぁぁぁぁぁっ!」


 セシルが再び大げさに剣を振りかぶりながら、レニーの懐へと入り込む。

 レニーも槍をたたきつける。

 セシルの剣がはじかれたその時、セシルはレニーの右腕へとからみついていた。


「くらえっ!新必殺技、飛びつき腕ひしぎ十字固め!」


「なにをっ!このままエルボードロップで返り討ちだ!てやっ!」


 レニーは両腕を組んで、セシルにとらえられた右肘をそのまま曲げて、セシルごと地面へと打ちつける。

 グハッ!わき腹を肘で打ちつけられたセシルは悶絶して、2、3回ほど地面を転がってから、ゆっくり起きあがった。


「さすがレニーだわ。私の新必殺技さえ、とっさの返し技で反撃してくるなんて・・・。私もまだまだね。また新しい必殺技を考えなくては・・・」


「いや、まずは、すぐプロレス技に持ち込むのをやめてくれないかな。なにが実戦練習だよ。こんなプロレス知識、実戦に1ミリも役に立たないぞ!」


「あー!それはプロレスに対する侮辱です!プロレスはあらゆる格闘技のなかで最強なんですから。プロレス、ナンバー1!プロレス、最強!」


「・・・・・・」


 レニーは頭を抱えた。

 いつものことだ。

 これだから、練習相手としてセシルはまったく役に立たない。


 そんな2人の練習風景コメディを、熱心に見ている男がいた。

 公園のベンチに座っていた初老の男。

 彼は立ち上がって、レニーの方へと歩いてきた。


「いやいや、これは珍しいお客様ですな。その大きな槍を使いこなすのは、かなりの力と技術が必要でしょうに。それに実戦レベルで、プロレス技を使いこなすお嬢さん。いやいや、素敵な方々だ」


「分かりますか?この実戦レベルのプロレス技のキレ!飛びつき間接技サブミッションアーツこそ、小さな体で大きな敵をギブアップさせるプロレス技の神髄ですよね」


「そんなもの、分かるわけないだろっ!」


「いえいえ。一瞬で懐に飛び込む速さ。剣をとばして、そちらに注意を逸らしておいてからの、関節技に持ち込む技術。確かに一流のプロレス技とお見受けしました」


「やったー!ほら、一流だって。やっぱり見る人が見れば、分かってしまうのよね。さあ、今日からレニーも一緒に、真剣にプロレスマスターを目指しましょう」


 ・・・・・・。

 いや、あまり調子に乗せるのはやめてくれないかな。

 このセシルの目。

 明らかに、本気でレニーまでプロレスごっこに巻き込むつもりだぞ。


 レニーの心を知ってか知らずにか、男は自らの剣を取り出して、レニーに言った。


「よろしければ、私ともお手合わせ、お願いできますかな」


 美しい剣を抜いた男。美しい構え。その構えからは威圧感オーラすら漂っている。

 強い。

 実際に戦ってみる前から、レニーにはその強さが伝わった。


 久しぶりに強い相手と練習ができる。

 レニーには願ってもない機会チャンスだった。


「ただし、魔法はなしでお願いしますね。お恥ずかしながら、私、魔法への耐性はまったくありませんので・・・」


 レニーが槍を構える。

 相手は剣を構えたまま、身動き一つしない。


「てやっ!」


 レニーが槍を振りかぶって、横から相手にたたきつけようとした。

 その一瞬に、男は間合いをつめて、剣を振る。

 速い・・・。

 それは圧倒的な差だった。


 レニーの槍が相手に届く前に、男の剣がレニーの首筋に突きつけられていた。

 実戦だったならば、間違いなく、レニーの首は飛んでいただろう。


「槍を横からたたきつける、というのは時間のかかる動作です。よほど隙のあるときか、間合いの離れたときでなければ、致命傷となりますよ」


 男が注釈する。

 悔しいがそのとおりだった。

 このレベルの戦いだと、命取りになる。

 それなら・・・。


 レニーは距離を離して、槍をコンパクトに男の方へと突き出した。

 男は剣であしらって、その槍先をかわす。

 2撃目、3撃目・・・。

 レニーはなるべく素早い動作で、槍を繰り出す。


 しばらく小競り合いが続いていたその瞬間、男は一気に斜め前方へと距離をつめて、横へと剣をふるった。

 剣先が、またレニーの首筋をかすめる。

 これも本気なら、レニーの首を落とせていたことだろう。


「攻撃が単調になりましたね。タイミングを取れれば、カウンターをとるのは難しくありません」


 男はさも簡単そうに、さらっと解説する。

 でも、よほどのスピードと度胸がなければ、できないことだろう。


「いや、参りました。あなたは強い・・・。圧倒的な実力差があることは分かります。完敗ですね」


 レニーの本心だった。

 潔く負けを認めた。


「いえいえ。ただただ長いこと、剣を振ってきただけのことです。あなたの槍すじも悪くない。ただ、その槍に比べて、体がもう一つ、追いついていない部分があります。その槍を扱うには、後背筋、腕力、大腿四頭筋など、体幹の筋力が足りない部分があるのです。それがスピードに限界を作ってしまう・・・」


 そんなことまで分かってしまうものなのか。

 達人というのは存在するものだな、とレニーは感心した。


「ずるーい!レニーばかり遊んでもらって、ずるいです」


 横から飛び込んできたのは、やはりセシルだった。

 セシルにとっては、実戦練習すら、「遊んでもらう」ことらしい。


 セシルが持っていた剣を構えて、男の前に立つ。

 セシルも構えだけなら、美しいのだが・・・。


「たあぁぁぁぁぁ!」


 甲高い声を上げながら、男に飛びかかるセシル。

 男がセシルの剣を、自分の剣ではじいた。

 セシルの剣が大きく飛ばされる。


「ここで、ウエスタンラリアットー!とうっ!」


 やっぱり・・・。

 セシルは初対面の相手との練習でも、やっぱりプロレス技だった。


 でも、男は落ち着いていた。

 男はセシルのラリアットを、すでにしゃがんでやり過ごしていた。

 さらに男は、その場で剣を捨てると、振り向きざまに右腕を直角に曲げて、走り込む。


「あまいっ!アックスボンバー!ファイヤー!」


 男の腕がセシルの顔面にヒットした。

 え?これはプロレス技?

 この男はなんでもできるのか?


「すごーい!こんなの初めて!私のラリアットが、こんなに鮮やかに返されるなんて・・・」


 いやいや。最初に2人が持っていた剣は、どこにいった?


「よーし!次行きますよー!ひっさーつ・・・」


 すでに剣を拾おうともしないセシル。

 男も剣を捨てたまま、まるで格闘戦でもするかのように、低い姿勢で構える。


「ひっさーつ、ドロップキーック!」


 セシルが走り込んで、男の正面から跳び蹴り。

 でも男は、その跳び蹴りを正面から受け止めた上で、セシルの足をつかんだ。


「そんな蹴りでは、私を倒すことはできませんよ。ほら、ドラゴンスクリュー!」


 男はセシルの両足を空中でつかんだまま、その足をねじりながら、地面へと引き倒した。


「ぐはっ!すごーい!相手の技をすべて受けきってなお、返し技で倍返し。これこそストロングスタイルね。やっぱりプロレスこそ最強ですー!」


「いやいや。お嬢さんの技のキレもなかなかのものですよ。ただ、プロレスでは体重差は致命的になります。とくにドロップキックなどの空中技は、相手にねらわれやすいのです」


 ・・・・・・。

 やはり男の指摘は的確だった。

 でも、残念ながら、そんなアドバイスが役に立つ局面は、セシルがプロレスラーにでもならない限り、一生ないと思うぞ。


「でも、やられっぱなしでは、いけないのです。仕方ない。ここは奥の手を使ってでも、一太刀浴びせてみせます」


 セシルは剣を拾って、再び男の方へと構え直す。

 男も自分の剣を拾って、構えた。


「たあぁぁぁぁ!」


 セシルは今度は剣で切りかかった。

 小刻みな剣の連打。2人の剣が、そのたびに火花を散らしてはじけた。

 速い・・・。速さだけなら同等だろうか?

 これだけの剣術があるのなら、セシルも普段からまじめに剣で相手してくれればいいのに・・・。


 やがて間合いをつめた2人は、至近距離で剣の根本を合わせ、力比べになった。

 こうなるとセシルは不利だ。

 押し込まれ、後ろへとはじかれたセシル。


 体勢を崩したセシル。追撃しようとする男。

 でもそのままの体勢から、セシルは剣先だけを男へと向けていた。


光弾シャイレン


 え?魔法?

 剣先から放たれた魔法は、見事に男に直撃した。

 不意打ちの魔法に、完全に気を失って倒れ込む男。


 レニーはあわてて駆け寄って、セシルを殴った。


「バカッ!魔法はなしだって、最初に男が言っていただろうが!」


「えー?だって、私の国では、剣から放たれる魔法は、魔法にカウントされませんでしたよ」


「そういう問題じゃないだろっ!この人は魔法の耐性がないんだって、自分で言っていただろうが!お前はせっかく練習相手してくれた人に、不意打ちで魔法を食らわせたんだよっ!それも、わざわざ魔法は苦手だって言っていた相手に・・・。ああ・・・。どうするんだよ、これ?」


 目の前で完全に気を失って倒れている男。

 ため息をつくしかないレニー。

 ようやくまずいことをしたと思って、今さら青くなるセシル。


 こうしてレニーとセシルの「気を失った男を抱えて山道を登る」という、まったくありがたくない「初めての共同作業」となったのだった。


 ついてない。セシルとの「初めての共同作業」で生まれるのは、たぶん軽蔑と憎しみだけだ。

 心を1つにして、2人が結ばれる日は一生こないだろうとレニーは確信していた。



2章!本格的にスタート!


2章は「ロミオとジュリエットは、いつまでも2人で仲良く暮らしました…で間違いないです」となっております(←相変わらず、どんな題名だよ???)

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