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第5話 「責任取ってくれますか?」って、お前絶対その言葉の意味を分かってないだろっ!

 レシチアの町外れの食堂。

 そこでレニーはセシルをなだめるのに忙しかった。


「わぁぁぁーん!もうお嫁にいけない…」

「悪かったよ。俺が悪かった。ちょっと夢中になってしまったんだ。ごめん」

「嫁入り前の女の子が、人前で服をビリビリにされて見世物にされるなんて…。もう生きていけない」


 セシルの大きな泣き声が食堂に響く。

 みんながじろじろとレニーのほうを見ていた。

 まるで「女の子泣かせるなんてひどい」と言っているかのような視線だった。


「だって、セシルだって、殺すつもりで思い切りやってくださいって言っていたじゃないかよ」

「いっそのこと殺されたかったですー。それならこんな目にあわずにすんだのに…」


 そんなむちゃなと思いながらも、レニーは謝るしかない。


「いや、だから悪かったって。許して。なんでも好きなものをごちそうするから」


 セシルが赤い目をこすりながら、ようやく少し顔を上げてレニーを見る。


「だったら、責任とってくれますか?」

「え?」


 思わぬ言葉に、レニーが聞き返す。


「ちゃんと責任とってくれますか?」

「はあ?責任ってなに?」


 セシルが再び目を伏せると、さらに大きな声で泣き出した。


 タイミング悪く、ちょうど食堂のおばさんが注文を取りに来た。

 まるで極悪人を見るかのように、レニーをじろじろ見ている。

 その時、セシルは不意に顔を上げると、泣き声でおばさんに言った。


「おばさん、聞いてください!この人ひどいんです。町の真ん中で、私に襲い掛かって、服までビリビリに引き裂いておきながら、そのまま私を放り出して捨てようとしているんです」


 おばさんの表情が険しくなる。


「いや、それは誤解…とも言い切れないけれど…。かなり誤解を招く言い方なような…」


 おばさんの顔はすっかり誤解している表情だった。


「あなたね。こんなかわいい純粋そうなお嬢さんをもてあそんで、男として恥ずかしくないの?」

「いや、もてあそぶって…。そんなつもりはなかったんだけど…」

「だったら、責任とってくれますか?」


 ここぞとばかり、セシルが顔をあげてレニーに言う。


「だから責任って?」


 セシルがまた、ますます大きな声で泣き出そうとする。

 おばさんは相変わらずの厳しい目でレニーをにらんでいる。


「分かった。分かった。責任でも何でも取るから。だからもう泣かないでくれ」


 その場にいたたまれなくなったレニーがついにさじをなげた。

 その言葉を聞いたセシルは、急に顔を上げて聞く。


「本当?」

「ああ、分かったよ。なんでもいうこと聞くから、泣くのをやめてくれ」


 もうなんでもいいや。どうにでもなれ。

 レニーは半分やけになっていた。責任って一体なんだ?


 セシルは急に泣き止むと、顔をあげて、おばさんにフルーツパフェを注文した。

 すでに涙の後はなく、すっかり機嫌も戻っている。

 食堂にいるみんなからの注目の視線も、やっともとに戻ったようだった。


 夕方。窓の外には地平線に沈みゆく赤い太陽。

 遠くの小麦畑が赤く染まってきれいだった。


 セシルは、しばらくして運ばれてきたフルーツパフェに夢中だった。

 すでにさっきまで泣いていた面影はない。

 なんだよ、ウソ泣きだったのかよ?

 小さくつぶやいたレニーに、セシルが聞き返す。


「え?なにか言いましたか?」

「いいや、なんでもないよ」


 なんだかバタバタといろいろなことが起こる一日だった。

 すっかりこの目の前のセシルに振り回されてしまったような気がする。

 二人が勘定を払って、食堂を出たころには、あたりはすこしずつ暗くなり始めていた。

 さて、今日の宿を探さなければいけないんだが…。


 レニーはさっきまでの泣いていた姿がウソだったかのように、楽しげに鼻歌交じりに歩いていくセシルを横目でそっと見た。



読んでいただいてありがとうございます。


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