第49話 初めての恋はパフェとコーヒーと絶望の味がした…(7)
その次の日からも、セシルは毎日、銀貨を持ったまま何も買わずに町を歩いた。
ただ、じっとアイスクリームや洋服やパフェを眺めていた。
時々、買ってしまいたくなる衝動に駆られた。
でも、そんなときセシルはウィンザードのことを思い出した。
ダメ!がまん!がまん!
そうして、夕方には必ず冒険ショップに行って、持っていた銀貨をおじさんに渡した。
「ウィンザードに手紙は渡してくれましたか?」
「ああ…」
セシルは大喜びで、その場で飛び跳ねた。
うれしすぎて、おじさんがセシルを悲しげな目で見ているのに気付かなかった。
そのまま元気よく、店を飛び出して帰って行った。
次の日も、その次の日も、セシルは町で何も買わずに我慢して、ショップのおじさんに持っていた銀貨を渡した。
ウィンザードの誕生日まで、もうすぐだった。
あと少し。もう少し。
もう少しで、ウィンザードに会える。
また一緒に町を歩ける。
そのことを考えるだけで、胸ははじけそうだった。
そして、ようやくやってきた誕生日の前日。
セシルの渡した銀貨と引き換えに、おじさんは箱に入った包みをくれた。
聖剣シャイレサー。
ウィンザードがずっとほしがっていた剣。
セシルはそれを抱きしめて、飛ぶように城へと戻った。
自分の部屋に大切にそれを保管した。
明日にはウィンザードにこれを渡せる。
明日にはウィンザードに会える。
セシルはじっとしていられなかった。
そうだ。明日の服を選ばなきゃ。
セシルはいろいろな服を引っ張り出して、あれこれ着てみた。
最終的に、白い帽子とワンピースと靴を選びだした。
まだ昼の3時過ぎ。
明日までの時間はまだまだある。
早く明日にならないかな。
早くウィンザードに会えないかな。
なぜだか涙があふれそうだった。
今日は早く寝て、明日笑顔でウィンザードに会うんだ。
でもまだ昼だった。
さすがに寝るには早い。
ちょうどその時、誰かがセシルの部屋をノックした。
将軍リカルド。
軍を指揮する最高司令部の将だった。
「なによ?リカルド。セシルは明日に備えて忙しいんだからね」
「お嬢様。お願いがあって参りました。実は国に逆らって、反逆を企てる悪い集団が発覚しました。抵抗戦線と言われる集団です。彼らは放っておけば、この城に攻め込んで国をめちゃめちゃにしてしまいます。そこで、これから彼らの巣窟に先に攻め込んで、彼らを逮捕することにしました」
「うーん?よくわからないけど、悪い奴らを逮捕しに行くっていうこと?」
「そうです」
「行けばいいじゃない?」
「しかし、相手はかなりの数いるらしいのです。50人は下らないでしょう。武器も持っているようです」
「それで?」
「ぜひお嬢様のお力を借りたいのです。お嬢様の魔法があれば、こちらの犠牲もなく、全員を捕まえることができるのです」
「えー?今日、今から?気が進まないですー」
セシルはこれまでにも、こうした軍の用事に力を貸したことがあった。
セシルの光の魔法は、相手に広範囲にダメージを与えられるので、奇襲して一瞬で相手をとらえるには都合がよかったのだ。
「お嬢様。どうしてもお願いします。すでに父上には許可をもらいました」
セシルはやっぱり気が進まなかった。
でも、ここまで頼まれてしまえば断れなかった。
「分かりました。じゃあ、早く行って、早く帰ってきましょう。明日は大事な用事があるんだから」
セシルは手早く戦闘服に着替え始めた。
「ありがとうございます。お嬢様のおかげで、今回も手早く、犠牲なく片づけられます」
「着替えるんだから、早く部屋を出て行ってください」
セシルが脱いだ服を投げつけ、リカルドはあわてて退散した。
戦闘服を身につけた時、セシルはなぜだか胸騒ぎがした。
別に怖いわけじゃない。
こんなことはよくあることだった。
それに、奇襲してすぐに光の魔法。
それで相手はダメージを受けて、ほとんど動けなくなる。
これまでに危険な目にあったことなどない。
それじゃあ、この胸騒ぎはなんだろう?
きっと明日のことを考えて、落ち着かないんだろう…。
セシルは首を振って、部屋を出た。
1章終わりへのカウントダウン!残り3話!(予定)
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
すこしでもいいなと思っていただけましたら、ブックマーク、高評価などしていただけますと、作者が喜びます。