第46話 初めての恋はパフェとコーヒーと絶望の味がした…(4)
次の日。真っ白な帽子、白いワンピース、白い靴下に白い靴。頭からつま先まで真っ白に染まったセシルを見て、ウィンザードは何か言いかけてやめた。
たしかに白一色だったけれど、セシルにはそれが似合っていたから。
「ごめんなさい。待たせちゃいましたか?」
「いいや、別に…」
「お母さんに怒られちゃいました。今日こそ夕方には帰ってくるようにって…」
セシルは無邪気に舌を出した。
アイスクリームを買っておつりをもらい、食べながら商店街へと行く。
商店街で洋服を見て試着する。
ウィンザードに見せて、気に入ったら買う。
いつものカフェで、甘いものを食べる。
その日から、それが2人の日課になった。
ウィンザードと一緒になって、セシルにとって変わったことが3つ。
セシルは白い服しか買わなくなった。
たまに赤や黄色の服を着てみても、首をかしげて戻してしまう。
カフェではケーキやパフェと一緒に、コーヒーを注文するようになった。
コーヒーを少し飲んで、苦さに顔をしかめながら、あわててパフェを食べる。
ウィンザードはそんなセシルを見て笑っていた。
それから、時間があっという間に過ぎるようになった。
1人だった時と比べて、10倍も100倍も速く感じた。
おかげで、帰りが遅くなってよく怒られた。
それでもセシルは平気だった。
なによりも、ウィンザードと一緒にいる時間が楽しかったのだ。
ある時から、セシルたちはカフェの帰りに冒険ショップに寄るようになった。
そこはウィンザードがお気に入りの店で、剣や盾、魔法関連のグッズに道具などが売られていた。
ウィンザードはほとんど毎日来ていて、もう顔なじみらしい。
ショップのおじさんが声をかけた。
「おや、ウィンザード。今日はきれいなお嬢さんと一緒だね。恋人かい?」
「はい!セシルって言います」
ウィンザードが何か言う前に、セシルが答えていた。
ウィンザードは顔を真っ赤にしていた。
ウィンザードが剣や盾を見ている間、セシルは虹色の魔法石や冒険用のランプを見ていた。
いや、それらをちょっと見て、あとはずっとウィンザードの横顔を見ていた。
ウィンザードがケースに入った高価な剣を見ながら、そんなセシルの視線に気づいた。
「なんだよ?」
「いいえ。なんでもありません」
ウィンザードはなかでも、細みの白い美しい剣がお気に入りだった。
「きれいですね」
ウィンザードのすぐ横にすり寄って、セシルが言う。
「ああ。伝説の聖剣シャイレサーって言うんだ」
「せいけん?」
「そう。昔、世界が闇に包まれていたころ、勇者ゼラルドがこの剣で人々に光と笑顔を取り戻したのさ」
「へえ…」
セシルにはあまり興味がなかったけれど、目を輝かせて話すウィンザードの顔が好きだった。
「じゃあ、買っちゃえば?」
「ムリムリ。ものすごく高いんだよ」
そう言いながらも、ウィンザードは惜しそうに何度もその剣を眺めていた。
ウィンザードはいろいろな剣や盾をじっくり見た後、安い薬草などを少し買って帰ることが多かった。
こうしてセシルにとって平和で幸せな時間が過ぎた。
時々、帰るのが遅くなって怒られるのは相変わらずだったけど、セシルは本当に毎日が楽しかった。
ある時、セシルは町に新しい占い屋さんが出来たのを見つけた。
さっそくセシルはウィンザードを連れて、その占い屋さんにむかった。
水晶の向こうにおばさんがいた。
セシルとウィンザードは手をつないだまま、2人並んで座った。
「2人の恋愛運を占ってくださいー」
ためらいなくセシルは言った。
「2人の名前と生年月日を教えてくれるかな」
「私はセシルで、大陸歴510年3月10日生まれ。ウィンザードは…えーと…」
「506年12月20日生まれ」
ウィンザードがぼそっと答える。
セシルは機嫌が良かった。
ウィンザードと強い運命で結ばれていて、一生離れないものと信じて疑わなかったからだ。
おばさんは少し微笑んで、それからじっと目に力を入れて水晶を見始めた。
穏やかな表情で、おばさんはゆっくりと話し始める。
「ほう。これは…。2人とも強力な星の下にいる。しかも2人はかなり強い運命で結ばれておる。離れられない運命じゃろう…」
「きゃー!」
セシルが喜んでウィンザードに抱きついた。ウィンザードはセシルの腕の中で赤くなっている。
でも、それからおばさんは急に険しい表情になった。
「いや、強すぎる。それにしても、2人の星が強すぎる。離れられない運命なばかりに、これでは悲劇が起こる…」
「ストーップ!」
途中でセシルが大きな声を出した。
おばさんのほうがびっくりして、セシルのほうを見ていた。
「その先はもういいから、もう1回、最初のところだけ占ってください」
笑顔でセシルが言う。
「え、最初のところだけ?」
「はい。2人が離れられないっていうところだけ…」
おばさんは目を丸くしながらも、もう一度水晶に向かった。
「ほう…。2人とも星が強力じゃ。しかも強い絆で結ばれておる。2人は決して離れられないじゃろう…」
「きゃー!」
またセシルがウィンザードに抱きついた。
「おばさん、もう1回」
セシルは飽きずに、またおばさんに頼んでいた。
「どんな占いだよ!」
小さくウィンザードがつぶやいた。
こうして、計5回。最初の部分だけ、占いは繰り返された。
「ねえ、ウィンザード。やっぱり私たちは運命で結ばれていたんだわ。もう離れられないって」
占い屋を出る時、セシルはニコニコして言った。
ウィンザードは小さく首をかしげて、苦笑するしかなかった。
こうしてセシルは、幸せに毎日を過ごした。
ウィンザードに会えば会うほど、もっともっと一緒にいたくなった。
このまままずっとこんな日が続いてほしい。いや、ずっと続くと信じ切っていた。
でも、そんな日は長く続かなかった。
それが壊れたのは、しばらくたった後のことだった。
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