第45話 初めての恋はパフェとコーヒーと絶望の味がした…(3)
商店街の洋服屋さん。
試着室から出てきたセシルは、ウィンザードに聞いた。
「じゃーん!さっきの赤い服とこの白い服。どっちがセシルに似合いますか?」
女物の洋服ばかり並ぶ店。ウィンザードは、気まずい思いをしながらキョロキョロしていた。
「どっちでもいい。買うなら早くしてくれ!」
「あーっ!ひどーい!せっかく1時間もかけて、お気に入りを探したのに…」
今にも泣き出しそうになるセシル。
だから1時間もこんなところで待たせるのが迷惑なんだよと思いながらも、ウィンザードはあわててなだめる。
「うそうそ。泣くなよ。泣かないで…。うん、その白い服、すごく似合ってるから」
「ホント?」
「ホントホント。セシルは白い服を来たときが、やっぱり一番かわいい…」
ウソじゃなかった。
まだ幼いセシルには、真っ白なその服はよく似合っていた。
純粋で、無邪気で、かわいくみえる。ウィンザードの目から見ても、確かにかわいかった。
「やった!ホントは私も、白がいいなと思っていたんです」
「うん。じゃあ、早く買って出ようか…」
「はい!まだ、あとスカートも靴も帽子も買わなきゃいけないですもんね」
ウィンザードは頭を抱えた。
それから7つの店でいろいろな洋服選びに、ウィンザードは付き合わされた。
よっぽど用事を思い出して逃げようかと思ったが、出来なかった。
ウィンザードがほめると、セシルは本当にうれしそうな顔をしたからだ。
ちょっと上目づかいで、まっすぐにウィンザードを見るセシルのうるんだ瞳。
ウィンザードはそれから逃れられなかった。
結局、帽子から靴、靴下に至るまで。セシルはその日、真っ白なものばかり買った。
それから、セシルはウィンザードを町はずれのカフェにひっぱって行った。
毎日、セシルが来ている店だった。
セシルがクリームソーダにケーキにパフェといつものメニューを注文すると、ウィンザードはコーヒーを頼んだ。
「えー?それだけでいいんですか?」
「ゆっくりコーヒーを飲むのがかっこいいんだよ」
ウィンザードはその言葉の通り、おいしそうにコーヒーをちびちび飲んだ。
その姿があまりにおいしそうだったので、セシルもコーヒーに挑戦してみた。
苦かった。ひたすら苦くて、おいしくない…。
顔をしかめたセシルを見て、ウィンザードは笑った。
カフェにて、二人はいろいろな話をした。
ウィンザードの話には、「レジスタンス」だとか「体制」だとか、セシルにはよくわからない言葉も出てきたけど、セシルは笑顔で話を聞いていた。
楽しい時間は、あっという間に過ぎた。
やがて太陽が赤くなって、セシルはもう夕方になったことを知った。
もう帰らなきゃいけない。でも…。
セシルは帰れなかった。
もっともっとここにいたい。
ずっとウィンザードと話していたい…。
セシルはなぜだか胸がドキドキした。
ウィンザードと明日も会いたい…。
そのうち、あたりは暗くなり始めた。
早く言わなきゃ。
明日も会いたいって、早く言わなきゃ。
「あのー。明日も…明日も会ってくれませんか?」
かなり暗くなってから、セシルは勇気を出してやっとそれだけ言った。
「ああ、いいよ。別にヒマだから」
ウィンザードは笑って、そう答えてくれた。
「じゃあ、明日もあのアイスクリーム屋さんの前で…」
セシルはそう言い残して、あわてて城へと戻った。もうすっかり暗くなっていた。
城に帰ると、やっぱりお母さんに怒られた。
でもセシルは平気だった。
それ以上に、明日のことが楽しみだった。
明日もウィンザードに会える。また遊べる。
胸のドキドキは、まだ止まらなかった。
その日セシルはベッドに入ってもしばらく眠れなかった。
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