第44話 初めての恋はパフェとコーヒーと絶望の味がした…(2)
きっかけは1人の青年と出会ったことだった。
いつものアイスクリーム屋さん。
セシルはいつものようにおばさんに銀貨を渡して、アイスクリームとおつりを受け取った。
その時だった。
すぐ後ろにいたその青年が声を上げた。
「ちょっと待った!」
セシルは声がしたほうを見た。
背の高い、ちょっとかっこいい青年がそこに立っていた。
15歳ぐらいだろうか?
セシルよりは、間違いなく年上に見えた。
青年はまっすぐにセシルのほうにやってくると、セシルの持っていたおつりを数えた。
それから、アイスクリーム屋さんのおばさんに言った。
「なんで、銀貨でアイスクリームを1つ買って、おつりがこれだけになるんだよ?」
おばさんはちょっと変な顔をして、それからセシルに、さらにおつりを渡した。
両手に持ちきれないくらい。
いつもよりたくさんのおつりをもらって、セシルはうれしかった。
「ありがとう!」
無邪気におばさんにお礼を言って、セシルはその場を離れる。
その青年は、苦い顔をしてセシルにも言った。
「お前もお前だ。銀貨を持って、100ペニーのアイスクリームを買いました。おつりはいくらになるんだよ?」
「えーっと。たくさん?」
セシルは算数はきらいだった。
「あーっ!算数の問題の答えが、どうやったら『たくさん』とかいう言葉になるんだよ?1万引く100は?」
「だいたい500ぐらい?」
青年の顔が引きつる。
その顔色を見て、セシルがあわてて答えを言いなおす。
「やっぱり1000ぐらい」
「ちがーう!そもそも算数の問題の答えが、『だいたい』ってなんだよ?もういい。あの店で、銀貨を持ってアイスクリームを買ったら、おつりは9900ペニー。これぐらいは、覚えておけ!」
「はーい!」
セシルは相変わらずよく分からなかったけれど、とりあえず返事をした。
9900ペニー。とりあえず、そう答えればいいらしい…。
それから、セシルはいつもの商店街へと向かう。
その青年も同じ方向へと行くらしかった。セシルのすぐ後ろを歩いている。
「お嬢さん。今日はきれいないい魔法石のネックレスがあるんじゃ。買って行ってくれるかい?」
いつものおばさんが、道端から声をかけた。
「えー?これで足りるかな?」
いつもよりたくさんのお金を持っていたセシルが、片手いっぱい分ぐらいのお金を見せる。
おばさんがにっこり笑って、そのお金を受け取ろうとしたその時、またしても声がした。
「ちょっと待った!魔法石のネックレスなら、絶対にそんな金額はしない!」
またあの青年だった。
青年はセシルを、道の反対方向に連れていく。
「いいか?ただの魔法石のネックレスは、そんなに高くない。せいぜい500ペニーだ。そもそも、この道端の店はなんでも高いから、ここで買い物はしないほうがいい。本当に欲しいのだったら、俺が安くていい店を教えてやる!」
セシルはやはりよく分からなかったので、じっとその青年を見ていた。
青年はその純粋な瞳に、思わず目をそらした。
「あ、俺はウィンザード。この町に住んでいる。あんまりお前がめちゃめちゃなので、つい声をかけずにはいられなかった」
セシルには、その青年がいい人であるらしいことだけは分かった。
「私、セシルって言います」
「それで、どこのお嬢様なんだ?」
「いいえ。私はただの通りすがりの普通の女の子です」
そう言って、セシルはすぐその青年の横にならんだ。
セシルの頭が、だいたいウィンザードの肩ぐらい。
背の高さの違いが気になった。
「私、このあと商店街に行くんです。一緒に来てくれませんか?」
「俺もちょうどそっちに行くところだ。別にかまわないぞ」
それがウインザードとの出会いだった。
2人は並んで商店街へと向かった。
ウインザードの歩くスピードは速くて、セシルはちょっと小走りにならなければいけなかった。
それでも、セシルはうれしかった。
町で話し相手を見つけたことが、なによりうれしかったのだ。
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