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第42話 その娘はあまりにも無邪気で、無防備で、純粋すぎたから…(3)

 レニーは考えていた。


 あのテーブルの上の紙。

 「今日の夜七時 アレシアの大平原に来てください」

 あれを書いたのは、誰だろう?

 外から誰かが部屋に侵入して、あれを置いていく。

 そんな面倒なことを、誰がするだろうか?


 もう一つ。

 レニーは、バロンの言葉が気になっていた。


 レニーたちがバロンの屋敷に押し入った時、バロンは言った。


「そろそろ来る頃だと思って、待っていたよ」


 あの時、バロンは、レニーたちが来ることを知っていたのだ。

 どうして?


 レニーたちが、バロンの屋敷にラーサを助けに行くと決めたのは、あの夜だった。

 それなのにバロンは、レニーたちが来ることを知っていた。


 なぜ?

 誰かが知らせた、としか考えられない。

 誰が…?

 レニーの頭の中で、1人の人物が思い浮かんだ。


 彼ならテーブルに手紙を置いて、レニーたちを罠にかけることもできた…。

 彼ならバロンにあらかじめ知らせることもできた…。

 でも、どうしてそんなことをしたのだろう?


 また、レニーをつかむセシルの手に力が入った。


「レニー、楽しかったね。ありがとう。さよなら…」


 セシルが小さな声で言った。

 さよなら?なんのことだ?


 その時、レニーは目の前の影に気づいた。


 月明かりに照らされて、目の前にのびる影。

 そこには、セシルのすぐ後ろで、何かを振り上げている人影があった。


 レニーはとっさに呪文を唱えていた。


炎弾エイレン


 レニーたちのすぐ後ろ。

 炎に飲み込まれて、男が手に持っていた武器が落ちた。


 後ろで鎌を振りおろそうとしていたその男。

 それは、ファンサーガだった。


 あの手紙でレニーたちを罠にかけた。

 バロンにあらかじめ知らせておいた。

 ファンサーガがやったことだ。

 それなら話は通る。でもなぜ?


 ファンサーガとレニーがにらみ合っていた。


 セシルは、ファンサーガに背を向けたままだった。

 泣いているようだ。


 ファンサーガが落とした鎌を素早く拾い上げ、さらにもう一つの鎌をホルダーから取り出す。


 レニーはすぐに呪文を唱えようとしていた。


「ダメです!」


 後ろから、セシルが抱きついて止めた。


 セシルは泣いていた。

 泣きながら、無理に笑顔を作っていた。


 ファンサーガは、少しづつ後ずさりしながら、後ろに進んでいく。


「ファンサーガ。今度会う時には、もっともっと強くなっていてね。そして有無を言わせずに私を殺してね」


 セシルが泣きながら、言った。

 ファンサーガは何も言わずに、後ろを向いて、走って逃げていった。


 広い平原に、またレニー、セシル、ラーサ、それにリリーだけが残った。


「どうして?知っていたんだろう。ファンサーガが、命を狙っているって…」


 まだ泣いているセシルに、レニーが聞いた。


 ファンサーガが鎌を振り上げた時、セシルにも目の前の影は見えていたはずだった。

 それなのに、セシルは逃げなかった。

 レニーの腕をつかんだまま、固まっていた。


「いつから?ファンサーガが命を狙っているって、いつから知っていたんだよ?」


 レニーがもう一度聞いた。


「最初から…。私、自分の国にいると、みんなが勝手に心配してくれるんです。私に近づく人の正体を勝手に調べて、教えてくれるんです」


 セシルの言葉が分かる気がした。


 光の魔法使いセシルは、北の国の皇女だったはずだ。

 皇女に近づくものを警戒するのは、当然だろう。


「だから、ファンサーガのことも最初から知っていました。私が殺してしまったあの人の弟だってこと、知っていました」

「だったら、どうして…?」


 レニーには、セシルの今までの行動が分からなかった。

 セシルはファンサーガを避けるどころか、むしろ自分から近づいていった。

 そしてまさに今、ファンサーガに襲われる瞬間も、そのことを知っていて、身動き一つしなかった。

 まるでファンサーガに殺してもらいたがっているように…。


「長い昔話になります。七年前、北の国で起きた、少女と青年の物語です」


 泣きながら、悲しげな様子で話し始めたセシル。

 それはセシルがときどき見せる大人びた表情だった。



読んでいただいてありがとうございます。


すこしでもいいなと思っていただけましたら、ブックマーク、高評価などしていただけますと、作者が喜びます。

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