第40話 その娘はあまりにも無邪気で、無防備で、純粋すぎたから…(1)
バロンの屋敷からの帰り道。
レニー、セシル、ラーサ、そしてリリー。
3人と1匹はゆっくりと平原を歩いていた。
まわりには何もない。
ただ大きな白い満月と無数の星たちが、後ろからレニーたちを照らしていた。
セシルとラーサは相変わらずレニーの腕をつかんで離さない。
アレシアの平原。
果てしなく広がる広い広い平原。
そこは前にレニーとセシルが、何者かに襲われた場所だった。
レニーはその時のことを思い出していた。
あの時、宿のテーブルの上に「今日の夜7時 アレシアの大平原に来てください」という紙きれ1枚を見つけた。
それに誘い出されて、レニーとセシルはこの平原に来た。
そこで雷系の魔法を使う、黒装束の男たちに襲われた。
男たちはセシルを狙っているようだった。
結局、あれはなんだったのだろう?
「ラーサ。ラーサがいなくなった時、テーブルの上に1枚の紙が置いてあったんだ。『今日の夜7時 アレシアの大平原に来てください』って書いてあったんだけど、あれはラーサが置いていったのかな?」
レニーはラーサに聞いてみた。
「え?知らないわよ。私が残したのは、レニーのカバンに入れた幸運のお守りとレニーへの手紙だけ」
そうだった。
レニーのカバンにあった手紙。
それは女の子らしい、いかにもラーサらしい文字で書かれていた。
テーブルの上の紙。
その文字は、几帳面でそっけなかった。
それじゃあ、あれはいったい誰が書いたんだろう?
その時、レニーたちははるか前のほうに1人の人影を見つけた。
足を引きずるようにして、歩いてくる男。
それはファンサーガだった。
遠くに見かけた時、ファンサーガはひどく暗い表情をしているように思えた。
でも、レニーたちのすぐ近くまでやってきた時には、ファンサーガはいつもの顔に戻っていた。
「びっくりしましたよ。目を覚ますと、誰もいなくなっていたんですから。心配になって、とりあえずバロンの屋敷のあるほうへと歩いてきたんですが…。何があったんですか?」
ファンサーガに、セシルが答えた。
「悪い魔法使いをやっつけて、町に平和を取り戻してきました」
「え?」
セシルの説明では何の事だか分からず、ファンサーガは目を丸くするばかりだった。
レニーも説明するのも面倒だったので、何も言わなかった。
「え?悪い魔法使い?何のことですか?教えてくださいよう」
レニーたちは笑っただけだった。
すでに真夜中。
音もない静かな時間。
背中の月は、四人と一匹になったその集団を照らして、目の前に長い影を作っていた。
レニーの腕をつかんでいるセシルの手。
そこにさらにギュッと力が入ったような気がした。
でも、ファンサーガもよくレニーたちの場所が分かったものだ…。
レニーは思っていた。
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