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第4話 なんで剣と槍の戦いなのに、プロレス技がでてくるんだよっ!

 いたいけな子供たちを殴り、蹴り、引き倒して、暴虐の限りを尽くすレニー。

 やりきれない心も少しはすっきりしてきた。

 かわいそうな子供たちは泣きながら、逃げるように帰っていった。


「ひどーい!鬼だ!悪魔だ!!情け容赦ないですねー!!!」


 見ていたセシルが、冷たい目でレニーを見る。


「いや。『ライオンはわが子を谷底に突き落として、這い上がってきたところを再びドロップキック!』って言うだろう。愛のムチだよ、愛のムチ」

「えーっ?そこに愛があるようには、まったく見えなかったんですけれども…」


 よく晴れた午後。

 広場にはレニーとセシル以外の人影は、一人も見かけなくなっていた。


「かわいそうな子供たち。きっと心無い大人のせいで、こうやって非行への道を突っ走っていくのね」

「俺だって十分かわいそうだよ。わざわざこんな場所まで強いやつを探しに来たのに、結局、年寄りたちに金をふんだくられただけなんだから…」


 相変わらずのセシルの冷たい目に、レニーも精一杯反論する。

 しばらくベンチに座っていたセシルは、やがて立ち上がると、不意にレニーに言った。


「ところで、私も挑戦してみたいんですが?このところちゃんと剣の練習していなかったから、腕がなまってしまうって心配だったんですよね」


 レニーは、初め意味が分からなかった。

 でも、セシルが荷物を置いて、剣を構えたのを見て、どうやらセシルがレニーに戦いを挑もうとしているんだと知った。


 おいおい。年寄り、子供の次は女の子かよ。もう勘弁してほしいな。


 レニーがやめてくれと言いかけた時には、セシルはもう剣を構えていた。

 セシルの体から気配が消え、あたりの空気がはりつめる。

 美しい構えだった。レオネシアでも正統派の剣術だろうか。

 こいつは強い!レニーの直感がそう告げていた。


「あ、どうせなら本気で襲いかかって来てくれるとうれしいです。その槍で殺すつもりで思いっきりやってくださいね」


 一瞬構えを解くと、セシルは笑顔で物騒なことを言う。

 一体この女の子は何者なんだろう?


 レニーは槍を構えた。まずは様子見だ。

 レニーは間合いを取ると、軽く槍を突き出す。セシルの体がすっと横に流れたかと思うと、次の瞬間、レニーに切りかかっていた。

 上段、中段、突き。きれいな三連攻撃。

 レニーはなんとか槍の柄でその攻撃を防ぐと、あわててバックステップして間合いをあけた。


 速い。こいつは本物だ。

 スピードだけなら、おそらくレニーよりも数段上だった。

 レニーの顔に当惑と驚きが浮かび、やがて楽しそうな引き締まった表情へと移る。

 強い相手を見つけたときの顔だった。


 レニーも数々の修羅場をくぐりぬけてきたのだ。

 相手は非力な女の子だ。それなら…。


 再び槍を構え、レニーはいったんバックステップで大きく距離をあける。

 追いかけてきたセシルに、レニーは槍を横から思い切りたたきつける。

 この間合いなら、かわせない。剣で防ぐしかない。

 思ったとおり、セシルは剣を当てて、槍の勢いを防ごうとする。

 でも、やはり女の子だった。

 力負けして、セシルの剣は大きな音を立てて、手元から弾き飛ばされた。


 でも、レニーはどことなく違和感を感じた。

 何かがおかしい。セシルがまるで自分から剣を放り投げたように思えるぞ。


 レニーがそう思った瞬間、セシルの白い左腕が目の前に現れた。


「ウェスタン・ラリアットー!」


 セシルの左腕がレニーの首あたりに振り回される。

 危ない!一瞬で危険を直感したレニーは、頭を下げてなんとかそれをかわす。


「ああっ!すごーい!私のウエスタン・ラリアットをかわすなんて!」


 飛び跳ねて、はしゃいでいるセシルの声。ラリアット?プロレスかよ。


 ふたたびセシルは剣を拾い上げると、構えなおす。

 それから横に剣をなぎ払うかのようにしながら、再びレニーに突っ込んできた。

 槍で応戦した瞬間、セシルはまた剣から手を放す。

 今度はセシルは低い姿勢で、レニーの足にタックル。

 そのままレニーを倒すと、足首を取って関節を極めようとしていた。

 あぶない!レニーは一瞬でもう片方の足でセシルを蹴り飛ばして、その場を逃れた。


「すごーい!タックルからのアキレス腱固めまでかわされるなんて…。こんなの初めて!」


 いやいや、剣と槍の戦いで、どうやったらプロレス技になるんだよ…。

 こっちこそ、こんな戦い初めてだぞ。


 あきれるしかないレニー。

 でも確かにセシルというその少女は強かった。


 やられっぱなしはよくないな。こちらも反撃しなければ…。

 レニーは槍を構えると、飛び込んで横から力いっぱいたたきつけた。

 セシルはその力を受け止めきれずにバランスを崩す。よし!


「せいっ!」


 気合とともに再びレニーの槍が横からなぎ払われる。

 セシルはバランスを崩したままだった。

 槍は横からセシルを襲う。


 よし、勝った。レニーは思った。

 このまま行けば、俺の槍は確実にセシルを真っ二つに切り裂く…。

 え?しまった。つい調子にのって本気で切りかかってしまった。あぶないっ!

 レニーの槍は止まらない。セシルは一瞬恐怖におびえ、バックステップで飛びのく。

 ビシッ!

 間一髪だった。ぎりぎりのところでセシルは何とか後ろに飛びのいていたのだった。


「悪い。つい本気になってしまった…」


 あわててレニーがセシルのほうへと駆け寄る。


「きゃあ!来ないで!うわぁーん…」


 急にセシルが体を押さえて、その場にしゃがみこんで泣き出した。

 セシルの服は槍で破れ、その下から胸の谷間と下着が飛び出していた。


「わぁぁぁーん。もうお嫁にいけないー…」


 その場にしゃがみこんで泣き続けるセシルの横で、レニーはただおろおろと立ち尽くすしか出来なかった。

 


読んでいただいてありがとうございます。


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