第35話 たとえ世界中のすべてを敵に回したとしても、ラーサだけは俺が守ってみせる…(1)
「そろそろ来る頃だと思って、待っていたよ」
後ろから低い声がした。
レニーが振り返ると、バロンがそこにいた。
「せっかく命拾いしたのに、また殺されにやってきたようだな」
「ああ、ラーサを取り戻しに来た」
「バカか。お前はわざわざ死にに来たんだぞ。いいだろう。望みどおり、手も足も首も…。体中ばらばらにして、地獄の底まで、送り届けてやろう」
バロンの声は、意外に落ち着いていた。
でも、険しい表情からは、怒っているのが感じられた。
レニーはセシルを降ろし、ラーサを離すと、竜にまたがったまま槍を構えた。
「光滅弾」
バロンが躊躇なく魔法を唱えた。
レニーは竜とともに、空中に飛び上がる。
レニーのいた空間が、闇にはじかれて音を立てた。
向こうは、最初から本気なようだ。
レニーは、竜とともにまっさかさまに降りて、バロンに襲いかかった。
バロンも素早い動きで、右に飛ぶと、再び魔法で迎撃する。
「光滅連弾」
レニーの乗っている竜に、闇が直撃した。
「キュウ…」
竜が大きく暴れて、レニーを振り落とした。
竜はそのまま、部屋の隅へと逃げ込む。
竜から落ちて、床に叩きつけられたレニーに、バロンの魔法がさらに追い討ちをかける。
「光滅連撃」
間一髪で、レニーはかわして起き上がる。
レニーはそのまま乗っていた竜のもとへと走って、竜を殴った。
「このバカ竜が…。魔法の一撃ぐらいでビビって、ご主人さまを落とすんじゃねえ」
「キュイイ…」
生意気にも、竜もしっぽでレニーに反撃してくる。
「もういい。地上戦いくぞ!ちゃんと役に立てよ!」
レニーは槍を持って、バロンに向かう。
竜もゆっくりとバロンに近づいていく。
バロンは二人をにらみながら、胸に手をやる。
「地底壁」
魔法で作られた壁。
レニーはその中に飛び込むと、すぐに槍を構えて切りかかる。
バロンに次の魔法を唱えている時間はなかった。
バロンはその場で飛びのいて、レニーの槍を防いだ。
上段、上段、中段。バロンがかろうじでかわす。
「光滅連弾」
一瞬のスキをついた、バロンの魔法。
レニーも素早く反応して、斜めに飛ぶ。
その時、バロンのすぐ右後ろに竜がいた。チャンス!
「リリー。ブレス!」
レニーが叫んだ。
竜が大きく息を吸い込むと、真っ赤な炎を吐きだした。
よし!バロンに炎が直撃する…。
レニーは確信した。
ところが、竜の炎は、まっすぐにレニーへと向かっていた。
「え?なんで…?あち、あち、あちち…」
レニーはあわてて後ろ向きに走って、炎から逃げる。
竜の炎でお尻が焦げていた。
レニーは竜に走り寄ると、おもいっきり飛び蹴りを食らわせた。
「このバカ竜が。なんで俺に向かって炎を吐くんだよ!」
「キュウイイ…」
竜もしっぽで、レニーに歯向かってくる。
「この役立たずのバカ竜!」
「キュウ…」
「てめえ、尻尾で俺を殴るんじゃねえ!」
レニーが首を押えて、竜の頭を殴る。
「キュイイ…」
「はははは…。もう仲間割れか。慣れない竜騎士スタイルなどやるからだ」
バロンが高らかな笑い声をあげていた。
竜は部屋のすみで、丸まってすねていた。
「もういい。役立たずの竜なんていらん。この槍さえあれば、大丈夫だ。あいつの強さを見せてやる」
レニーは一人でバロンに向き合った。
竜の槍。
竜騎士ケインの残した形見。
なあ、ケイン。力を貸してくれよ…。
レニーは槍を構えて、まっすぐにバロンに突き進んだ。
「光滅弾」
闇がレニーをかすめた。
肩に当たったようだ。
でも、レニーは気にしなかった。
バロンだけを見ていた。
槍がバロンに突き出される。
バロンがその槍を後ろに飛んでかわした。
二撃目、三撃目。
次々と繰り出されるレニーの槍を、バロンは大きく後ろに飛んでかわす。
「地底壁」
レニーが、目の前にできた闇の壁に飛び込む。
レニーが闇を突き抜けた時、待っていたように、バロンが再び呪文を唱えていた。
「光滅弾」
闇の魔法。
レニーは逃れようと、反射的に右に飛ぶ。
バロンの闇の魔法がレニーの体をかすめた。
レニーが肩に衝撃を受けて、吹っ飛んだ。
そこにバロンが、さらに闇の魔法を重ねる。
「光滅連弾」
衝撃がレニーの体に伝わる。
レニーはとっさに手で頭をかばった。
レニーはその場から吹き飛ばされて、後ろの壁に頭を打ちつけて倒れた…。
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