表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/107

第34話 満月の夜、白いドラゴンに乗ったオオカミさんが私のことを迎えに来てくれる…(4)

 兄の親友だった魔法使いを探す旅に出たラーサ。

 でも、出発して初めて、ラーサはその魔法使いの名前をはっきりと思い出せないことに気づいた。

 レオ?ロサリオ?

 確かそんな名前だったような気がする。


 だから、ラーサは強いという評判がある男の人、すべてに近づいた。

 強い男がいると聞けば、片っぱしから抱きついて、恋人になった。


 探している魔法使いとは違うと分かると別れ、また新しい男に近づいた。

 何度も何度も繰り返し、いつしか男の人に気に入られる動作、声、表情を覚えた。


 内気で、男の人とは話をするのも苦手だったはずなのに、気がつけば媚を売っている自分がいた。

 それでも、ラーサは気にしなかった。


 たった一人、お兄ちゃんを感じられるその魔法使いに、一目でもいいから会いたかった。

 そのためなら、なんでもするつもりだった。


 でも、それも長くは続かなかった。

 闇の魔法使いバロン…暗黒のバロンに、出会ってしまったからだ。


 ラーサには、バロンも探している魔法使いとは違うと、すぐに分かった。

 そこで置き手紙をして、屋敷を立ち去った。


 ラーサは、すぐにまた別の男に近づいた。

 でも…。

 そこにバロンがやってきたのだ。

 バロンはラーサが近づいた男を、その場で半殺しにした。


「ラーサには俺しかいない。また不幸な出来事が起こる前に、俺のもとに帰ってくるんだ」


 おびえるラーサに、バロンはそう言った。


 それでもラーサはあきらめなかった。

 何度も何度もバロンのところから逃げ出して、新しい男に近づいた。


 でも、バロンはいつでもその男たちを、ひどい目にあわせた。


 一度、本気で逃げ出すために、ラーサは考えられる限りの遠い北の国まで逃げた。

 それでもバロンは追ってきた。


 バロンはラーサには手を出さなかった。

 でも、決して逃がしてはくれなかった。


 そのうち、ラーサはあきらめ始めていた。

 これ以上、不幸になる男の人を増やしたくなかったから。


 ちょうどそんな時のことだった。

 ラーサは「竜の槍」を持った強い男が、レシチアにやってきたという話を聞いたのだった。


 竜の槍…それは兄のケインの持っていた槍の名前。

 ラーサはじっとしていることが出来なかった。


 これで最後にしよう。

 今度こそ、最後にしよう。

 そう言い聞かせて、再びバロンのところから逃げ出した。


 20歳ぐらいだろうか?

 レニーという真っ赤な髪の毛のその男は、レシチアの宿の前にいた。

 この人だ。私の運命の人は、この人に違いない。

 ラーサは思いっきり抱きついた。


 レニーはラーサが今までに出会った、どんな男の人より強かった。

 レニーはラーサが今までに出会った、どんな男の人よりかっこよかった。

 レニーはラーサが今までに出会った、どんな男の人よりも素敵だった。

 レニーはたった一人のラーサを守るために、バロンに立ち向かってくれた。

 でも…。


 でも、レニーは魔法を使わなかった。

 闇の魔法を使うバロンに、死にそうになるまで槍一本で突っ込んでいった。


 レニーは素敵な男の人だった。

 間違いなく、かっこよかった。

 それでも、レニーもやっぱりラーサが探している魔法使いではなかった。

 兄ケインの親友だった、炎の魔法使いではなかった。


 ラーサはバロンの屋敷へと戻った。


 もういい…。

 これ以上、不幸な男の人は増やしたくない。

 何よりも、あのレニーが不幸になるのは耐えられない。


「ラーサ…」


 向こうから、バロンの呼ぶ声がした。


「なあに?」


 ラーサは反射的に、媚を含んだ笑顔を返した。

 何人もの男たちから学んだ、悲しい習性。


 ラーサはバルコニーを降りて、食堂へと向かった。

 バロンがそこにいた。


 この人が私を迎えに来てくれたオオカミさん。

 そうなんだ。

 そうなんだから…。

 ラーサは自分に言い聞かせていた。


 自分で納得したつもりだった。

 それなのに涙があふれそうになった。


 ほかに私なんかを迎えに来てくれるオオカミさんなんて、どこにもいない…。

 そう、私のオオカミさんはこの人、バロン。

 それでいいんだ。

 それしかないんだ。


 子供のころから何度となく繰り返し読んだ「赤ずきんちゃんの絵本」。

 私なんかのことを迎えに来てくれる、白いドラゴンに乗ったオオカミさんなんてほかにはいない。

 私のオオカミさんは、バロンただ一人なんだ。

 まるで自分を納得させるかのように、ラーサが小さくつぶやいた。。


 ちょうどその時だった。

 屋根裏で大きな音がした。

 バキバキッ!

 何かが壊れる音。

 それから小麦とともに、大きな物体が屋根から降ってきた。


 ラーサは上を見上げた。

 そこには、小麦をかぶって、真っ白になったドラゴンがいた。


「キュウ…」


 奇妙な声を上げながら、ドラゴンはまっすぐにラーサのほうへとやってきた。


 ラーサの目の前、そこには白いドラゴンに乗った、粉まみれのレニーがいた。


 満月の夜、白いドラゴンに乗ったオオカミさんが赤ずきんちゃんを迎えにやってくる。

 もう何百回も読んだ大好きな絵本の光景。

 それが現実になって目の前にあった。


「どうして…?どうしてよ?」


 ぼうぜんと立ち尽くすラーサに、レニーは手を差しのべて言った。


「姫。満月の夜、白いドラゴンに乗ってオオカミさんが、迎えにやってきました」


 ラーサは涙をこらえられなかった。

 バカだ…。

 こんなところにまで、私なんかを迎えに来てくれる人がいた。


 でも、素直にその手をとれなかった。

 すぐそこにバロンがいる。

 今度こそ、レニーはバロンに殺されてしまう。


「どうして?こんなところまで、何しに来たのよ?」


 涙を見せないように背を向けながら、ラーサは精いっぱい強がった。

 でも、レニーは迷うそぶりひとつ見せなかった。


「ラーサを迎えに来た。いや、ラーサのためじゃない。自分のために…。」


 それからレニーは、ポケットから二つのお守りを取り出した。ラーサが作ったかわいい花をあしらった幸運のお守り。


「昔、竜騎士ケインっていう親友と約束したんだ。妹は俺が守るって。だから、ラーサは俺が守る。ケインとの約束だから…。ラーサがいやといっても、連れて帰る。ラーサのためじゃないよ。俺のために…。妹は守ると言ったケインとの約束。これを守れないと、俺はもう一歩も前に進めないんだ」


 ラーサは振り返って、レニーを見た。

 迷いのないさわやかな笑顔。それはいつものレニーだった。


 ラーサはレニーに思いっきり抱きついた。

 ケインが死んだ時、涙など枯れるまで泣きつくしたと思ったのに、あとからあとからあふれる涙が止まらなかった。


 ずっと待っていたオオカミさんは、やっぱりこの人だったんだ。

 ラーサは生まれて初めて、生きていてよかったと思った。


読んでいただいてありがとうございます。


少しでもいいなとか思っていただけましたら、ブックマーク、高評価、感想などいただけますと、作者が喜びます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ