第33話 満月の夜、白いドラゴンに乗ったオオカミさんが私のことを迎えに来てくれる…(3)
それからしばらくたって…。
「ダーラ帝国とアスカルトの戦争が終わった」
そんなうわさをラーサは聞いた。
同時にもう一つ、絶対に聞きたくなかったうわさも…。
「アスカルトの竜騎士ケインは、その戦争で、国を守って死んだ」
ウソ…。
ウソ…。
ウソウソウソウソ…。
ウソだウソだウソだウソだ…。
ラーサは信じなかった。
だって、お兄ちゃんはずっと私を守ってくれるって言ったもん。
ずっと守ってくれるって約束したもん。
だから、ラーサはその日から、ずっとケインが帰ってくるのを待っていた。
朝、昼、夜。
食事もすべて、ラーサの分と一緒に、ケインの分まで用意して待っていた。
お兄ちゃんがいつ帰ってきてもいいように…。
「ちゃんと女の子らしく、きれいにして暮らすんだぞ」
そう言って出ていったケインの言葉を守って、部屋も毎日掃除した。
女の子らしくなるため、料理も得意になった。
でも…。
ケインは帰ってこなかった。
いつまでたっても、帰って来なかった。
それでも、ラーサは毎日、ケインの分まで食事を用意して、待った。
そう…。
ちょっと用があって、帰ってくるのが遅れているだけ。
きっと明日にはお兄ちゃんは帰ってくる。何もなかったような顔して帰ってくる。
毎日毎日、たった一人で待っている日々が続いた。
3か月。半年。1年…。
それでもラーサは待っていた。
でも、ケインは帰ってこなかった。
ずっと帰ってこなかった。
気が狂いそうだった。
もしかしたら、すでに狂っているのかもしれなかった。
本当は、心のどこかでは分かっていたのかもしれない。
お兄ちゃんはもう帰ってこない…。
でも、それを受け入れることは出来なかった。
2年が過ぎた。
相変わらず、兄は帰ってこなかった。
やっと兄が死んだことを、少しづつ分かり始めた。
夜眠ろうとして、ベッドで毎日毎日泣いた。
死のうとも思った。
でも、死に方が分からなかった。
何も食べず、何も飲まずにずっと過ごしたりもした。
でも、死ぬ前には、やっぱり何かを食べてしまっている自分がいた。
ただ起きて、食事を作って食べて、ベッドで泣き続ける日々。
ようやく起き上がって、外に出るようになっても、しばらくは人形のように表情がなかった。
やりたいことなんてなにもない。
兄のいないこの世界で、生きている意味なんてなにもない。
泣き続けたある朝、ふと兄の言葉が頭をよぎった。
「でも、魔法はすごいんだぜ。あっという間に、炎の海を作り出してしまう。それに頭がよくて、いつも冷静で、あきらめないんだ」
ものすごい炎の魔法を使うという、お兄ちゃんの親友の話。
そうだ。
私はその魔法使いさんと、結婚するって言っていたんだった。
まだ会ったこともない魔法使いさん。
でも、お兄ちゃんが誰よりも好きだった魔法使いさん。
ラーサは家の中で、一番高くてきれいな服を引っぱり出して着てみた。
それは赤いドレスだった。
まだ泣きはらした顔が気になったけど、ラーサは思い切って外に出た。
家中のお金をかき集めて、そのまま旅に出た。
そう…。
それは兄の親友だった魔法使いを探す旅だった。
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