第30話 「悪い魔法使いは成敗しちゃうぞっ(はあと)!」なんて、そんなセリフ、絶対に言えるかっ!
「ひゃっほうー!」
竜の首につかまりながら、セシルがジェットコースターにでも乗っているかのような、楽しげな絶叫をあげた。
一方のレニーは、恐怖に声も出ない。
レニーが乗るときの竜のあやしい表情が頭をよぎった。
意地悪そうに、にやりと笑ったあの顔。
ちきしょう。
絶対、こいつはわざと振り落とそうと、こんな乱暴な飛び方してやがるな。
もしも振り落とされるようなことがあったら、羽をもぎ取って、一緒に墜落させてやる。
レニーは半ば本気で、そう考えていた。
今夜は満月だった。
真ん丸な月に照らされて、夜空を竜とともに飛ぶ二人。
「あ、レニー。決めゼリフ、考えなきゃ…」
セシルが思い出したように、レニーに言った。
「決めゼリフ?なんだそれは?」
レニーは必死に竜にしがみつきながら、答えた。
「決めゼリフですよ。正義の味方は、悪を倒すときに、ポーズを決めながら、かっこいいセリフを決めるんですよ」
「いや、それはお話の中だけの決まりだから…」
「ダメです。かっこいい決めゼリフがないと、英雄の人気もあがりませんよ。ああ、何がいいかな…。あ、最後は悪い魔法使いを、ジャイアントスィングで思いっきり投げ飛ばして、『お月様まで飛んで行けー!』っていうのは、どうですか?」
「いや。バロンをプロレス技で投げ飛ばす、っていうシチュエーションが、そもそも絶対にありえないから」
「じゃあ、左手を腰に当てて、右手でピースしながらウインクして、『悪い魔法使いは成敗しちゃうぞっ(はあと)!』っていうのはどうですか?」
「死んでもヤダ!それをやるくらいなら、素直にバロンに殺されてやる!」
「ええー?そんな贅沢を言っていたら、いつまでたっても決まりませんよ。ほら、もうバロンの屋敷が見えてきたじゃないですか」
月明かりの向こうに、大きな屋敷が浮かび上がっていた。
バロンの屋敷。
それは家というよりは、むしろ城だった。
果てしなく大きな居城。
それは、この地方でのバロンの強大な権力を物語っていた。
しばらく飛ぶうちに、バロンの屋敷はどんどんと大きくなり、やがて二人のすぐ目の前まで近づいてきた。
限りなく大きな屋敷。
灰色の建物は、月明かりに照らされて、夜の闇に不気味に浮かび上がった。
正面に大きな玄関。
上のほうに、黒いカーテンのしまった大きな窓と、ベランダが見える。
「どうしますか?一度下に降りて、玄関からノックしてみますか?」
「ノックして、なんて言うんだよ?『バロンさん、いますか?』って?素直に機嫌よく、中に入れてくれると思うか?」
「じゃあ、どうします?」
「とりあえず、このまま裏に回ろう」
竜に乗ったまま、二人は大きな屋敷を裏へと回る。
裏には、玄関らしきものはなかったが、上のほうに、木でできた窓のような枠がある。
おそらく、小麦倉庫の換気用の窓だろう。
「あの木の窓、ぶち破れないかな?」
「リリーちゃんなら、きっと大丈夫ですよ。ねえ」
セシルが答えると、竜は急に加速度をつけて、その窓のほうへと突っ込んでいった。
「ちょっと待て!まだ心の準備が…」
レニーの言葉もむなしく、竜はまっすぐに突き進んでいく。
バキバキッ!
大きな音がしたと思うと、あっという間に窓と、そのまわりの壁を壊して、中へと突き進んでいく。
中は、やはり小麦のつまった倉庫だった。
でも、竜の勢いは止まらない。
小麦の舞う倉庫もぶち抜いて、レニーたちは広い部屋へと出た。
物語はだんだん佳境へ!
ここからもさらに盛り上がっていくところですねー(←自画自賛)!
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