第27話 何も出来なかった俺のことを、英雄だなんて呼ぶんじゃねえっ!(4)
次の日の朝早く、レニーは軍を率いて、その場を離れた。
ケインたち50人。
竜騎士を中心とした50人だけが、その場に残った。
ダーラの大軍を迎え撃つために…。
いや、実際にはダーラに殺されるために…。
地獄のがけっぷちに仲間を置いていく。
レニーはそんな気分だった。
それなのに、残った竜騎士たちの目はまだ輝いていた。
「最後の決戦だ!死ぬ気で守るぞ!」
そんな声が上がっていた。これから数十倍の敵が押し寄せてくると、知っているはずなのに…。
「じゃあな…」
レニーが出発する時、ケインはまるで旅行にでも出るレニーを見送るかのように、平気な顔をして手を振った。
レニーは後ろを向いたまま、手だけ振ってその声にこたえた。
涙が止まらなくて、振り返ることが出来なかった。
「どれくらいの時間、ここを守ればいいんだ?」
最後に大きな声で聞いたケインに、レニーは答えた。
「7日間…。いや、5日間でいい」
ウソだった。
ここからダーラの城へ行き占拠する。
どれくらいかかるか、レニーには分からなかった。
でも、そう答えた。
そして実際には、ケインたちが3日と持ちこたえられないだろうことも、知っていた。
涙でかすむ目の前を何度も拭きながら、レニーはダーラ帝国への道を急いだ。
山や森、時には崖。
できるだけ、ダーラの兵に見つかりにくい道を、レニーは選んだ。
でも、ダーラ帝国の城に近づくにつれて、敵の兵は増えた。
もう奇襲などという、時間のかかることをやっている時間はなかった。
少しでも速く通り過ぎるため、正面から強行した。
そのせいで、味方の兵もバタバタ倒れた。
そう…。不利なのはケインたちだけではない。
レニーたちも、むちゃな戦いを挑んでいたのだ。
レニーは常に一番先頭に立って、魔法で相手を燃やしつくした。
魔法使いは、後ろから魔法で援護する。
そんな教科書どおりの戦い方は、頭になかった。
精神力の続く限り、炎の魔法を連射した。
たった一つのレニーの最大の武器。
炎の魔法だけは、昔から得意だった。
魔法をかいくぐった敵が、何度も剣でレニーに切りつけた。
敵の魔法の直撃を、何回も食らった。
ケガ、やけど…。体中が傷だらけだった。
でも、なぜだか致命傷は受けなかった。
レニーは一瞬、ケインにもらったお守りを思い出した。
たしか幸運のお守りだって、あいつは言っていたな…。
果てしなく続く戦闘。
それでも、レニーたちは少しづつ、ダーラの城へと近づいていた。
出発して5日間。やっとレニーたちは城までたどり着いた。
もう味方は数十人も残っていなかった。
ようやくたどり着いたダーラの城。
でも、ダーラの城は固く門を閉ざしていて、レニーたちに付け入るすきを与えなかった。
ここまでやってきたレニーたちを、恐れていたのだろう。
敵の兵も、城の中から、積極的に戦いに打って出ることはなかった。
時間がない。
でも、一気に攻め入る方法もない。
レニーは届かない炎の魔法を、城に向かって何度も放った。
やがて、レニーは城を占拠することをあきらめるしかなかった。
レニーはまだ元気のあった一人の兵に手紙を持たせて、アスカルトの王のもとへと走らせたのだ。
ダーラ帝国と和平交渉、つまりこの戦争をいったん中止する条約を結ぶためだった。
最後の望み。だが返事は返ってこなかった。
いつまでたっても、相手は城に閉じこもって守ったまま。
こちらの手紙は握りつぶされた。
すでにケインと分かれてから5日間を過ぎていた。約束した5日間。
グズグズしている時間はなかった。
こうしている間にもケインたちは支えきれずに全滅する。
いや、もうすでに全滅しているかもしれない。
全滅したら、相手はレニーたちの元へとやってくるだろう。
城と相手に挟まれた戦い。
もはや戦力も残っていないアスカルトが全滅するのは目に見えていた。
終わった。
負けだ。完全に負けた。
もう打つ手がない…。
レニーはあせって城のほうへと魔法を打ち込む。
もちろん城に閉じこもった相手までは届かない。
さらに2日間が過ぎた。
ケインを破った部隊がレニーたちに後ろから襲い掛かる。
そんな悪夢を覚悟していた。
終わりだ。すべてがおしまいだ…。
でも、なぜだかいつまでたっても敵はやってこなかった。
その次の日、意外なことが起こった。
城から使者がやってきて、休戦条約を結びたいと言ってきたのだ。
停戦。もう戦争は終わりにしようという条約だった。
どうして?
このままいけば、レニーたちアスカルトの軍は全滅するしかなかったはずなのに?
レニーは休戦条約にすぐ飛びついた。
これでいったん戦争を終わりにできるのなら、これ以上の話はない。
でもどうして?
ダーラはどうして今になって休戦条約を結びたいと言ってきたのだろう?
ゆっくり考えている時間はなかった。
条約を結ぶやいなや、レニーはすぐに引き返した。
ケインを置いてきたあの平原へと。
もうケインの部隊が跡形もないことは分かっていた。
あれから8日。
ダーラの大軍を相手に殲滅される他にはありえない。
それでもレニーは走らずにいられなかった。
一刻も早く、ケインの元へと帰るために。
少しでもいいなとか思っていただけましたら、ブックマーク、高評価、感想などいただけますと、作者が喜びます。