第24話 何も出来なかった俺のことを、英雄だなんて呼ぶんじゃねえっ!(1)
目の前には、ダーラ帝国の大軍隊がいた。
1万人にもおよぼうかという、強大な軍隊だ。
そのすぐそばで、レニーたちアスカルトの軍は、森に身をひそめて隠れていた。
その数は千人にも満たない。
差は明らかに思えた。
でも、アスカルトの兵にひるんだ様子はなかった。
逆に身をひそめながらも、目は輝いていた。
ダーラ帝国の軍が、連なって通り過ぎてゆく。
半分を過ぎたあたりで、レニーは魔法を唱え始めた。
「炎連撃」
レニーの手から、炎の球が次々と発射され、ダーラの軍を奇襲した。
それが合図だった。
すぐ後ろから竜に乗った一人の男が、先頭をきって軍に切り込んでいった。
竜騎士軍団。
ケインを筆頭とするアスカルト自慢の精鋭部隊。
その槍が上空から敵を襲ったかと思うと、すぐに地上に降り立ったケインが、槍を振るって、あたりの敵を一掃していた。
それに続いて、アスカルトーの軍が一斉に攻撃にかかる。
不意を突かれたダーラの兵は、陣を崩して、誰もが逃げまとっていた。
アスカルトの兵に攻撃されて、バタバタと倒れていくダーラ軍。
アスカルトの兵はかさにかかって、そんなダーラ軍を責め立てる。
でも、ダーラには次から次へとやってくる、たくさんの兵がいた。
しばらくして、ダーラは体勢を立て直すと、波状攻撃でアスカルトへの反撃を始めた。
レニーはダーラの魔法を、自分の魔法で打ち消しながら、戦況を冷静に分析していた。
最初の奇襲で100人から200人ぐらいの兵は倒した。
幸い、こちらはまだ数人程度の被害だろう。
でも、ダーラはもう体制を整えて、本格的に攻撃に入っている。
レニーもそろそろ相手の魔法を、支えきれなくなっていた。
そろそろ一度引くべきか…。
レニーは迷わず、退却の合図を出した。
アスカルトの兵が戦いながら、引き下がり始める。
アスカルトの魔法使いたちが、それを援護するために、魔法で炎壁や雷壁を作る。
レニーが戦場を見ると、ひとり竜騎士が、敵の奥深くまで突っ込んでいるのが見えた。
まったく…。
ケインのやつは、いつもこうなんだから。
アスカルトの兵が無事に戻ってくるのを横目に見ながら、レニーは戦場を前へと駆けてゆく。
すでにケインは完全にダーラの兵に囲まれて、独りで奮闘していた。
「炎壁」
レニーは魔法で、敵の魔法使いの前に炎の壁を作った。
けん制だ。
これでしばらくは、敵の魔法使いの目をくらませることができる。
ケインが走ってくるレニーに気づいた。
「よう。相変わらずの迫力の炎だな」
のんきなケインにレニーはあきれる。
「あのなあ。一人でこんなところまで突っ込むんじゃない。もう、みんな退却を始めてるぞ」
「え?あ、本当だ。全然気付かなかったよ」
「気付かなかったじゃねえ。お前、そのうち死ぬぞ」
「いいねえ。戦場で死ねるなら、最高だ」
まったく…。懲りていないんだから。
ダーラの兵は、完全に二人を包囲し始めている。
前に剣士と騎士。後ろに魔法使い。
さて、どうする?
レニーは戦いながら考える。
「ケイン、場所を変わるぞ。前の剣士たちは、俺が魔法で一気に片付ける。だから、後ろの魔法使いをどうにかして、道を開いてくれ」
「分かった」
答えるよりも早く、ケインは駆けていった。
「炎壁」
レニーの魔法が、目の前の剣士たちを、あっという間に燃やしつくす。
それを見て、次から次へとやってくるダーラの兵たちが、少しひるんだ。
レニーはちらっと後ろを見る。
ケインも後ろの魔法使いは、おおかた片付けたようだ。
レニーは後ろに駆け寄って、ケインにささやく。
「その場で、やってくる敵をしばらく撃退しておいてくれ」
「分かった。どれくらいの時間だ?」
「20秒」
レニーがさらに後ろに下がる。
しばらくして、レニーが振り返ると、ダーラの兵たちが次々と、ケインに襲いかかっていた。
レニーは目の前に集中する。
目に見える炎の要素を集めて、それが増殖する様子を頭に思い描いていく。
一人で奮戦していたケインが、気合い一発で敵を押し返して、それから走って戻ってくる。
「炎爆」
何かが爆発したかのような、地響きが起こった。
強大な炎が、敵をあっという間に包み込んでいた。
その炎はしばらく燃え上がり、それがおさまった時、あたりには一面の焼け野原に変わっていた。
「いつ見ても、すごいな…」
ケインは焼け落ちた目の前の風景を見て、言う。
「いいから早く戻るぞ。また敵に取り囲まれないうちに…」
レニーはケインの手を取ると、急いで味方のいるところへと戻った。
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