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第21話 どうしてお前は、こんなピンチの時までプロレス技にこだわるんだよっ!

 夜になって…。

 レニーとセシルは、アレシアの平原へと向かった。

 見渡す限りの平原。

 身を隠すところなど、何一つない場所だった。


 かなり真ん丸くなった月が、二人を明るく照らしていた。


「満月かなぁ?」


 そんな明るい月を見ながら、セシルがつぶやいた。


「いや、まだほんの少し欠けている。たぶん、明日には満月になるんじゃないかな」


 レニーが答える。


「明日ですね。楽しみだなー」

「どうして?」

「だって、オオカミさんは満月の夜に赤ずきんちゃんを迎えに来るんですよ」

「…」


 レニーは答えようもないので、とりあえず無視することにした。


 二人は平原の真ん中へと進んでいく。

 レニーは嫌な予感がしていた。


 なにも隠れるところのない平原。

 ワナを仕掛けるには、絶好の場所だった。

 レニーたちが真ん中まで来たところで、まわりから一斉に襲い掛かる。

 そうすれば、レニーたちには逃げたり、隠れたりする場所がないのだ。


 でも、ワナだったとして、誰がそんなワナを仕掛けるというのだろう?

 やっぱりラーサ?レニーには、それは信じられない…。


 そんなレニーの気も知らず、セシルはピクニック気分で、ルンルンと平原を進んでいく。


「お弁当持ってくれば、よかったかな?」


 おいおい。何しに来たんだよ?


 その時だった。

 レニーはかすかな音を聞いた。

 ザッザッザッ。

 人が走ってくる足音のような音。

 それとともに、はるか遠くから黒い人影が走ってくるのが見えた。

 

 三百六十度、あらゆる方向から現れる人影…。

 全部で十人。黒い服を身にまとった、いかにも怪しい男たちだった。

 やはりワナだった。でも逃げ場はない。


「セシル。二手に分かれるぞ。俺は右に走る。セシルは左へ。敵は全部で十人。ひとり五人ずつ相手する」


 セシルにそう言いながら、レニーは右方向へと走っていた。

 セシルも一瞬遅れて、逆方向に走り出す。


 レニーは槍を構えた。

 黒装束の男たちが、近づいてくる。ナイフか?剣か?それとも魔法か?

 

 でも、男たちはレニーのほうにはやってこなかった。

 男たちは全員セシルのほうへと走っていた。セシルが取り囲まれていた。

 しまった。男たちの狙いはセシルただ一人だ。


 レニーはあわててセシルを助けるため、走る。

 だめだ。まったく間に合わない。

 

 黒装束の男たちは、それぞれ魔法を唱え始めていた。


閃撃シエン」 


 十人からいっせいに放たれた雷撃の魔法が、セシルを襲った。


「セシルー!」


 レニーは思わず声が出ていた。

 雷撃は四方八方から、確実にセシルを襲った。

 直撃。セシルに放たれた雷の嵐に、動きが完全に止まった。

 その場にしゃがみこむセシル。


「セシルー!セシル!大丈夫か?」


 レニーは槍で二人の男を切りつけて、セシルのもとへと駆け寄る。


「セシルー!大丈夫か?」


 もう一度叫ぶレニー。

 セシルは、相変わらずその場にしゃがみこんでいた。

 体がかすかに震えていた。


「いったーい!」


 セシルの高い声が草原中に響いた。

 でも、次の瞬間、セシルはすぐに立ち上がって、前にいた男に飛び蹴りで襲いかかった。


 レニーも、セシルの後ろにいた男たちに襲いかかる。

 レニーはさらに二人切りつけたところで、セシルのほうに振り返った。


 セシルは一人の男を倒して、寝技に持ち込んだところだった。

 相手の足を抱えて、膝をがっちり極めている。

 膝十字固め。おいおい、こんな場面までプロレス技かよ。


 右にいた男が、再び魔法を唱えていた。


閃撃シエン」 

「セシル、危ない!」


 雷撃の魔法が、再びセシルに直撃する。

 セシルは一瞬動きを止める。

 でも、またすぐに立ち上がって、魔法を放った男へと駆け寄った。


 駆け寄りざま、セシルは今度は剣を抜いていた。

 セシルの光速の剣が、男の首筋に叩きつけられる。

 レニーもさらに三人の男を切り伏せる。


 それから、レニーが振り返った時、セシルは最後の一人に剣をたたきつけたところだった。


「安心してくださいー。みねうちですー」


 剣をおさめながら、言うセシル。

 みねうち。刃がないところで、剣をたたきつける切り方。

 いや、あの勢いで首に切りつけてたら、みねうちでも死んじゃいかねないと思うけどな…。レニーは思った。


 黒装束の男たちは、傷を負いながら、這うようにして逃げていった。


「セシル…。大丈夫か?」

「もうダメ…。レニー、助けて」


 言葉とは反対に、元気いっぱいにレニーの胸へと飛び込んできたセシルを、レニーはあっさりかわした。


「うそつけ!プロレス技を仕掛けるくらい、余裕だったじゃねえか!」

「えー?私、もう怖くて怖くて…」


 今さらブリっこしても、もう遅い。


 でも、あの男たちは何者なんだろう?明らかにセシルを狙っていたようだ。

 レニーはセシルに聞いた。


「やっぱり、セシルが誰かに狙われているみたいなんだけど…。心当たりない?」

「えー?どうして?私はただの通りすがりの女の子なのに…」


 セシルは、真面目に答える気はないようだ。


 二人は広い平原を、もと来た道へと引き返していた。

 涼しい風が、二人の間を吹き抜けた。

 大きな白い月が、背中から明るく白い光を投げかけて、二人の歩く目の前に長い影を作っていた。


 今度は魔法使い。

 雷系の魔法を使う相手だったな。レニーは考えていた。

 セシルはその直撃を食らって…。あ…。


「セシル。もしかしてセシル、魔法を使えたりしない?」

「えー?どうしてですか?」

「だって、十人もの雷系魔法の集中攻撃を受けて、ケガひとつしていない。セシルが言ったじゃないか。魔法防御が強いのは、普通は魔法使いだって…」


 それを聞いたセシルは、急にその場に崩れ落ちて、座り込む。


「ああ、もうダメ。歩けない…。魔法がきいてきたんだわ」


 あまりにわかりやすい反応に、レニーは苦笑する。


「いや。そんなに遅れてダメージを受ける魔法はない!下手な芝居はやめろ!」

「ひどーい!芝居だなんて…。もう一歩も歩けないんです。レニー、お姫様だっこしてー」

「うそつけ!つい今の今まで、ピンピンしていただろうが…。歩けないなら、朝までそこにいるんだな」


 レニーは、座り込んだセシルを、振り返ろうともしない。


「おにー!か弱い女の子を、こんなところに放っていくなんて…」

「ホントにか弱い女の子は、自分で『か弱い女の子』とは言わない…」

「ひどーい!」


 あきらめたセシルが、走ってレニーのほうへとやってくる。

 ほらみろ。全然平気じゃないか…。


 また、平原に静かな夜が戻ってきた。

 レニーは考えていた。

 あの手紙。「今日の夜七時 アレシアの大平原に来てください」というあの手紙は、やっぱりラーサが書いたものだったのだろうか?

 今日のこのワナは、すべてラーサが仕組んだことだったんだろうか?

 レニーには、やっぱりそれは信じられなかった。


「ラーサが手紙を残して、俺たちをワナにかけようとしたのかな?」


 ぽつりとつぶやいたレニーに、セシルが答える。


「そんなことは、ないと思います…。でも、もしもそうだとしたら、ラーサさん、かわいそうですね」

「え?どうして?襲われた俺たちのほうが、よっぽどかわいそうだろう」


 セシルは小さく首を振ってから、ゆっくりと答えた。


「いいえ。ラーサさんのほうが、かわいそう…。だって、人にだまされるよりも、人をだますほうが、ずっとつらいんですよ…」


 レニーは驚いてセシルを見た。無邪気なセシルの表情は、いつもと変わらなかった。

 ずっと子供扱いしていたセシルが、このときばかりは大人に思えた。



読んでいただいてありがとうございます。


少しでもいいなとか思っていただけましたら、ブックマーク、高評価、感想などいただけますと、レニーがとちくるってセシルをお姫様抱っこでちやほやします(?)。

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