第19話 チョコレートケーキにフルーツパフェ、アイスクリーム、コーヒーを昼食にするのはお前だけだっ!
「まあ。その恰好、どうしたの?」
ずぶぬれのレニーを見て、ラーサが聞く。
「ああ。性格の悪い竜にいじめられたんだよ」
不機嫌に答えるレニー。
横から、セシルも口を出す。
「違いますよ。リリーちゃんは素直ないい子です」
そうかあ?
だいたい、「素直でいい子」の竜なんて聞いたことないぞ。
レニーは心の中で言い返した。
もう昼食の時間だった。
レニーはセシルのテーブルの上を見て、あきれていた。
チョコレートケーキにフルーツパフェ。アイスクリームにコーヒー。
「それが昼食?」
「そうですよ。甘いものは、エネルギーがすぐに吸収できて、疲れも取れる最高の食べものなんですよ」
セシルが平気な声で答える。
いや。普通の食事の後、デザートとして少し食べるのならそれもいい。
でも、食事の代わりに食べまくったら体にいいわけないと思うが…。
セシルの隣では、ファンサーガも大きなパフェに挑んでいる。
「ファンサーガ、お前もか…」
「違いますよ。僕は有無を言わさず、セシル様に勝手に注文されて…」
セシルの冷たい視線が、ファンサーガに突き刺さる。
「いえ。優しいセシル様が、僕の体をいたわって、体にいい甘いものばかりを注文してくれたんです。おいしいな…」
無理に笑顔を作って、言い直したファンサーガ。
もう哀れを通り越して、言葉が痛々しかった。
一方のラーサは、ご飯にもおかずにもほとんど手をつけずに、元気がなかった。
「ラーサ、どうかした?」
「え?ううん、なんでもない」
そう答えながらも、ラーサは考え事でもしているかのように、ぼーっとしていた。
明らかに元気がない。
どこかおかしい。
そう感じながらも、レニーにはどうすればいいのか分からなかった。
やがて、レニーのテーブルにもケーキとパフェとアイスクリーム、それにコーヒーが運ばれてきた。
レニーが目を丸くしていると、セシルがうれしそうに言う。
「ちゃんとレニーの分も、注文しておいてあげました。好きな人と同じものを食べるって、楽しいですよね」
となりでファンサーガが、声を殺して笑っていた。
レニーはとりあえず、テーブルの下で、ファンサーガのケガした足を蹴っ飛ばす。
それから、楽しげなセシルにわざと聞いた。
「好きな人と同じもの?好きな人って誰だ?」
「あー!ひどーい!」
相変わらずラーサは、黙り込んだまま、ぼーっと関係ない方向を見ていた。
本当にどうしたんだろう?
「少しづつコーヒーをチビチビと飲みながら、甘いものを順番に食べていくのが、最後までおいしく食べるコツですよ」
セシルの絶対役に立たなそうなコツを聞き流しながら、レニーはラーサの悲しげな横顔を見ていた。
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