第15話 目の前のたった一人の女の子さえ守れないのなら、世界なんていらない!(1)
やはり、決勝戦はレニーとバロンの戦いだった。
「レニーならきっと大丈夫!自信を持って!」
そう言ったラーサの声は震えていて、レニーには、少しも大丈夫だとは聞こえなかった。
「そうよ。バロンなんてラリアット一発で、マットに沈めちゃえ!」
相変わらず、プロレスと一緒にしているセシルの言葉は、もっとあてにならない。
「バロンだって、これだけの観衆の前で、殺すまではやらない…はず…」
いや、これだけの観衆の前で、さっきまで、散々残酷な殺人ショーを見せつけられただろうが。
レニーは思ったが、ラーサの気持ちは分かるので、何も言わなかった。
「死んだらちゃんときれいなお墓作って、きれいに埋葬して、そしてセシルも死んだら同じお墓に入ってあげるからね…」
もういい…。
お願いだから、何も言わないでくれ。
まるでお葬式のような気分で、レニーは闘技場に向かった。
バロンは楽しそうに待ち構えていた。
「よく逃げ出さずにやって来たな。ほめてやろう」
「逃げられないように、闘技場のまわりを厳重に警備していたくせに。いまさら何を…」
「久々に、心から楽しい戦いができそうだからな。死に方のリクエストは決まったか?」
「できれば、苦しくない方法がいいな」
「なるほど。フルコースでじっくり料理してほしいと…」
だったら、最初から聞くなよ。
レニーは毒づいた。
レニーが槍を構える。
親友だったケインの姿がふと頭に浮かんだ。
戦場。どんな魔法が飛び交う中でも真っ先にこの槍を持って、竜とともに突撃していたあいつ。
あいつは恐くなかったのだろうか?
でも、今のレニーにも恐いものなどないはずだった。
そう、覚悟なんてあのときからとっくにできていたただはずだから。
「光滅弾」
バロンの魔法が飛んできて、レニーのすぐそばで弾けた。
でも、レニーは少し顔をずらして最小限の動きでそれをよけた。
これはバロンの挨拶代わり。
本気で撃った魔法ではない。
レニーも槍を構える。
「光滅弾」
再び飛んできたバロンの魔法をかわしながら、レニーは飛び込んだ。
槍を力いっぱい横からなぎ払う。
バロンは後ろに飛びながら、再び魔法を唱えていた。
「光滅弾」
レニーは力いっぱい飛び上がってその魔法をかわすと、今度は上から槍を突きつけた。
でも、その時にはバロンはすでに次の魔法を唱えていたのだ。
「地底壁」
レニーがかわそうと体をずらししたが、それは下から突き上げてくる壁となって、レニーを突き上げた。
空中へと大きく吹っ飛ばされるレニー。
「光滅連弾」
倒れたレニーを、追撃の魔法が次々と襲う。
レニーは転がりながら、なんとかその直撃をかわした。
でも、レニーもただ防戦一方だったわけではない。
バロンの方へとわざわざ転がって追撃をかわした理由があった。
すぐさまレニーが起き上がったその場所。
それはバロンへと槍の攻撃が届く距離。
「てやっ!」
起き上がった反動で、レニーは槍をたたきつけた。
横から襲い掛かるレニーの槍が、バロンの腕をかすった。
バロンの腕から血が滴り落ちていた。
にらみ合う二人。沈黙のままに動かない二人。
バロンはあきれたような、驚いたような顔をしてレニーを見ていた。
読んでいただいてありがとうございます。
ブックマークや高評価、感想などいただけますと、作者が喜びます。