第14話 お前、本当に全試合プロレス技で終わらせるつもりじゃないだろうな?
闘技場。
中央でセシルのさそり固めが、がっちりと決まっていた。
相手は何度も床をたたいて、ギブアップの意思表示をしていた。
やっと審判が二人を引き離したときには、相手は泡を吹いて気を失っていた。
かわいそうに…。
いや、その前に剣の戦いで、何をどうしたらプロレス技が決まるんだ?
セシルは戻ってくると、つぶやいた。
「つまんないですー。みんな弱すぎですー」
「セシルが強すぎるんだよ」
「ラリアットでしょ。ジャーマンスープレックスでしょ。卍《まんじ》固めに、コブラツイスト。さそり固めと。次は何にしようかな?」
どうやら、全試合プロレス技で決めるらしい…。
でも、レニーもセシルと同感だった。
レニーもちゃんとした試合をしたのは、一回戦のファンサーガ戦のみ。
残りの試合はすべて、一瞬で相手を気絶させて終わりだった。
長い平和のせいだろうか。本当の戦士はもういない…。
「僕みたいに一回戦で負けても、やることがなくてつまらないですよ」
横からファンサーガが口を出す。
この男は、ずうずうしくもレニーたちの場所にちゃっかり入り込んで、ラーサの買ってきた焼きそばを、横からつついている。
「だって、歩けないんだから、仕方ないじゃないですか」
レニーがにらむと、ファンサーガは口をとがらせて答える。
会場では、見る価値のない泥試合が続いていた。
掛け声ばかりで、いっこうに戦いの始まらない試合。
腰が引けて、今にも逃げ出しそうな二人の戦い。
ここは本当に闘技場なのか?
しばらくして、やっと見る価値のある試合…というよりは、むしろ見たくないが見るしかない試合がやってきた。
会場に入ってきたのは、バロンだった。
自信たっぷりにバロンは一瞬、レニーの方を見た。
それから相手の男へと目を向ける。
「光滅弾」
魔法だ。黒い闇がバロンの指先から飛んだ。
その闇は男のすぐそばで爆発して、男を震え上がらせた。
バロンにとっては挨拶代わりなのだろう。
男はバロンに背を向けて逃げ出した。
「光滅連弾」
男の行く手をさえぎるように、バロンの魔法が次々と飛んでいって爆発する。
そのひとつが男を直撃して男が倒れた。
それからバロンはレニーの方をみて、にやりと笑った。
「取っておきのものを見せてやろう…。よく見ておくがいい。お前の未来だ」
バロンが魔法を唱える。
「破滅陣」
それは異様な光景だった。バロンを中心に、あたりが光を失ってゆく。
闇がバロンを、男を包み込んでいった。
すでに立ち上がれない男はその闇に消えてゆく。
闇はどんどん深くなり、真っ暗闇があたりの光をすべて吸い込んでゆく。
闘技場にいる誰も息を殺していた。
どこまでも続く闇と音ひとつない世界。
やがて、その闇が二度、三度と鈍い音をたてて不気味に弾けた。
まだ続く闇。
それからあたりはゆっくりと光を取り戻してゆく。
ようやく光が戻ったとき、そこにはピクリとも動かなくなった男がいた。
バロンは満足そうにその男のすぐ横に立っていた。
その視線はまっすぐにレニーを見ていた。
「どうだ?次の生贄はお前だ」そう言わんばかりの素敵な笑みを浮かべている。
レニーはその視線をまっすぐにに受け止めていた。
こわくない…と言えばウソになる。
でも、ここで視線をそらせば負けた気がするので、睨み返した。
少し意外そうな顔をしたバロンは、やはり自信たっぷりにゆっくりとその場を立ち去っていった。
俺はあの魔法に勝てるのか?レニーは自分に問いかけていた。
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