第13話 お前、今わざと負けようとしたんじゃないか?
槍と鎌がぶつかって、火花を上げる。
はじかれて、体勢を崩すファンサーガ。
レニーが追撃に出ようとする。
しかし…。
足元で、再び鎌の閃光がきらめいた。
トーナメント一回戦。
ファンサーガの鎌はリーチも短く、スピードもそれほどでもない。
それなのに、レニーは苦戦していた。
レニーが攻撃に出ようとすると、きまってカウンター攻撃を食らう。
強い。戦いに慣れている。
道場で練習した?
そんな技じゃない。これは修羅場で戦ってきた技だ。
戦争?それとも暗殺か?
ぶっそうな言葉が、レニーの頭に浮かぶ。
すでにレニーの足と腕には、軽い傷が残っている。
「いけー、レニー!そんなやつ、やっつけちゃえ!ブレーンバスターだ!バックドロップだ!!コブラツイストいけー!!!」
セシルの黄色い声援(?)が、レニーにとんだ。
おいおい、それ全部、プロレス技だろっ。
槍と鎌の戦いで、どうやってやるんだよっ!
レニーは少し間合いをあけて、息をつく。
ファンサーガは、涼しい顔だ。
息もたいして、乱していない。
レニーは冷静になって、一度、ここまでの戦いを分析する。
どうやら足もと、低い攻撃がカギになっているようだ。
レニーが攻撃に出ようとすると、決まって足もとに鎌のカウンター。
それなら…。
レニーは、遠い距離から、槍でファンサーガの足を払いにかかる。
思ったとおり、ファンサーガはジャンプして、上空に飛ぶ。チャンス!
ファンサーガの着地を狙って、レニーは再びやりで足を狙う。
ファンサーガが一瞬ギョッとして、あわててもう一度ジャンプでかわす。
体勢はだいぶ崩れていた。
いける。レニーは槍を構えなおす。
「せいっ!」
着地を狙って、足もとをレニーはやりで急襲する。
でも、その時、ファンサーガがニヤリと笑ったような気がした。
え?読まれていた?危ない?
でも、もう止まらない。ファンサーガは再びジャンプして、上空へ…。
いや、その途中でレニーの槍に、ファンサーガの足が引っかかっていた。
ふくらはぎあたりから、血が流れ出して、ファンサーガは後ろに倒れる。
レニーが詰め寄ると、ファンサーガは鎌を放り出して、両手を上げていた。
「わあー!ストップ、ストップ。殺さないで。まいった。まいった」
審判が試合をとめ、勝負は終わった。
ファンサーガのふくらはぎ。傷は浅かった。
でも…。
レニーはどこか納得出来なかった。
レニーの最後の攻撃。
あれをファンサーガは、かわせたはずだった。
「レニーさん。肩、貸してくださいよ。歩けませんよ」
いつもの、人なつっこいファンサーガの声。
レニーはその声で、ようやく気づいて、手を貸した。
なにはともあれ、一回戦突破。
よかったのか、悪かったのかは、よく分からないが…。
観客席に戻ると、セシルがいきなりファンサーガを殴りつけていた。
「セシル様…。けが人にいきなり何するんですか?」
「私のレニーになにしてくれるのよ?」
「そんなぁ…。負けたのは僕ですよ」
「どうして、早くブレーンバスターとかバックドロップで、レニーに投げ飛ばされなかったのよ。コブラツイストでギブアップでもよかったのに…」
いや、それができるのはお前だけだから。
もしかして、ファンサーガは、セシルのことを気にしてわざと負けた?
レニーはふと思ったが、首を振った。
いや、あの傷は本物だ。ちゃんと歩けてもいない。
わざと負けるなら、もう少しいい方法があるはずだ。
「ごめんなさい…」
ファンサーガは、なぜだかひたすら小さくなって、セシルに謝っていた。
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