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第11話 なんで俺が女の子をさらった極悪人扱いされなきゃいけないんだよっ!

 まるでお祭りのようだった。


 「第五回闘技場トーナメント」。


 屋台がずらっと立ち並び、人がたくさんいて活気に満ちている。


 若い男の姿も普通に見かけた。

 おそらくこの日は、バロンも男たちを解放するのだろう。


 レニーたちは、会場近くまで来ていた。

 もちろんトーナメントに参加するためだ。

 自分も参加して、目立った強いやつをスカウトしてくる。

 それがレニーの考えだった。


「レニー、見てください。わたあめに、りんごあめに、ポップコーンに、たいやきに、たこ焼きに…」


 セシルはあらゆる食べ物を抱え込んでいた。

 よくもそれだけのものを全部持てるものだ…。レニーはある意味、感心していた。


「レニー。食べ物ばっかりのお子様は放っておいて、一緒に『ミニドラゴンつり』やりましょうよ」


 ラーサがレニーの腕を引っ張る。


「『ミニドラゴンつり』?なにそれ?」


 聞いたレニーに、ラーサは屋台のひとつを指差す。


 その屋台には、かなり大きな透明のケースがひとつ置いてあり、中にはミニチュアサイズのドラゴンが数匹うごめいている。

 一人の男が、店の主人らしい人物にお金を渡して、つり竿のようなものを受け取った。

 男はさおの糸をケースにたらした。糸の先には肉がついている。


「ほら。あの肉に夢中になっているミニドラゴンを、気づかれないようにそっと釣り上げるの」


 なるほど。男は慎重に、釣り糸をたぐり上げている。


「で、どうなったら失敗?」


 レニーはラーサに聞いた。

 だが、答えを待つ必要はなかった。

 釣り上げられているのに気づいたドラゴンは、首を曲げて大きく息を吸うと、その反動で男に向かって炎を吹き上げた。

 ゴウ、という音とともに顔中真っ黒になる男。

 「あちち…」という声とともに、男は人ごみの中へと消えていった。


 レニーももちろんその場を逃げ出した。

 あれを見たあとで、チャレンジするほどの勇気はない。


 セシルは相変わらず、目の前の食べ物に夢中だったが、突然大きな声をあげた。


「あっ!あれ、ファンサーガじゃないかな。ファンサーガ…」


 どうやら、知り合いを見つけたようだ。

 セシルは元気よく走っていく。


「ファンサーガ!」

「あ、セシル皇女さまじゃありませんか…ぐふっ…」


 そこまで言って、ファンサーガと呼ばれたその男は、いきなりお腹を押さえて、その場にうずくまった。

 セシルがかけよりざま、ひざ蹴りを食らわせたのだ。

 そのままセシルが、レニーたちのほうを向いて、ファンサーガを紹介する。


「あ、この人、ファンサーガ。通りすがりの女の子セシルの地元の友達ですー」


 セシルはわざわざ「通りすがりの女の子セシル」を強調していた。


「いや、その紹介はめちゃめちゃ不自然だと思うぞ」


 レニーは一応つっこむが、セシルは知らん顔だった。

 やがてファンサーガというその男は、お腹を押さえながら立ち上がり、手を差し出した。


「ファンサーガです。セシル様とは昔からの友達で…イテテテ…」


 セシルが後ろから、ファンサーガの太ももをつねっていた。


「セシルは通りすがりの女の子なんだから、『様』はいらないの。『セシル』って呼んで!」


 セシルがファンサーガの耳元でささやいている。


「おいおい。全部聞こえてるって」


 レニーは苦笑するしかなかった。


 ファンサーガというその男は、比較的小柄でやさ男に見えた。

 ただ、腕も足にも筋肉はしっかりついていて、運動神経は悪くないはずだと、レニーは思った。


 その時、レニーの目にファンサーガの武器が目にとまった。

 小さめの木の柄に鋭くカーブした刃。それはどう見ても鎌だった。それも二本束ねて足につけていた。

 二丁鎌ツイン・ステイル。珍しい武器だ。

 そして、それはあの夜、宿のレニーたちを襲撃した男が持っていたものと同じだった。


 その時、会場にアナウンスが流れる。


「ただ今から、第五回闘技場トーナメントの受付を開始いたします。参加希望者は、正面三番ゲートの受付までお越しください」

「あーっ!受付だ。レニー、いきましょうよ」


 セシルがレニーを呼ぶ。


「ごめん。先に行っていてくれないかな。ちょっと用があるんだ」


 セシルが一瞬不満げな顔をしたものの、すぐに後ろを向いて競技場に向かう。

 ラーサも一緒についていった。

 レニーは二人が見えなくなったのを確認してから、ファンサーガのほうに振り返る。


「さて、ファンサーガ君。君にはちょっと話があるんだ。どういうことなのか、聞かせてもらおうかな?」


 レニーは手にした槍を、ファンサーガの首に突きつけていた。


「え?なんの話ですか?」

「とぼけなくてもいいよ。二日前の夜、俺たちの宿を襲ったやつがいてね。ちょうど君が持っているのと同じ、二丁鎌ツイン・ステイルを持っていたんだよ。珍しい武器だ。そうそう持っているやつがいるとは思えない」

「やだなあ。ただの偶然じゃないですか?」


 あくまでも穏やかに答えるファンサーガ。

 レニーの槍を持つ手に力がこもる。

 槍先がファンサーガのやわらかな首筋に食い込んでいた。


「分かりましたよ。分かりましたから、この槍をどけてもらえませんか?」


 レニーは槍を持つ手を緩める。

 ファンサーガは、ほっと息をついて話しはじめた。


「ふう。強引ですね。たしかに二日前、宿に押し入ったのは僕です。でも、襲うつもりなど、まったくありませんでした。ただセシル様…いや、セシルのことが心配で、様子を見たかっただけです」

「だからって、なぜ夜中にこっそり忍び込む必要があるんだ?」

「だって、セシル様は、槍を持ったいかにも怖そうな男と一緒にいたんですよ。昼間に話かける勇気なんてありません」


 ファンサーガの答えに、レニーは聞き返す。


「その『槍を持ったいかにも怖そうな男』って俺のことか?」

「そうです。当たり前じゃないですか。僕は、槍を持ったいかつい男と一緒に、セシル様が宿屋に入っていくのを見んです。僕はセシル様が心配でした。セシル様は脅されているんじゃないか?いや、誘拐されているのかもしれない?でも、怖そうなあなたの前で、連れ出す勇気はなかった。だから夜中にこっそり忍び込もうと…」


 レニーは少し落ち込んだ。


「俺ってそんなに怖そうに見えるのか?」

「はい。はっきり言って、悪人顔です。何人かは人を殺していそうな顔です。そんな男とセシル様が、一緒に宿屋に入っていくのを見たんですよ…イテッ…」


 レニーは自分でも知らないうちに、ファンサーガを殴っていた。


「あ、悪い。ついつい手が出てしまった」

「ほらあ。それが悪人の証拠ですよ。そんな男からセシル様を守ろうと、僕は意を決して、宿に潜入したですから」


 レニーはそっとあたりを見回した。幸い、知っている顔はない。

 レニーはファンサーガの首に腕を回すと、力まかせに締め上げた。


「ファンサーガ君。俺は悪人でもないし、もちろん人を殺したり誘拐したこともない。本当はやさしい男なんだよ」

「イタイ、イタイ…。この仕打ちが、明らかに悪人じゃないですか」

「いや、これは男どうしの話し合いだよ。俺が本当は優しいことが分かってくれたかな?」

「分かりました。分かりましたから、この腕をほどいてください…」


 ファンサーガの声は、ほとんど絶叫に近かった。

 数分後。誤解も解けて、再び手を取り合って仲良くなったレニーとファンサーガがいた。


 なんとなくファンサーガがおびえたような目をしているのは、きっと気のせいだろう。

 でも、レニーは完全にファンサーガを信用したわけではなかった。

 ファンサーガという男、見かけほど弱くも単純でもなさそうだ…。


「あ、そうだ。ファンサーガ。セシルっていったい何者なんだ?」


 思いついたように、レニーがずっと気になっていたことを、ファンサーガに聞く。


「それを僕の口から言うことは出来ません」


 レニーの目があやしく光る。

 レニーの腕が再び首に巻きついたのを見て、ファンサーガが悲鳴をあげる。


「許してくださいよう。セシル様は怒ったら怖いんですから。この前だって、力いっぱい関節技を食らって、一週間ぐらい歩けなかったんですから…」


 一応、レニーはファンサーガを締め上げてみるが、ファンサーガの口は堅かった。

 まあ、いいか。そのうちに分かるだろう。

 レニーはファンサーガを放り出すと、闘技場受付へと歩き出した。


「待ってくださいよう…」


 ふらふらしながら、ファンサーガもあとに続いた。


読んでいただいてありがとうございます。


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