第107話 束の間の平和な日々
タナシス山頂の屋敷。
朝のまぶしい日差しが差し込んでいた。
その庭では、ロミーとゼノが互いに剣を持って、実戦練習をしていた。
ロミーが剣を持っている?
その珍しさに、レニーが声をかける。
「珍しいですね。ロミーさんが、剣の練習ですか?」
「ええ。今回は痛感しました。僕もこのタナシスの防衛に、少しでも役に立てればいいなと思ったんです。ですから、少し剣の練習もしておこうかと・・・。あ、もちろん、魔法も練習するつもりですよ」
ロミーは今回のことで、タナシスの町を守ることに、使命感を感じたようだ。
まあ、無理もないことではあるが・・・。
今回の犠牲となったジュリアは、ロミーの手で、この町の魔法石の鉱山の奥深くに埋葬された。
ロミーはその墓に手を合わせるとともに、この町を守り続ける決意を強くしたようだ。
そんなロミーに、レニーは言う。
「そういえば、ロミーさん。ひとつ聞きたいことがあったんです。あのとき、僕が極冷のエリオスと対峙していたとき、ロミーさんはエリオスの魔法を魔法無効して、僕を助けてくれましたよね。その後、ロミーさんはいびつな形をした、ピンク色のものすごい魔法を撃ちました。草原中を揺るがす、ものすごい魔法でした。あれは、なんだったんですか?」
「さあ・・・。実は僕にもよく分からないんです。あのときはジュリアさんが動かなくなって、いろいろなことが胸をよぎって、気がついたら、あんなものすごい魔法が発動していたんですよね・・・」
「えーっ!そんなの、決まってるじゃないですか。あれは『愛の魔法』ですよ」
横から口を挟んだのはセシルだった。
「愛の魔法?」
「知らないんですか?男の子と女の子が、本当の愛で結ばれたとき、その力が解き放たれる。愛の力は無敵なんです。愛の力は絶対なんです。だからあのとき、ロミーさんとジュリアさんの心が結ばれたあのとき、莫大な威力の魔法が発動したんですよ」
自信いっぱいに答えるセシル。
でも、レニーもどこかでそんな話を聞いたことはあった。
ただ、怪しい噂として信じていなかっただけだ。
愛の魔法?
そんなものが本当にあるらしい。
目の前で見たレニーとしては、信じないわけにはいかなかった。
「そうだ、レニー!私たちもはやく本物の愛で結ばれて、ものすごい『愛の魔法』が撃てるように特訓しましょう!」
セシルが早速、レニーへと飛びかかる。
そんなセシルを、レニーはジャーマンスープレックスにて放り投げたのだった。
庭には、出発の準備を終えたラーサも出てきた。
レニーたちは、これからこの屋敷を、ここタナシスの町を旅立つつもりだった。
ワーレンの軍も、すでに壊滅的なダメージを受けて、簡単には修復できまい。
このタナシスの町を狙うことも、しばらくはないだろう。
なによりもロミーとゼノ。
彼らは強くなった。
彼らがいれば、この町はずっとずっと守り続けることができるだろう。
レニーはそう思っていた。
また戻ってきたいつもと変わらない朝。
レニー、セシル、ラーサ、竜の4人(3人と1匹)は、ロミーとゼノに別れを告げて、屋敷を立ち去ったのだった。
行き先はワーレンのすぐ北にあるネールセン。
珍しいことに、ファンサーガからの呼び出しだった。
別に急ぐ必要はない。
4人は暖かな日差しの中を、ゆっくりとあるいた。
久しぶりの平和な日常。
レニーはこんなゆるやかな日々を、いつまでも満喫していたいと、心に願っていたのだった。
< 第2章 ロミオとジュリエットは、いつまでも2人で仲良く暮らしました・・・で間違いないです(?!) ~終わり~ >
第2章 終わりましたっ!
思ったより少し長くなってしまいました。
無事終わってよかった、よかった…。