表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
105/107

第105話 守るべき大切なものを探して…(1)


「ワーレンの軍によるタナシスの総攻撃。それは失敗に終わりました」


 シーラはその報告を聞いても、意外だとは思わなかった。

 昨日、ジュリアとロミーが、シーラのもとに現れなかったこと。

 そこから想定できる結果だったからだ。

 でも・・・。


 それでもシーラには意外だった。

 ジュリアは、自分の身を犠牲にしてさえも、タナシスを守ろうとしたのだから。

 いや、ジュリアが本当に守りたかったのは、透明のロミー・・・彼と、そのプライドだったのだろう。

 いずれにしても、シーラにはジュリアの気持ちなど分からなかった。


 シーラは、ジュリアに出会った日のことを思い出していた。

 まだ少女のジュリアは、行くあてもなく町から逃げ出してきた。

 そんなジュリアにシーラが声をかけたのだった。


「もしもお前が『大切なものを守れる強さ』が欲しいのなら、ついてくるといい」


 そして今、ジュリアは「大切なものを守れる強さ」を手に入れたということか・・・。


 シーラには、守るべき「大切なもの」などない。

 自分でずっとそう思っていた。

 でも、ジュリアの死を知ったとき、なんとも言えない胸の痛みを感じたのだ。


 もしもジュリアとロミーが、ワーレンノ城まで来ていたならば、シーラは2人に解毒剤を渡した上で、解放しただろう。

 その後は、2人で自由に生きればいい、本当にそう思っていたのだ。

 諜報員スパイなんて、ずっとやるべき仕事じゃない。

 ジュリアにそう言ったのは本音だった。


 いずれにしても、タナシスの攻略は失敗した。

 責任は自分にある。

 相応の責任を、とらされることになるだろう。


 そんなことを考えていた矢先に、ひとりの男が現れた。

 サディアス。

 ワーレンの諜報機関のナンバー2。

 シーラの後釜を虎視眈々と狙っている。

 いや、もうワーレンの諜報機関は、すでに彼の手の内にあると言ってもよかった。

 あとは、ナンバー1であるシーラを追い落とすのみ。


 本当は、サディアスが、裏でダーラ帝国とつながっていることを、シーラは知っていた。

 サディアスは、ダーラ帝国から援助された莫大な金を使って、諜報機関に味方を増やし、権力を牛耳ってしまったのだ。

 ただし、証拠はない。

 しかも、今やワーレンの諜報機関の人間は、ほとんどがサディアスの味方だった。

 簡単にはシーラにも手が出せなくなっていた。


虚無きょむのシーラ様。王様がお呼びです」


 わざとらしいうやうやしさで、サディアスがシーラに頭を下げた。


 分かっていた。

 失敗の責任をどうするかという話だ。

 そして、それはサディアスに、諜報機関のナンバー1を渡す結果しかなかった。


 サディアスが仕切る諜報機関。

 その場所にシーラの居場所などないことは、分かっていた。


 シーラは窓から外を見た。

 気持ちいいほどの快晴だった。

 なにかをやり直すには、ちょうどいい天気に思えた。


 シーラは部屋を出て、廊下を歩いた。

 突き当たり。

 左に曲がれば、王様の待つ部屋。右に曲がれば、城の出口。


 さて、どちらに行くべきか?

 シーラは袖口に隠した小さなナイフを、手のひらへと握り込んだ。

 少し立ち止まるシーラ。


 それから彼は、ゆっくりと右への道を歩き始めた。


 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ