第104話 その町を守ったのは…
「カルノーの終焉」
エリオスの呪文が唱えられた。
その瞬間、爆発的な冷気があたりへと広がっていった。
エリオスを中心にして、空気が真っ白に染まっていく。
レニーのまわりも、真っ白だった。
何も見えない。冷気の爆発。
レニーはなんとかしようとしたが、あまりにも速すぎて、その場に立ち尽くすだけだった。
一瞬、手足や顔に痛みが走ったものの、すぐに麻痺していく。
自分が凍らせられる恐怖だけが、レニーの頭を駆けめぐった。
絶体絶命。
今度こそ、間に合わなかった。
ごめんよ、ラーサ。
ごめんな、ケイン。
俺もそちらに行くことになりそうだ・・・。
レニーがあきらめかけたそのとき、急に目の前の視界が晴れていった。
白い雲のような霧が、急速に消えていく。
えっ?なんだ?
どうして?
なにがが起こったんだろう?
「レニー!レニーーーーー!!!」
遠くからかすかに声が聞こえた。
これは・・・ラーサ?
ラーサが戻ってきた?
かじかんだ体を無理矢理ねじって、後ろを振り向いた。
竜に乗ったラーサがいた。
そこにはジュリアを担いだロミー、そしてなぜだかセシルまでいた。
間に合った・・・。
ラーサがロミーを連れて戻ってきたのだ。
だから、ロミーの魔法無効。
その特殊能力で、エリオスの魔法が無効化されたのだ。
凍りついた水蒸気が地上に落ちて、草原に再び澄んだ空気が戻っていた。
「ばかな・・・。そんな・・・」
エリオスは呆然として、レニーを見ていた。
「カルノーの終焉」
もう一度、魔法を唱えようとするが、その魔法は発動しない。
ラーサたちは、確実にレニーの方へと近付いていた。
うろたえながらも、エリオスはなぜだか魔法が使えなくなったことを理解したようだった。
それでもエリオスはあきらめない。
彼は自分の剣を抜いて、なおも、レニーへと斬りかかってこようとした。
そのとき、後ろから魔法が飛んできた。
いびつな輪のような形をした、ピンクの魔法。
そのハート型の輪は、レニーとエリオスをぐるっと取り囲むと、そこから外側へと大爆発を起こした。
はっきりと分かるくらい、地面が揺れていた。
信じられない規模の大爆発。
草原中を包み込むレベルの大爆発。
その爆発の中で、レニーとエリオスは思わずしゃがみ込んで、自分の身を守ろうとしていた。
でも、爆発はなぜだかハートの外側へと向けられていたので、内側にいるレニーとエリオスには害はなかった。
ようやく爆発の揺れがおさまった頃、ロミーがゆっくりと歩いてきた。
ロミーは、目を閉じて動かないジュリアを抱えていた。
ロミーの目は真っ赤で、その瞳からは涙が絶え間なく流れていた。
「今のは警告だ。今日の僕は、機嫌が悪い。早く目の前から消えろ!」
ロミーがエリオスに言う。びっくりするほど低い声だった。
エリオスはロミーを見て、レニーの方をもう一度見てから、逃げるように去っていった。
草原に残されたのは、レニー、ジュリアをかついだロミー、竜にラーサ、そしてセシル。
いつものメンバーだった。
なんとかこのタナシスの町は、そして魔法石の鉱山は守りきれたようだ。
レニーはその場に座り込んだ。
聞きたいことはいろいろあったけれども、今はただ休みたかったのだった。