第101話 私は最高に幸せだったの…。ううん、最高に幸せなの…(1)
ロミーとジュリア。
2人は道の途中のカフェにいた。
まだまだタナシスを出発したばかり。
道のりは遠い。
ロミーとジュリアは、それぞれ紅茶を飲みながら、1皿のパンケーキをつついていた。
「ねえ、ジュリアさん。これからどこへ向かうんですか?」
ロミーが無邪気に聞く。
まるでこれから、遠足にでも出かけるような顔だ。
少年のような無邪気な笑顔。
まさしく、もっともロミーらしい表情だ。
これからジュリアは、ロミーに本当のことを話すつもりだった。
その後でも、ロミーはこのままの表情でいれるのだろうか?
ジュリアは、そんなことを考えていた。
覚悟は出来ていた。
いや、ありえないほどの覚悟をして、先にジュリアを迎えに来てくれたのは、ロミーの方だったのだ。
ここでジュリアが覚悟を決めないことは、失礼だと思った。
ジュリアは紅茶を一口。
それから少し息を吸い込んで、ゆっくりとロミーに話した。
「これから私たちは、ワーレンに向かうのよ。ワーレンの城、そこでは虚無のシーラが待っている」
ロミーはシーラの名を聞いても、表情を変えなかった。
覚悟は出来ている、ということだろう。
ジュリアは話し続けた。
「私がワーレンにいかなければならない理由。それは解毒剤が必要だから。シーラは昨日、私に毒を飲ませたの。私が逃げられないように。そして、私が確実にロミーを連れて、ワーレンまでやってくるように仕向けるために」
「なんて卑劣なことを!」
ロミーが怒って、反射的に立ち上がる。
ジュリアは自分のために、ロミーが怒ってくれたことがうれしかった。
「ううん、諜報員の世界では、だまされた方が悪いのよ。私の注意不足。実力不足だったの」
「でも・・・それでも、味方に毒を飲ませるなんて、そんなことがあっていいはずがない」
いかにもロミーらしい、純粋な考え方だった。
「ありがとう。でも、実際に私は毒を飲まされた。放っておくと、私は明日にも死んでしまうって」
「だったら、急いで、ワーレンに行きましょう。もちろん、僕も一緒に行きます。ジュリアさんのために、解毒剤を手に入れる。シーラが渡さないと言うのなら、ちからずくでも奪い取ってみせます」
虚無のシーラ相手に、ちからずく?
ジュリアには、考えたことさえなかったような方法だった。
でも、もしかしたらロミーなら可能にしてしまうのだろうか?
いや、そんなことはありえない。
でも、ジュリアはうれしかった。
ロミーがそう言ってくれただけで、涙で視界がにじむのを止められなかった。
「ジュリアさん、どうしたんですか?僕は、なにかジュリアさんを悲しませるようなことを、言ってしまいましたか?」
「ううん、なんでもない。ただ、少しうれしかっただけ」
怪訝な表情のロミー。
それからロミーは、小さく「お手洗い」と言って、席を立った。
残されたジュリア。
本当は分かっていた。
たとえワーレンの城でも、虚無のシーラのもとでも、ロミーが一緒に行くと行ってくれることは分かっていた。
どこまででもロミーは自分を守ってくれる。
私のことをいつも一番に考え、命をかけてでも、私のことを守ってくれる。
それはジュリアがずっと探し求めていた男だった。
「女なんて利用するもの。一瞬の快楽のために、ただ一緒にいるだけだ」
シーラの口癖がジュリアの頭に響く。
でも、もう迷わなかった。
ジュリアは自分で答えを見つけたのだから。
ジュリアはポケットから、茶色い液体の入ったビンを取り出した。
それはシーラが昨日、ジュリアに渡したもの。
「それはお前が飲んだものと同じ毒だ」
シーラはそう言っていた。
ジュリアは天井を見上げて、じっと考え込んでいた。
それから、そのビンを開けて、中の液体を紅茶のカップへと流し込んだ・・・。