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第10話 何の根拠もないくせに、どうしてそこまで俺を信じれるんだよっ!(2)

 それはレニーの脳裏にくっきりと残る昔の記憶。


 五年前。アスカルトの戦い。

 千人に満たない味方の前に現れた、一万人以上の敵。

 思わず逃げ出したくなったレニーに、あいつは涼しい顔で言った。


「大丈夫さ。一人当たり十人。俺たちにとっちゃ難しい話じゃない。それに、これは必ず最後には勝つ戦いだ」

「どうしてそんなことが分かるんだよ」

「だって、昔から決まってるんだぜ。最後は『正義が勝つ』んだ」


 こいつはバカか?

 いまどき、子供だってそんな言葉信じないぞ…。レニーは思った。


 でも、ケインは本気でそれを信じていた。

 そういう男だった。

 そして、そんなケインをレニーは嫌いではなかった。


 少し気持ちは楽になっていた。そう、たった十人。いつもどおりにやれば・・。

 左からケインは敵集団に飛び込んでいった。

 レニーは後ろから援護した。


 ケインの竜の槍にかかってバタバタと倒れてゆく敵を、レニーは幻を見るかのように見ていた…。




 レニーは何も言わずに、ラーサの手を離すと、席に戻った。 


「どうしたの?怒ったの?あきれているの?」


 レニーの顔色を心配して、ラーサが聞く。


「いや、なんでもない。ちょっと昔を思い出しただけだ」 


 レニーは、すぐ横に立てかけてあった竜の槍を横目でちらりと見た。 


「暗黒のバロンかぁ。一度、会ってみたいと思っていたんだ」


 横からセシルがのんきな声をあげた。


「そんな気安く言うなよ。殺されるかも知れないんだぞ」

「殺されちゃうかな?それも面白いかも…」


 殺されるのが自分じゃないと思って、気楽なことを…。


「セシルだって巻き添えを食って、殺されるかも知れないぞ」


 レニーは少し怖い顔をして、セシルを脅す。

 でもセシルは、まったく動じなかった。


「いいですねー。一緒に死にましょう」


 セシルはレニーの腕を、自分の体にぎゅっと押し付けた。





「ちょっと待て。なにかおかしくないか?」


 夜になって…。

 昨日と同じ部屋のベッドに寝転がったレニーは、やはり昨日と同じことをつぶやいた。


「えー?なにがですか?」

「なにが?」


 レニーのすぐ横から、セシルとラーサが同時に答える。


「なにがって…。ひとつの部屋に男と女。いや、それを通り越して、ひとつのベッドに男一人と女二人。絶対におかしいだろう!」


 そう。レニーたちはひとつのベッドに、仲良く並んで寝ていたのだ。

 真ん中にレニー。その右どなりにセシル。左側にはラーサ。

 二人ともレニーの腕をしっかりとつかんでいる。


「別におかしくありません。みんなで仲良くすることはいいことだって、よくお母さんが言ってました」


 セシルは平然と答えた。


「いや、そういうことじゃなくて…」


 言いかけて、レニーはあきらめた。

 セシルになにを言っても無駄だと悟ったからだ。


 レニーはため息をついて、それからラーサに聞いてみた。


「ラーサも、赤ずきんちゃんがオオカミさんに襲われちゃうってお話を知っているのかな?」

「もちろんよ。レオネシアの女の子のバイブルじゃない。女の子はみんなおしゃれして、かわいくみえる笑顔の練習をして、白いドラゴンに乗ったオオカミさんが迎えに来てくれるのを待っているんだから。早く迎えにきてね。私のオオカミさん」


 ラーサはレニーの腕を引っ張る。


「ああ、ずるい!このオオカミさんは私のオオカミさんなんだから」


 セシルも負けじとレニーの腕を引っ張る。


「なによ。セシルは剣も持っていて、ちゃんとした戦士なんだから、いい青ずきんちゃんになれるわよ。がんばって勇者の称号を目指してね」

「そっちこそ。ラーサは頭よさそうだし、黄ずきんちゃんになるべきよ。キャリアウーマンがお似合いなの」

「残念でした。私、頭悪いし、お勉強嫌いなんだ。おしゃれとかわいさしかとりえないみたい。赤ずきんちゃんにしかなれないわ。ねえ、レニー」

「ずるーい!私だって、剣もそんなに強くないし、魔法は死ぬほど嫌いだし。がんばっておしゃれして赤ずきんちゃんになるー」

「いたい!いたい!二人してそんなに腕を引っ張るんじゃない!」


 レニーがたまらず悲鳴をあげた。


 いったい、なんの自慢をしあっていることやら。


 窓の外には、昨日よりも少しふくらんだ月。

 その白い美しい光が、室内にも入り込んでいた。


「ごめん。ちょっと手を離して」


 レニーはベッドから起き上がると、立ち上がって窓のカーテンを閉めた。

 室内を暗闇がおおう。

 さらにレニーは部屋のドアに向かって、鍵がかかっていることを確かめる。


 レニーは昨日の侵入者を思い出したのだ。

 昨日、何者かがおそらくセシルを狙って入り込んだ。

 さらに、今日はバロンの手のものに襲われる可能性もあった。用心するべきだ。


 レニーはベッドに戻ると、セシルに聞く。


「セシル。実は昨日の夜、鎌を持った男が入り込んできたんだけど…。誰かに襲われる心当たりないかな?」

「きゃー、こわーい!レニー、私を一生守って…」


 セシルはここぞとばかり、レニーに抱きつこうとするが、あっさりレニーにかわされる。


「あのな。こっちはまじめに聞いているんだけどな。まあ、いいや」


 レニーはあきらめて、天井を見つめる。

 この少女は何者なんだ?また襲われたらどうするか?

 まあ、なんとかなるだろう。レニーは考えるのをやめた。


 静かにゆっくりと時間が過ぎていく。

 しばらくして、セシルの寝息が聞こえた。


「むにゃ、むにゃ。ソフトクリーム…。チョコレートパフェ…」


 どうやら今日は、甘いものの夢でも見ているらしい。

 昨日みたいにプロレスじゃなくてよかった。また蹴られたらかなわない。レニーは少しほっとした。

 ラーサも静かに寝入ったようだった。

 いつもの大人っぽい表情と違って、寝顔は意外に無邪気だった。


 この女のせいで、自分までバロンに追われる身になってしまった。

 でも、不思議と怒りは感じなかった。むしろ悪い気はしていない自分に気づいていた。


 セシルと出会い、ラーサに出会って、いきなりドタバタの続いた二日間。

 でも、意外に楽しかったかな…。レニーはそんなことを考えていた。


 その時、セシルが眠ったまま、突然声をあげた。


「むにゃむにゃ…。ショートケーキアターック…」


 レニーは、セシルのいきなりのひじうちを食らって、せきこんだ。

 なんだその技は?


 訂正。セシルと出会ったせいで、やっぱりろくなことがない…。




読んでいただいてありがとうございます。


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